ゑ!? カモミールティーは紅茶じゃないんですか!?
時刻は朝の8時を回ったところ。私はいつものようにコンビニで買ったブレンドコーヒー(Lサイズ)を飲みながら朝のひと時を楽しんでいた。
コーヒーを飲みながら趣味であるweb小説の執筆を行うことが私にとっての至福の時であり毎日のルーティンである。
今日の執筆はかなり好調だ。日によっては書けない日もあるのだが、既に朝から書き始めて1時間近く順調に筆が進んでいる。
え? 私が今書いている小説…… どんな小説か聞きたい? 気になる?
しょうがないなあ、インサイダー情報だから内密にお願いしますよ!
タイトル名は『1兆1匹のわんちゃんvsエイリアン』。たくさんの犬達が織りなす涙あり笑いありの物語を今現在仕上げているのだ。
犬好きにとってはたまらない傑作になりそうで、犬嫌いでも犬好きになるほどの完成度であると私は確信している。
ふふふ…… こんなもの、投稿してしまった瞬間ポイント、評価、感想の雪崩が一気に押し寄せてくるだろうなあ、今のうちにサインの練習でもしておこうかな。
そんな事を思いつつコーヒー片手に執筆をしていた時、私はふと思い立ちとあるSNSアプリを立ち上げてみた。
実は最近、私はとあるグループに加入させていただいたのだ。
名を『しろひつじプロダクション』私みたいな趣味で小説を執筆している方から、イラスト、配信、音楽と様々な分野で精を出しているクリエイターがたくさん存在しているグループである。
ここのグループは毎日活発的であり、パンピーな私にとっても大きな刺激を受けている場所だ。
朝早くから例に漏れず通知が絶えない。ここにいる人たちに時間と言う概念はないのだろう、おそらく制作に夢中になれば夜も徹することができる人たちばかりだ。毎日夜の9時に布団に入り朝の6時に目が覚める生活おじいちゃんの私も見習いたいものだ。
そんな人たちに混じる私もダル絡みがてら一つの質問をチャット板に投稿してみた。
『皆さんは執筆するためのガソリンってありますか? 私はファミ○のブレンドLですね』
唐突な質問だが、こんなものだろう。ガソリンなんて言う表現が小説家らしくて乙なものじゃないか? 一般人は『飲み物』と表現するだろう、ここで『差』が出てしまうんだよな、グフフフ……
おっと、端末前で一人ニヤニヤしているとみられたらやべえ奴に思われる、落ち着け私……
しばらくすればそんなダル絡み質問に対して回答が返ってきた。優しい人たちばかりである。
『ガソリンではありませんが紅茶キメて書くことが多いです』
紅茶をキメるというなかなかジャンキーな言い回しをしてきた方…… ここは仮にUさんとしよう。Uさんは私とは異なり紅茶を飲むようだ。
紅茶を飲みながら執筆…… 想像するだけでオシャレなものである。きっと高貴な貴族の方なんだろうなあ、このグループは本当に色んな人がいて楽しい。
紅茶…… どちらかといえばコーヒー派である私だがそれでも飲まないという訳ではないが、話の流れで私はとある紅茶エピソードを思い出した。
それはとある日、大枚はたいて鰻屋で定食を食べていた時の話だ。高級上鰻丼定食を5分ほどで完食したのだが、食後のドリンクについて店員が尋ねてきた。
「食後ですけど、ココアとカモミールティーがあります。どちらに致しましょうか?」
なんで鰻屋まで来てココアを飲まねえといけねえんだと思った私は秒でカモミールティーを選択してしまった。
──今までそんなお洒落な飲み物、飲んだ事ないのに……
正直、あの時は少しだけ後悔していた。当時、コーヒー派であった私はあまり紅茶を飲み慣れたことがなかったからだ。なんでコーヒーがないんだよ、この鰻屋…… やられたなぁ……
ため息を漏らす私の目の前に出されたカモミールティー。仄かに鼻を擽る優しい香りがそんな不安を吹き飛ばした。
ぐっと、一口……
──う、うめえ!!
こんな、紅茶って美味かったのか! カモミールっていう種類なのか!? 初めて飲んだけどめちゃくちゃうめえじゃねえか!!
まぁ、ありきたりであるがこんなエピソードである。あの鰻屋のカモミールティーが忘れられないのだ、そんな事をこんなヘンテコなタイミングで思い出してしまった。
おっと、感傷に浸ってる場合じゃないな。せっかく答えてくれたUさんに返信しないと……
私はコーヒーを飲み干しながら端末を打ち込んだ。
『紅茶もいいですよね! 私は特にカモミールティーっていう紅茶が大好きです!』
鰻屋で飲んだ紅茶を思い浮かべながらその言葉を書き込む。ああ、もう一度飲みたいけどまた鰻屋に行かねえといけないんだよな。そこまでの財力がないし貯金しないと……
投稿すればUさんからまたすぐに返事が返ってきた……
『カモミールティ……? ああ、ハーブティーのことですね』
ん? なんだか反応が怪しいぞ。
しかも『ハーブティー』とかいう耳慣れないような慣れたようなその中間ぐらいに位置するワード……
うーん…… まさか!?
『あ、あれ? カモミールって紅茶…… ですよね?』
はっとなり、焦りに焦りながら私は文字を打ち込んだ。
え? カモミールティーって紅茶じゃねえの!?
『違いますよ。ハーブティーですよ。あれもリラックスできていいですよね〜』
あ、ハーブ……
Uさんの返事を前に私は頭が真っ白になった。
マジか…… カモミールティーは紅茶じゃねえのか…… じゃあ、私は今まで何を紅茶だと思ってカモミールティーを飲んでいたんだ?
カモミール…… お前…… 紅茶じゃねえのかよ……
なんでお前紅茶じゃないんだよ……
顔が熱くなる。鏡を見ていないが恐らく顔面真っ赤だろう。ダメだ…… これは恥ずかしすぎる…… 何を『カモミールティーっていう紅茶が大好きです!』ってイキってるんだ私……
うっわぁ…… きっついなあ…… なんで鰻屋教えてくれなかったんだよ!!
『ははは、ハーブティーいいですよね! ヨモギとか私も嗜んでますよ!』
投稿後すぐに逃げるように私は端末を閉じた。もう空気に耐えられなくなってしまったからだ。この掲示板は私とUさん以外に百人前後の人たちがいる。そんなたくさんの人たちの前で私の誤ちが白日のもと晒されたのだ。
あぁ…… なんということだ。
お腹が痛くなってきた。こんなキリキリしたのは久しぶりなのかも知れない。きっと今頃掲示板では『おい見たか!? あいつ、カモミールティーを紅茶だと言ってたぜ! バカの反対はカバだろ!』みたいな事を言い合っているに違いない。
私は何年カモミールティーを紅茶だと信じたのだろうか……




