90. 彼女の報復
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王立魔法学園の門前に、一台の馬車が停まる。
星型の家紋が描かれている若草色をしたその馬車がその場所に停まるのは、十日ぶりのことだった。
そのため、多くの生徒の目を引いた。
中から見目麗しい令嬢がひらりと制服のスカートを翻し、優雅に降り立つ。
ふわりと舞うイエローゴールドの髪にエメラルドのような輝くグリーンの瞳をした彼女に、すれ違う誰もが振り返る。その姿は凛として、笑顔一つ浮かべていない。
彼女は、ある人を探していた。
その人物は彼女を見つけると、自分から近づいてきた。
「ステラ!」
その声に彼女は振り返る。そして、表情一つ変えずに彼を見た。
「目が覚めたんだね! すごく心配したんだよ!」
彼は彼女の手を取るとぎゅっと握り締めた。彼女はその手を振り解く。そして、睨みつけるように、彼を見た。
「メラク」
怒りに満ちた声に、彼は目を見開いた。
「兄さまを巻き込んだこと、許しません」
「――え?」
「貴方の想い違いに兄さまを巻き込んだ」
「想い違いって……なに?」
「私に対する『想い』の間違いよ」
彼は不服とばかりに、顔をしかめた。
「想い違いじゃない! 僕はステラのことを本当に――」
「やめて」
ピシャリと彼の言葉を遮る。そして、睨みつけたまま、言い放った。
「『想い』は、押し付けるものではないわ」
眉間に皺を寄せ、唇を噛み締める。
「本当の『想い』があるのなら、その人のために自分を犠牲に出来るの。でも、貴方は違った」
彼女の兄に同じことを言われた。彼はそのことを思い出し、俯いた。
「貴方が欲しかったのは、魔力を流し込める入れ物だけ。私自身ではないわ」
「そんなこと……っ!」
怒りに満ちた瞳に、彼は怯んだ。
「勝手に魔力を流し、同意も得ずに、自分の屋敷に縛りつけておくなど」
ぐいと胸ぐらを掴み、言い放つ。
「最っっっ低だわ!」
どんと胸ぐらを押し、突き放す。よろめいた彼に向かって、言った。
「いいですか。許して欲しければ、今日の授業後、私に同行しなさい」
彼女は、くるりと向きを変え、自分のクラスへと歩き去った。その後ろ姿を、彼は呆然と見ていた。
次に、彼女が向かったのは、隣のクラスだった。クラスの中に彼を見つけると、側まで歩み寄る。
彼女に気が付いた彼は一瞬、目を丸くし、すぐにニカッと笑った。
「よぉ。ステラ! 元気になったんだな?」
彼の言葉には一切触れず、真顔で言葉を発する。
「ラサラス。ちょっとお話、よろしいかしら?」
そう言って、視線をクラスの外へと向ける。彼は『いいよ』と返し、彼女の後に続いた。
中庭まで来ると、彼女は立ち止まり振り向く。
「自分が理解出来ないからと言って、それを他人に押し付けるのはいかがなものでしょう?」
「はぁ? 何の話だ?」
彼女の話の意図がわからず、首を傾げる。
「私が寝ている間に、随分と勝手に、私の婚約者を決めようとしてくださったみたいで」
ハッと気が付いたように、息を吸った。そして、いつものように、歯を見せて明るく笑う。
「だってさぁ、メラクはステラのことが好きだし、メリッサはシアンが好きだろ? だったらその組み合わせで婚約すれば、家同士も丸く収まるし、夫婦が二組出来るからいいだろ?」
彼女は、はぁと一つ深い息を吐く。
「兄弟揃って、最っっっ低ですね」
「何だよ?」
彼は笑顔を引っ込め、真顔になる。その顔の変化に、彼女は微笑んだ。
「そちらが本当の貴方ね」
彼は眉をひそめた。
「相手のためと言い訳して、自分の想いを曝け出せない臆病者」
「――何だと?」
声が低くなり、彼の表情が怒りに変わる。
「今まで誰かに、本当の自分の想いを本気で伝えたことがあるのかしら?」
彼の顔が一層、険しくなる。
「自分が否定されることを恐れて、何一つ、伝えてこなかったのではなくて?」
「お前に……何がわかる?」
「わからないわ。全然」
当たり前のことを言うかのように言葉を続けた。
「わからないから、伝えるのでしょう? お互いがわかり合えるまで――徹底的に」
彼女は、ダークレッドの瞳を見つめる。
「変わりたいと願っていたのでは?」
彼の赤い瞳が揺れる。
「今の自分のままではダメだと思っていたのでは? もう……護ってくれる人はいないのだから」
その瞳が大きく見開かれる。
「誰かに愛されたいと願うなら、まずは自分が自分を愛してあげたら?」
彼は、その瞳を閉じる。
その瞼の裏に2歳の自分を優しく抱き締める5歳の姉の姿を思い浮かべて。そのままではいけない。もう自分はあの頃の幼い自分ではないのだから。
(何も分からない、何も知らない)
――そうじゃない。
(何もわかろうとしなかった、何も知ろうとしなかったんだ)
――自分から。
姉が死んだのも、叔父のせいではない。
そんなこと、わかっていた。許すとか、許さないとか、そんなことではないのも。
親に愛してもらえない。愛されていない。
あんなに愛されていた姉が死んだら、その存在すら消されてしまった。自分が愛されるはずがない。愛せない。
――それは、言い訳だ。
彼女の言った通り、自分の想いを曝け出して、否定されるのが怖かった。ただの臆病者だ。
ずっと変わりたいと思っていた。きっかけを見つけられなかった。
彼女がそれを与えてくれた。――自分を愛する、きっかけを。
「私も――自分を愛せなかった」
ポツリと、彼女が呟いた。彼は弾かれたように顔を上げた。
「ちょっと違うかな。何故、生きているのか、その意味を見出だすことが出来ずにいたの」
彼女はエメラルドグリーンの瞳を彼に向けた。
「このまま生きていてもいいのかって」
「え……?」
「ある時、私は――私の最期を知った」
「――は? それは、どういうことだよ?」
「予知みたいなものかな、夢を見たのかも」
「予知? 夢?」
彼女は小さく頷いた。
「私が近いうちに死ぬという、予知夢」
彼は驚いたように目を見開いた。
「おかしいよね。死ぬと、わかった途端、生きていたくなったの」
彼女は、ふふっと笑った。
「それを感じたら、自分を少し好きになって。そうしたら、私の周りには私のことを自分以上に大切に想ってくれている人がいることに気が付けたの」
彼女は今まで見たこともないくらい綺麗な笑顔を浮かべた。彼はその笑顔に見惚れた。
しかし、次の瞬間、彼女の顔は一変する。
「だから――その人たちを傷付けたら、許さない」
背筋が凍るような表情に、動けなくなる。
「ラサラス。今度また私の大切な人たちを巻き込んだら、次は許さないわ」
そう言って、彼女はその場から立ち去った。彼女が変わった理由がわかった気がした。
彼の瞼の裏には、彼女の綺麗な笑顔だけが残り、すでに5歳の姉の姿は消えていた。
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