85. 闇の公爵家
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「わからないから、調べるのです。自分が理解するまで――徹底的に。それが『破壊』と『消滅』を担うアステリア家の責務ですから」
ヴェガードは組んだ手を口元に当てた。
「僕が僕の裁量で、勝手に力を使ったら、困る人がたくさんいると思いますけどね」
バルカンは隠されているヴェガードの口元の両端が上がっていることに気が付くと、恐怖からぶるりと身体を震わせた。
「しかし、そんな昔のことを……どうやって調べたというのだ」
「僕は『闇魔法の公爵家』ですよ?」
ヴェガードの眉が驚いた時のように上がる。
「その場所と、そこに魔法を遣う所有者の許可さえ得られれば、簡単なことです」
「馬鹿な……シェアトが協力したというのか?」
「ええ、簡単でした。彼は、シアンとステラを婚約させたがっていましたからね」
「いや、そんな……まさか!」
扉の外から声が聞こえた。
「……盗み聞きは良くないよ? メラク」
フローラの背後の扉の影からメラクが姿を現す。
「プレアデス公爵閣下はシアンとメリッサの婚約を前向きに考えていたはずだよ!」
「確かに。僕がプレアデス公爵閣下に会うまでは、そうだったかもね」
メラクとバルカンは大きく息を吸った。
「僕はプレアデスも調査する必要があったからね。閣下に提案したんだ。調査に協力するなら、婚約はこちらから打診させていただく、と。調査しても、特に問題がなければ、一番、可能性が高いからね。プレアデスにとってもアステリアとの縁談はプラスでしかないし」
ヴェガードは肩を竦めた。
「やはり、幼かった僕の思い違いではなかった」
目を細めて、バルカンを見た。
「貴方は、優しい眼差しを持った父親でしたね」
その場の全員が息を呑んだ。
「貴方が向ける瞳は、愛で溢れていた。あの悲しい出来事と『秘密』によるすれ違いがなければ、今もそんな瞳を家族に向けていられたのでしょうね」
フローラが静かに涙を流す。バルカンは唇を噛み締めた。
「ずっと言えずに……ごめんなさい。バルカン」
バルカンは俯き、肩を震わせた。
わかっている。家柄のせいで『秘密』を打ち明けられなかったことなど。それでも、二人には、打ち明けて欲しかった。――もっと、自分を信じて欲しかった。
でも――わかっている。親友と愛する人。二人を信じきることが出来なかったのは自分も同じだと。この長い間、苦しんでいたのは、自分だけではなかったのだと。
二人に裏切られていなかった。愛する二人はそのままだった。
変わってしまったのは――自分だ。
ただ……ただ涙が止まらなかった。
◇◆◇◇
まだステラがグラフィアス家にいた時。
ステラの様子を見にグラフィアス家に行った朝。
ステラの側で朝食を摂り、ステラに魔力を流してからグラフィアス家を後にしたヴェガードは、そのままプレアデス家へと向かった。
シアンから、ラサラスとメリッサの動きを聞き、嫌な予感はしていたのだ。プレアデス家に着くと、すでに話を通して貰っていたため、すぐに応接室へと案内された。
シェアトと直接、話をするためだ。
調査に協力する許可が下りなくてもヴェガードは特に構わなかった。敷地内に入れさえすれば、どうにでもなる。最悪、この状態でも調査は進められるのだ。
《闇魔法》は、恐ろしい魔法だ。
遣う者が遣い方を間違えれば一瞬にして『破滅』する。だからこそ、管理できる者が管理する必要があるのだ。それ故、アステリア家でも、通常なら『破壊』か『消滅』のどちらかしか継承出来ない。
その点で、ヴェガードは、特別だったのだ。
どちらも継承出来てしまうほどの自制心と魔力、能力を持っていた。
ヴェガードはシェアトに提案した。
ステラの婚約者を決めるにあたり、各家を調査している。協力してくれるなら問題がなかった場合、こちらから婚約の打診をさせていただく、と。
その際の婚約相手はアトラスやアインではなく、シアンにさせてもらう、彼以外は認めないと伝えると、シェアトは首を捻った。
「何故、そこまでシアンに?」
「貴方は、わかっていますか?」
シェアトは眉間に皺を寄せる。
「何を、でしょう?」
「シアンの『呪い』が、すでに解けていることを、ですよ」
「え……?」
ヴェガードは小さく息を吐いた。
「やはり、お気付きではなかったのですね」
シェアトは驚き、目を見開く。ヴェガードは静かに、目を伏せた。
「ステラがシアンの『呪い』を解きました。これが何を意味するのか、おわかりになりますか?」
ハッと、息を吸う。
「まさか……『愛する者の魂』――」
小さく頷いた。
「貴方に、二人を引き裂くことが出来ますか?」
シェアトはヴェガードの瞳をまっすぐ見つめて、首を横に振った。
「感謝してもしきれません。ヴェガード。敷地内を自由に調べてくれて構わない。問題がなかった時、シアンとステラの婚約の許可をいただきたい」
ヴェガードは、にっこりと微笑んで、頷いた。
「こちらこそ。宜しくお願いします」
ヴェガードは調査に入った。――とはいっても、傍から見れば、ただ椅子に腰掛けて、ぼんやりと庭を眺めているようにしか見えない。
ヴェガードは《闇魔法》『回顧』と『幻影』を同時に遣っていたのだ。
二つの魔法を同時に行使することは不可能とされているため、誰一人ヴェガードが置かれている状態に、気付くことはない。能力を遣い過ぎた後、彼の身体に起きる異変など、誰も知る由もなかった。
ヴェガードは、見た。実際に起こった出来事を。そして、それぞれが抱えている闇も。
想いも、勘違いも、すれ違いも、そして、秘密も――すべて。
一通り、調査し終わったヴェガードは大きく息を吸い込み、昼下がりの空を見上げた。この後また、ステラに会いに行こう。彼女の側で昼食を摂ろう。
上手くやれば、確執がなくなるどころか凄いことになる。四大公爵家の強固な絆が、この国をかつてないほど繁栄させるだろう。そして、平穏な日々が訪れる。
そんな平和な日常を愛する人と穏やかに過ごしていくことが出来るなら。こんなに素晴らしいことはないではないか。
ヴェガードは、今そこにある幸せを感じていた。ステラが目を覚ましていなくても。このまま一生、目を覚まさなくても。
愛する人の側にずっといられるなら。それはそれでいいのかもしれない。
僕もあの時。大切な人を失った。護れなかった。あの時ほど、自分が無力だと思ったことはない。
今日、ここに来て、見て、すべてを思い出した。彼女への想いと失った悲しみ、悔しさ、無力さ。
あの時、アトラスが一番に駆け出した。自分は、彼女の側を離れられなかった。離れたくなかった。置いて行きたくなかった。
シェアトが来るまで、ただひたすらずっと冷たくなっていく彼女の身体を温めるかのように抱き締めていた。――震えながら。
無力な幼い自分を、ただ見ていた。もう二度と、大切な人を、愛する人を、失いたくない。
あの時、僕も変わったのだ。バルカンが変わったように。
今の僕が在るのは、彼女のお陰だ。
僕はもう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
ヴェガードは、口を真横に結び、こめかみに拳を押し付けた。
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補足:闇魔法の遣い方を誤ると『破滅』として自分に返ってくるという意味で『破滅』にしてあります。ヴェガードが遣えるのは『破壊』と『消滅』です。
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