表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/146

87. 従兄の苦悩

 


 グラフィアス家には、閉ざされた部屋がある。

 僅か5歳で亡くなった姉ルフィーナの部屋だ。


 大好きだった姉。可愛らしく、時に美しい姉。

 綺麗な銀色の髪、透き通る様な空色の瞳の姉。

 水面に太陽の光がキラキラと輝く様に笑う姉。


 姉を失った。突然、自分の前から消えた。

 姉の存在自体が消されたかのような屋敷。


 幼すぎた自分には理解出来なかった。姉のいなくなった部屋に毎日のように行っていた。


 姉はもう、この部屋に帰ってくることはないのだと理解出来るようになったのは姉と同じ歳になった頃だった。もう二度と、姉に会うことはない。時が永遠に止まったままの姉の部屋で、そう悟った。


 その頃から不思議な魔法が遣えるようになった。


 《火魔法》の中でも特殊な『縁故』という魔法だ。

 血の流れを読むことが出来る。この魔法が遣える者はごく僅かだ。何故なら、相対する《水魔法》の系統も魔力になくてはならない。ゆえに、自分にはその『血』が入っていることを示唆していた。


 それから、自分の周囲をじっくりと観察するようになった。


 そして、不思議なことに気が付いた。

 父には火魔法の魔力しか流れていなかったが、母には水魔法の魔力が混ざっていた。しかも、かなりの濃さの。それは――直系並だった。メラクやアクイラにもその『血』は、混ざっている。もちろん、この魔法が遣える時点で自分にも。


(父が母を歪んだ愛し方しか出来ないのは、このせいなのか? 姉の存在をなかったかのように扱うのも、そのせいなのか? 俺らが『火魔法の公爵家』だからか?)


 この頃、王城でのガーデンパーティーに父と二人で参加した。他公爵家の子どもたちとは久しぶりに会った。とはいえ、2歳を最後に、三年近く会っていないのだ。覚えているはずもない。


 そこで出会った人たちに、驚いた。

 《水魔法》の筆頭公爵家プレアデス家の血を読んだ瞬間、自分の中に流れている血の繋がりを知ってしまった。


 この人は――俺の叔父だ。そして、その子ども。アトラス、シアン、アイン。彼らは俺の従兄弟だ。


(彼らはそれを知っているのだろうか? そして、父バルカンは知っているのだろうか?)


 父がプレアデス公爵を見る目は、憎しみに満ちている。聞けそうになかった。


 プレアデス公爵の『色』は、姉ルフィーナとほぼ同じだった。父が彼に憎しみの目を向けるのはそれが原因かもしれない。


 もう一つ、驚いたことがあった。

 血を読むことが出来なかった者たちがいたのだ。

 従弟であるシアンと《風魔法》の筆頭公爵家アステリア家の娘ステラ。読もうとすると、跳ね返される。それはまるで、血液が黒い霧に覆われているかのようだった。


 二人に興味を持った。

 同じ歳の二人。何故なのか二人とも表情がない。ニコリとも笑わない。これでは三人でいても、そこだけ葬式のようだ。俺は大袈裟なくらい明るく振る舞った。


『俺はラサラス! よろしくな!』


 順番に二人の手を取り、ブンブンと上下に振る。二人とも表情を一切変えずに、自己紹介した。


『シアンだ』

『アステリア公爵家ステラと申します』


 綺麗な淑女の礼は同じ5歳児とは思えなかった。




 そのパーティーを境に、アステリア家には十日に一度、遊びに行くようになった。子どもたちの交流はさせるべきという、当主同士の話がされ、父も渋々同意した。


 アステリア家に三公爵家が集まる。時々、同じ歳の第二王子エラトスも顔を出していた。俺たちは、幼馴染みとなった。ステラは、話しかければ、反応するという程度だったが、シアンは少しずつ距離を置くようになり、12歳になる頃には、集まり自体に来なくなった。




 13歳。王城での茶会。

 エラトスとステラが婚約すると発表された。

 ステラがそのための教育を受けていたというのを知っていたから、特に驚かなかった。ステラ自身もまったく表情を変えず、当たり前のようにエラトスの隣に立っていた。その姿はすでに王族の貫禄すら漂わせていた。


(もし姉が生きていたら――そこに立っていたのは姉だったのだろうか)


 目を閉じて、美しく成長した姉を思い浮かべる。

 第一王子エウロス。アステリア家、ヴェガード。プレアデス家、アトラス。トゥレイス家、ザニア。

 姉は、誰の隣に立っていたのだろう。




 16歳。王立魔法学園に入学した。

 学園に入ってからステラが変わったことは、何となく感じていた。これでも幼馴染みだ。例えクラスが違っても彼女の変化くらいわかる。


 吃驚するほど、表情が豊かになっていた。

 三年前とは大違いだ。一体、何があったのか。


 ただエラトスとメリッサを前にすると、今までのステラだった。そして、誰に対しても無関心だったシアンがそんなステラを気にかけていることも気が付いていた。


 ステラの血を読んでみたが、やはり、以前と変わらなかった。シアンも同じだ。どこか変化があったからではと思ったが違っていた。二人だけは未だにまったく読めない。




 18歳。召喚の儀式。

 魔法陣の中で泣きじゃくるステラをいち早く助け出したのがシアンだった。胸の奥がざわめいた。

 その後も事ある毎にステラを助けるシアンに驚きを隠せなかった。あれはまるで――シアンがステラに恋をしているようだと思った。


 表情を出せない従弟を応援したくなった。


 ――あの時までは。




 王城でのガーデンパーティー。

 アリサ嬢に魅了魔法をかけられた。彼女のことは召喚の儀式以降、気を付けてはいたのだ。

 彼女もまた、血を読むことが出来なかったから。


 エラトスに抱えられ、救護室へ行ったのを見た。光魔法の遣い手ならば、自分で回復魔法をかければいいはずなのに、何故しないのか。その理由が気になり、相手を間違えたふりして近づいたが、詳しく調べることが出来なかった。


 そして、あのガーデンパーティーの後。

 突然、メラクがステラに婚約を申込みたいと言い出した。何があったのか、教えてくれなかったが。


 メラクは《火魔法》『読心』が遣える。これもまた特殊な魔法の一つ。人の心を読むことが出来る。

 この魔法には《風魔法》の系統が必要になる。


 メラクとアクイラには特殊な魔力が流れている。ずっと不安定なのだ。そして、系統がめちゃくちゃだった。特にメラクに関しては問題があり過ぎた。溢れ過ぎる魔力を定期的にアクイラに流さなければならない。


 二人はその真実や、二人が入れ替わっていることを俺が気付いていないと思っている。しかし、血を読めば、わかってしまうことなのだ。ただ俺は彼らがその真実を隠したいのであれば、そのままでいいと思っている。

 今までもずっとそうしてきたように。


 誰かが話さないことは話したくないことであり、誰かが伝えないことは知られたくないことなのだ。


 自分は、そうやって、生きてきた。




 時が永遠に止まった部屋の中。ぼんやりと佇む。


『ラサラスは、臆病なんだね』


 ふわりと抱き締められた。


『大丈夫だよ。そんなあなたをすべて愛してくれる人が、いつかきっと、現れるから』


 キラキラ輝く笑顔を向けた。


『それまで、私が護ってあげるから』


 優しく頭を撫でてくれた。


『ラサラスは、ラサラスのままでいていいんだよ』




 閉ざされた部屋の中。たった一人。


「そんな人、いつ現れるんだよ?」


 天井に向かって、呟く。


「護ってくれてねーじゃん」


 唇を強く噛み締める。


「俺のままでいて、いいわけないだろ」


 噛み締めた唇に血が滲む。


「誰がこんな俺を愛してくれるんだよ?」


 シアンも、メラクも、ザニアも、メリッサも。

 皆、愛する人がいる。そして、愛してもらおうとしている。


「なぁ、教えてくれよ? 『愛』って、何だよ?」


(――姉貴。俺には、わからないよ)





「俺が協力するよ、メリッサ」

「お前とシアンが婚約するのが一番いいと思う」

「だから、協力する」




「プレアデス公爵閣下。貴方は、私の『叔父』ですよね?」

「そのことを、父は知りません」

「甥の頼みを聞いてくださいますか?」

「シアンとトゥレイス家メリッサ嬢の婚約を進めてください」

「……姉のこと、私は許していません」




 ――永遠に、許すことは出来ないだろう。

 俺から、永遠に『愛』を奪ったのだから。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ