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テンプレ勇者にあこがれて  作者: 昼神誠
結社結成編
10/263

寄宿舎にて

 講堂から解散し各自、自室へ戻っていくスターズたち。

 隊員が居なくなったのを確認し比奈乃が美心に話しかける。


「お婆ちゃん、今日一日で終わらないごっこ遊びなんて凄いスケールだね」


「え、ごっこ遊び!?」


「ふぅ、そんなところだろうと思ったよ。ひな」


 巴と静はそっと胸をなでおろし安堵した。

 だが、このごっこ遊びがまだ始まったばかりだということを2人は知らない。


「比奈乃の遊びに付き合ってくれてありがとな。2人は下宿だろ、夕食を用意させるから食べていきなさい」


「良いのですか? 昨晩に続きそんな……悪いです」


「俺からの感謝だ。気にするな」


「静、ええやん。ご馳走になろうや」


「パパとママがそろそろ帰ってくるからみんなで食べれるね。お婆ちゃん、あたしたちお庭で少し遊んでくるー」


「おぅ、気をつけろよ」


 講堂には比奈乃と巴・静だけが残る。

 玉座風車いすもステージに置いたまま美心は講堂を出て、誰にも見つからないように警戒しながら自室へ戻る。


 ぐぅぅぅ……


(あんだけ大量に食ったのにまた腹が減ってきたな。やっぱ、力を解放すると燃費が悪いぜ。夕食まで2時間も無いし……食後に巴と静を下宿先へ送り届けた後、夜の祇園へ繰り出してパパ渇でもすっかな。夕食だけじゃ絶対食い足りねぇし)


 良心的な男性の心を弄びATMとして利用する、今は財力もあるのだから本来ならば1人で出かけて好きなものを食べれば良い。

 だが、美心は成功を手に入れるまで自身の美貌を利用しパパ活女子として生きてきた。

 彼女は、他人の金で食う飯ほど旨いものは無いと信じて疑わないのであった。

 もちろん過去には助平心で近付いてくる者も居たが、美心の力で一撃粉砕され身体は清いままである。


 一方その頃、寄宿舎に戻ったスターズたちは皆自室に戻り身体を休めていた。

 ただ一部の者たちは疲れた身体を休ませるよりも先に成すべきことがあった。

 図書館にシリウス・リゲル・ベガ・レグルス・プロキオンの5名が席を囲う。


「集まったわね。さぁ、偉大なるマスターから新しい任務を承った以上、今後の予定をある程度は立てておきましょう。昨晩のような失態を侵さないためにもね」


「ああ、それは僕も賛成だね。昨晩は現地で行動を決めていくしか無かった。言い訳にはしたくないが、ある程度の準備ができていれば成功の確率はずっと高かったはずだよ」


「うぅん、わち眠いよぉ」


「ベガ、また任務を失敗してもよろしくて?」


「拙者、皆に聞きたいことがあるのだが……先程のマスターのお言葉で仰られたアクマとは何なのだ?」


「プロキオン、マスターのお記しになった叡智の書をまだ読んでいないのね。以前から言っているでしょう、筋トレばかりでなく読書も少しはしなさいって」


「拙者は文字が読めぬのだ。それに誰かから聞いたほうが早かろう」


 叡智の書、それは美心自身が執筆した設定資料集である。

 美心は転生前の年齢を合わせると精神は120歳に至る。

 それほど長い年月を生きると転生前の記憶でいくつか思い出せないことに気付く。

 このままでは不味いと転生前に読み漁った小説の設定などを記したものがスターズ達の間では叡智の書と呼ばれている。

 美心にとっては単なるメモ程度のものに過ぎないが、この時代の者にとってはそれは知りもしない内容ばかりですべてが美心の目で見た真実だと信じて疑わなかった。


「悪魔、いわゆる魑魅魍魎に近い存在だと言われているわ」


「魑魅魍魎だとっ!? 拙者は目にしたことは無いがそなた等は有るのか?」


「妾は無いわよ」


「僕も見たこと無いね」


「むにゃむにゃ……わちもぉ」


 誰も見たことがない、それは当然のことである。

 幽霊や妖怪などそう簡単にお目にかかれるものではない。

 霊感があれば違ったかも知れないが、彼女達は他人より運動神経が良く美心から戦闘訓練を受けている娘に過ぎない。


「そんな類を相手に拙者達は何をすれば良いのだ?」


「ほら、叡智の書のここに……」


 シリウスが叡智の書を開きあるページを指差す。

 そこにはこう書かれていた。

 

「悪魔の習性として不幸で欲深い人間のもとに近寄り契約を交わすことがよく知られている。契約を交わした人間は望んでいた力が手に入るが変わりに寿命を何年か失う……そうか!」


「くすっ、リゲルはもう分かったようね」


「いや、拙者にはまったく分からん」


「妾も分からぬ」


「くぅ……すぴー」


「はぁ……リゲル、みんなに分かるように教えてあげて」


「仕方がないね。良いかい、この叡智の書によると悪魔は不幸な人間のもとに近付くんだ。でも、僕たちはまだ出会ったこともない。それは何故だが分かるかい?」


「妾たちは幼い頃に捨てられたり身売りされたりした娘たちが大半じゃが……」


「そこだよ、幼い頃の不幸では悪魔は近付かないんだ。なぜなら不幸でさらに欲深いというところがポイントだ。僕もそうだったけど君たちもただ生きたいというところをお母様に救われた、違うかい?」


 リゲルの言葉を聞き、レグルスとプロキオンは唖然とした。

 ベガは睡魔に負け机の上に涎を垂らしながら眠りこけていることに誰も気が付かないほど悪魔の恐ろしさを知ったようだった。


「つまり、生きたいという望みは欲深さに入らない?」


「拙者は大人に取り付くと解釈したが?」


「ああ、欲深いとだけ書かれているのはマスターがどういった欲に悪魔が近付くのか知っているからだろう。けれど、詳細はここに書かれていない」


「マスターは私達がこの部分を見つけることをすでに分かっていらっしゃったのよ。そして、私達の身の安全のため詳しくは記さなかった」


「そんな! マスターは妾たちに任務を出されたのに悪魔には近付くなということ!?」


「それほど危険な相手なのよ……」


「マスターの御慈悲に感謝を」


 相変わらず美心を神に近い存在に崇め涙を流す一同であった。

 

「ぐすっ……だったら拙者等は何をすれば?」


「悪魔と契約した欲深い人間なら僕たちでも排除できる」


「なんと!? だが、それでは悪魔相手に堂々巡りになってしまわぬか?」


「叡智の書も全部で200巻存在するわ。悪魔そのものを退治する方法もどこかに書いてあるのかもしれないけれど……」


「僕もまだ125巻までしか読んでいないんだよね。叡智の書はその一つを理解するだけでも時間がかかるからね」


「マスターに直接お聞きになれませんの?」


「レグルス、マスターの吐血を見たでしょう。あれ程の傷を負いながらも私達に直接任務を与えるために講堂へ足を運んでくださった。これ以上迷惑はかけられないわ」


「リゲルの提案通りにするしか今は無さそうだな」


「ええ、悪魔と契約した人間を排除する。それが当面の私達の目標としましょう」


「ですが、どうやって見つけるつもり?」


「マスターが講堂で言っていたでしょう。悪党……と」


「そうか、悪魔と契約し力を得た者というのは悪党のことだったのか!」


「マスターも意地が悪い、任務の内容だけでは把握できず叡智の書を読んでいることを前提に司令を下すのだからね」


「日々、研鑽を重ねよ……マスターが私達に言い聞かせていた答えはここにあったのよ」


「……シリウス、拙者にも文字を教えてくださらぬか!? いつまでも足を引っ張りたく無い!」


「ええ、勿論よ」


 当然ながら美心はそんなことを考えていない。

 講堂での話もその場の雰囲気で話しただけにすぎない。

 だが、勝手な解釈で悪党を排除していくことを決心した一同であった。

 翌朝、シリウスから任務の詳細を全隊員に伝えられたのは言うまでもないだろう。

 

「……ということである。我々は悪魔と契約した者たちを1人でも多く排除し、この世を浄化せねばならない! マスターの望んだ美しく輝く命のために……いいえ、違うわね。マスターに美しい命という宝石箱の詰まった世界をお見せするために我々は立ち上がるのよ!」


 ざわざわざわざわ


「単なるチンピラも悪魔と契約したのかな?」


「悪意を持っている以上、違いないわ!」


「美しい宝石のために醜い心を持っている者はすべて駆除すべきよ!」


 講堂内に様々な意見が飛び交う。

 そして1人の隊員が挙手しシリウスに話しかけるのであった。


「シリウス、悪党の件ですが……私、昨日見たんです! 20人以上の侍を護衛に美しい少女が侵され身売りされるところを!」


 その隊員とはデネブのことであった。

 昨日のことが忘れられず、その思いをずっと引きずっていた。

 そして、悪党を排除する任務が与えられたことで協力を仰げないか名乗り出たのであった。


「身売りか……確かに個人では出来ないし、裏に大きな組織があるかもしれないね」


「はい、あの組織はかなり強大だと予測されます! チョビ髭の男はかなり身なりの良い服装をしていました。私の班だけでは太刀打ちが出来なと判断し昨日は逃げ帰ってきたのですが……うっううう」


「デネブちゃん……昨日言ってくれれば良かったのに」


「いや、デネブの判断は正しかっただろうね。下手に君たちだけで対処しようとして逆に捕まっていたかもしれない。デネブ、辛かったね。でも、それも今日までだ」


「ええ、裏に巨大な組織がある身売りは悪党の巣窟。もしかしたら悪魔がまだ居るかもしれない。これから先、長く続くであろう激戦を想定し、まずはデネブの言った身売りを標的として全員で対処してみましょう」


「手慣らしってところか……へへっ、腕がなるぜ」


「まずは隠密部隊を編成し、その組織の全体を把握しましょう。実行はその後、良いわね?」


「了解!」


 隊員の誰も知りはしない。

 その少女が美心であるということを。

 そして、その標的が美心のお気に入りのパパ《ATM》であるということを。

 今、ここに大きな勘違いからくる大事件が起きようとしていた。

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