98. 続編の進行
ステラが兄と何を話すのか。
あの話をどうやって伝えるのか。
それが気になり、映像転送魔法を遣った。
あんな兄の顔を見たのは、初めてだった。
ヴェガードがステラに向ける顔に似ている気もするが、違っているような気もする。
思えば、兄はステラに釣書を出している。
兄自身、ステラのことをどう想っているのだろうか?
不安な気持ちが、あの呪いの黒い血液のように、胸の奥に渦巻く。
その不安も、すべて“あの事実”を知ってから。
ステラの『呪い』がまだ解けていない事実を。
『呪い』が解けていない理由。
それはステラにとって、自分が『愛する者の魂』ではなかった、ということを意味している。
そのことに気が付いて、身体中の力が抜けていくのを感じた。きっと『絶望』とは、この感覚の事なのだろう。
ステラは、自分に『好きだ』とは言ってくれたが、『愛している』という言葉は聞いていない。他の者より好ましく想っているだけで、愛している訳ではなかったのかもしれない。それはきっと彼女自身も気が付いていないことなのだ。
今後、彼女に心から愛する者が現れる。
それを考えただけで、沸々と湧き上がる『嫉妬』に心を焼き尽くされそうになる。胸の奥がズキズキと痛む。『呪い』の身体的な痛みよりも、遥かにたちの悪い痛みだ。
皮肉なものだ。
『光』の感情も、『闇』の感情も、どちらもすべてステラが教えてくれた。自分には彼女しかいないのに。
一人で帰るというステラに無理矢理同行し、屋敷まで送り届けた。
月夜を走る蹄の音だけが響く静かな馬車の中、その月を眺めるステラの横顔を黙って見ていた。
どんな状況になっても自分の嗜みを変えるつもりはない。ずっと彼女だけを眺め、愛でていく。
例え、それが辛く苦しい感情でも。
『呪い』など、解けなければ良かったのだ。そうすれば、こんな感情になることはなかった。
こんなに、苦しむことも、悩むこともなかった。生まれて初めて『後悔』した。
シアンの胸の奥に、あの黒い血液が再び渦を巻き始めていた。
◇◇◇◇
「何それ……何で? 一体、どうなってるの?」
アリサは呟いた。
西の辺境の地にある、古びた教会。
教会に来る人々を聖女として癒やしながら、日々を送っていた。その日は治療にくる兵士らしき格好の人が多く、その人たちから話を聞いた。
西の隣国アンドロスから逃げてきたという。
アリサは凍り付いた。
その国は正しくあの彼女がいる国だったから。
続編の主人公、第二王女フレア。
内乱により身を隠さなければならなくなり、隣国であるアルカディア王国に身分を偽り、留学という形で従者と護衛騎士と共にやってくる。
しかし、物語で内乱が起こるのは約二年後。そして、彼女が留学してくるのも、その頃だ。
今、彼女は15歳のはず。留学するとしても、来年以降でないと入学出来ない。
続編の攻略対象は従者と専属護衛騎士、そして、留学先のアルカディア王国の教師であるラサラス、主人公と同じクラスで生徒会会長の侯爵家令息だ。しかし、公式発表では、攻略対象は五人と言われていた。
四人まではクリアしたのだ。そして、五人目は――隠しキャラだった。
そのルートの途中で、アリサは死んだのだ。
だから、知らなかった。最後の攻略対象を。