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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社崩壊編Ⅰ
101/263

サバイバルにて(其の参)

 作戦開始からすでに37分が経過。

 森に火が激しく燃え広がり、ほぼ山火事と同等の大火事になりつつあった。

 森の中の動物達が騒がしい。

 たまに悪魔教信徒が占拠している漁村に野生動物が飛び出てくると即座に撃ち殺され肉を剥ぎ取られる。


「きゃはは、こいつぁ良い。大量の肉が手に入るぜ」


「これは良いですね。今度、他の島でも試してみましょう」


「だが、この島に逃げ込んだはずのガキが現れねぇな」


「小隊を組ませ島の外周を調べたほうがよろしいのでは?」


「ちっ、それしか無いか」


 悪魔教信徒たちの動きが変わったことに気付くカノープス。

 今まで小型艇の側から離れようとしなかった4名も移動を始めた。


(森の中ににゃろ達が居ないと信じ、二手に別れ島の周辺を探るつもりかにゃ? ムジカはまだ海の中。当分、出てこないのは分かりきってるにゃ。森の方角は近付くことも出来ないほど暑いにゃ。にゃろも海中に隠れ奴らがここを離れるまで待ったほうが良いにゃ)


 カノープスは迷った。

 何故ならば彼女は泳ぎがそれほど上手くはなく、また幻術も水中では強制解除されてしまうためである。

 考える時間は無制限ではない。

 すでに7名の信徒がこちらに向かって歩いて来ている。

 海岸の反対側はすでに火の海。

 対する海岸はその名の通り海。

 

(もう半数は反対側から島を一周するつもりだにゃ。これでは挟撃されるのも時間の問題……考える暇なんて無いにゃ!)


 カノープスは海の中に飛び込み悪魔教が通り過ぎるのを待つ。

 だが、水中から地上の様子がよく見えるはずもなく息も長くは続かない。

 

(ごぼっ……考えが浅はかだったにゃ……も、もう限界にゃ)


 海面へ急ぎ上がろうとするも息が持たず溺れてしまうカノープス。

 薄れゆく意識の中で唇に何やら温かい感触がした。


(……ム……ジカ……???)


 カノープスが潜る以前から水中に居たムジカは彼女に自分の呼吸を渡す。

 ムジカは1時間近く潜っていられるほど常人以上の体力を持っていたため、まだまだ余裕のようだ。

 カノープスは薄れゆく意識から回復すると、ムジカの手を掴み小型艇のある方角へ泳ぎ連れて行くよう手で指示をする。


(ムジカにハンドサインが理解できるか心配だにゃ)


 ニコッ


 ムジカが満面の笑みで返したことでカノープスは自分の意図が伝わったのだと確信した。

 だが、そうはならなかった。

 何故か島から離れ悪魔教信徒の目が届かないほどの沖へ出たときに海面へ浮上する。


「カノちゃん、泳ぐのって凄く楽しいの! 海の中、とても綺麗でムジカ感動したの!」


 相も変わらず楽しそうに話すムジカ。

 カノープスは呆れ果て怒る気力さえ失っていた。


「ムジカ……」


「次の作戦なの。早く教えるの」


「にゃろと一緒に小型艇のあった場所へ行くにゃ」


「わかったの! ムジカ、頑張るの!」


 カノープスの手を繋ぎ再び海岸へ泳ぎ進むムジカ。

 

「わっぷ、ごぼっ! もう少し、ゆっくりにゃ! にゃろは泳ぎが下手にゃ」


「大丈夫なの! 溺れる前に辿り着くの!」


 ムジカはまだまだ有り余る体力で圧倒的な速度で海岸へ戻る。

 その速さはもはやイルカと同等の速度に達していたなど誰も知りはしない。

 そして、小型艇の置いてある場所に着く。

 そこに悪魔教信徒の姿はなく、火の海が漁村にまで及び悪魔教に襲われた男性たちの遺体が激しく燃えていた。


「この島はもう危険にゃ。急いで離れるにゃ」


「この船、どうやって動かすのかわかんないの。櫂が無いから漕げないの」


「これは蒸気機関で動く船だにゃ。にゃろに任せるにゃ」


 陰陽術で熱を発生させ小型艇を動かすカノープス。

 その音に気付いた悪魔教信徒たちが走って戻ってくるのを遠目から確認する。


「ムジカ、隣の船を破壊するにゃ」


「分かったの!」


 バコォォォン


 いとも簡単に小型艇を真っ二つに叩き割るムジカ。

 悪魔教にかける慈悲など無い。

 美心に言われた通り命令を遂行する最も最適な方法を実行に移したのだ。


(自らが行った過ちで死ぬといいにゃ。他に島を脱出する船は無い。火を付け島を焼いたことを後悔するといいにゃ)


「ちくしょぉぉぉ! 貴様ら―――!」


「待って! 助けて、助けて! いやぁぁぁ!」


 島に残された悪魔教信徒たちの悲鳴だけが聞こえる。

 そして、カノープスが想定していない出来事が起こる。


 ドカァァァン!


「にゃにゃ!? 何の音にゃ!?」


「カノちゃん、島が噴火したの」


 口永良部島は今も噴火が続く活火山である。

 森を燃やしたことで地上熱が変化し噴火を引き起こした。

 悪魔教信徒の軽はずみな行動が招いた結果であった。

 カノープスは目を輝かし感動した。

 叡智の書に記してあった内容を実際に目の前にし自然と涙がこぼれ落ちるほど感動した。


(こ、これが……爆発オチ!? す、素晴らしいにゃ! 主の言う事はどれも正しいことばかりなのにゃ!)


 カノープスの美心への忠誠心が爆上がりした瞬間である。


「いぇ―――い! この船、凄く早いの!」


「無事に戻るまで任務は終わりじゃにゃいにゃ。本土に戻ってカカシマヤから連絡を入れるにゃ」


「はいなの! ここからなら薩摩藩にあるカカシマヤ29号店なの」


 その後、無事にカノープスとムジカが京都へ戻ってきたのは3か月後のことであった。

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