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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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88. 答え合わせ

 


 ――トントントン。


 ステラの私室。

 ようやく一人になれたタイミングでブレスレットをトンと指で弾く。


 雪崩のように押し掛けてきた、普段は別邸にいる父や母、そして、何故か、ずっと居座り続けているシアンに囲まれ、なかなか一人になれずにいた。


 ブレスレットが光を放ち始める。

 やがて、その光は点滅し、うっすらと声が聞こえてきた。


『――ステラさん?』

「アリサさん!」

『どうしましたか?』


 前世同郷の心強い友の声に、ホッとする。


「グラフィアス家について、教えて貰えますか?」

『……何か、あったのですか?』

「ええ」


 しかし――意識を失っている間に監禁されていたなどと言えるはずもなく。

 少しの沈黙の後、アリサが答えた。


『わかりました。私が知っていることとステラさんが知っていることの答え合わせをしましょう』


 ステラの瞳には、うっすらと涙が浮かんできた。アリサの存在がこんなにも心強いなんて。




 ヴェガードからメラクの魔力を受け入れたことがあるかと聞かれて、思い出した。あのパーティーの日、メラクとアクイラに起きていた問題をまだ解決していなかったということを。

 アリサの選んだルートがメラクではなかったから星花の力は必要ない、と考えていた。物語はすでに違ってきていたし、他の攻略対象にも問題は生じていなかったから。


 でも――もしも、他の攻略対象の問題もこの後、起こるとしたら。


 まだ問題が起きていないのはエラトス殿下、ラサラス、アトラス、アイン。

 そして――ヴェガード兄さまだ。


 あと、続編の情報も気になる。

 何故、アリサは()()()グラフィアス家に要注意と言ったのか? グラフィアス家の誰かが続編に関係しているということなのか。


「メラクに問題が起きています」

『魔力過多のこと?』

「そうです」

『ガーデンパーティーでイベントが起こらなかったから、彼らの問題は起きないのかと思ったわ』

「あの、それなのですが――」


 ステラはブレスレットに向かって苦笑いした。


「あのイベント、私がフラグを折ったかも」

『ええ?』

「正確に言えば、()()()ですけど」

『え? 私も?』

「はい。アリサさんの魅了魔法から身を護るためにメラクとアクイラは入れ替わっていたのですよ」

『ええ? じゃあ、私と一緒にいたのは……』

「アクイラですね」

『なるほど……それで、イベントが起きなかったのですね』


 ブレスレットの向こう側で、アリサがほぅと息を吐いたのが聞こえた。


「どうやらその時、メラクが私に増え過ぎた魔力を流したみたいなの」

『ええ? 何、勝手にやってるのですか!? 考えられない!!』

「ですよね……でも、それに気付かないくらい相性が良かったみたいで」

『まさか……』

「婚約を迫られています」

『うっわぁ……』


 お互いに苦い顔をしたのを感じる。


「それで――主人公ヒロインとメラクが恋に落ちた場合、星花の力を使って、メラクの魔力過多を中和して治していましたよね?」

『そうそう』

「ということは、クロノスの所に行けばいい?」

『そうなりますね』


 顎に手を当て、考えた。


「あの、アリサさん。何故、続編でグラフィアス家に要注意と言ったのですか? もしかして、続編にグラフィアス家の誰かが?」

『そうなんですよ……続編も、同じ王立魔法学園が舞台なのですが、ラサラスが教師枠で攻略対象なんですよね』

「ええ?」

『シアンの次に人気がありましたから』

「へぇ……」

『まぁ、()()()さんはハマっていなかったようなので、知らないかもしれませんが』


 ステラは『あはは』と頬を掻いた。


「もう一つ、話したいことがあるの」


 一瞬で真面目なトーンに声を落とすと、懸念していることを話し始めた。


 他の攻略対象にも今後、ゲームと同じ問題が起こるのではないかということ。

 そして、まだ起こっていないのがエラトス、ラサラス、アトラス、アイン。そして、兄ヴェガードであること、を。




 ――ヴェガードルート。

 彼は妹である公爵令嬢ステラ・アステリアにより陥れられた愛する主人公ヒロインを救うため、調査に魔力を遣い過ぎたことで『不治の病』に倒れる。

 それを星花の力で主人公ヒロインが救う。バッドエンドでは、ステラが悪魔を使い、ヴェガードを救う。


 ステラは気付いていなかった。

 自分(悪役令嬢)アリサ(主人公)を陥れていないから大丈夫だと考えていた。まさか自分が倒れたことで、ヴェガードが()()()()()()調査していたことなど、知る由もなかった。


「この中で言えば、兄さまは大丈夫だと思うけど。私とアリサさんの仲が悪いわけではないですし」


『ですね! そうすると次に起きそうなのは――』




 《星の花の神話を聴かせて》の続編。

 舞台は、最初の物語から三年後の王立魔法学園。

 隣国から一人の王女が身分を隠して編入してくるところから始まる。彼女が主人公ヒロインだ。

 最終学年に一年間だけ留学するという形で物語が進んでいく。それを世話するのが教師で担任となるラサラスだった。


『実はラサラスには、姉がいたのですよ』

「え?」

『グラフィアス家の第一子は女の子だったんです』

「そう……なの?」


 そういえば、時折、ぼんやりと思い返す記憶の中に小さな女の子の姿があった。


『確かヴェガード様たちと同じ歳だったかと。それが続編で明かされたのです』

「そう……」

『ステラさんは覚えていなくても無理ないと思いますよ? 亡くなったのが5歳の時で、ステラさんもラサラスも2歳ですから』

「――亡くなった?」

『ええ。魔力の暴走で』


 何となく、思い出した。

 当時、まだ幼すぎたからわかっていなかったが、時を重ねる毎に触れてはいけないことなのだと気が付き、詳しく聞かずにいた。

 そのうち、彼女の存在すら忘れてしまっていた。


(――そうか、そうだったんだ)


 メラクが何故、あの時、悲しげな顔をしたのか。

 入れ替わっていた王城のパーティーで、兄たちに相談してみようと提案した時のメラクが、一瞬だけ見せた悲しそうな顔の意味がようやくわかった。


 自分にもいるはずだった姉。そして、その存在を消すかのように振る舞う親たち。

 すべて、飲み込んでいたのだ。グラフィアス家の兄弟妹きょうだいたちは。


 どんなに、悲しかっただろう。

 どんなに、悔しかっただろう。


 自分たちにも同じように年長の存在がいたのだと、頼れないことを。誇れないことを。口に出せないことを。


 彼らの想いを感じると、胸が締め付けられる。


『実は――その主人公ヒロインの容姿が亡くなったお姉様に、そっくりなのですよ』

「え?」

『もちろん、彼女自身は5歳で亡くなっているわけですから、そっくりというのには語弊があるのですが……何というか、ラサラスが時折、成長させた姉を思い浮かべた時の姿に似ているというのが描かれているのですよ』

「何、それ……」


(そうなると、ラサラスは姉に対する想いをめちゃくちゃ拗らせているということではないか? 彼を救うには、どうしたらいいのだろう?)


 少なくとも、本編のラサラスはそんなに拗らせていなかったと思うのだが。


主人公ヒロインは今、15歳ですから、関係してくるとは思えないですけど……何より国外の王女ですし』

「確かに……そうですね」

『こちらでも調べてみます。あと思い出したことがあれば、これで連絡しますね』

「ありがとう、アリサさん」

『いえ! ステラさんもクロノス様に会うまでは、気を付けてくださいね!』

「わかったわ」

『では、また』

「ええ、また」


 ブレスレットの光が少しずつ弱くなり、消える。ステラの部屋に静寂が戻る。

 ステラは今までのことを頭の中で整理していた。




 エリス王女の婚約者発表があったパーティーで。ゲームの強制力に抗うことが出来なかった。

 メリッサに対して、酷い態度をとってしまった。そして――シアンに対するメリッサの想いに、気が付いてしまった。


 私は――『嫉妬』したのだ。

 そして、あの後、『呪い』が発動した。すでに解けているはずの『呪い』が。


 何故、まだ『呪い』が解けていないのか。シアンに触れて浄化されたから、目覚めることが出来た。


(浄化出来るのに、解除が出来ないのは何故か? ――原因は、何だろう?)


 二人には話せない。私の『呪い』がまだ解けていないことは。これ以上、心配をかけたくない。


 シアンの呪いが解けている今、シアンが私の呪いの発動に気が付くことはなかった。ということは、安易に『嫉妬』出来ない。そういう状況にならないようにしなければ。


 シアンとは距離を置いた方がいい。

 シアンとメリッサに関わらなければ、『嫉妬』することも、強制力が働くこともないのだから。


 体力が回復し次第、クロノスの所へ。




 私は、この時、まだ知らなかった。

 星花の力を使うには、代償が伴うということを。







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