83. 確執の原因
あの七日間で調べたこと。
グラフィアス家とプレアデス家にある確執の原因を調べるうちに、メラクとアクイラにも問題があることに気が付いた。その原因が両家の確執であったことも。
グラフィアス家でステラの身体を維持するために自分の魔力を流していた時。ステラの中に、ほんの少しだが、メラクの魔力を感じた。とても気持ちが悪かった。
メラクの状態は調査して何となくわかってはいたが、まさか、ステラの魔力とメラクの魔力の相性が良いとは。だから、メラクはステラとの婚約に拘るのだろう。
(しかし、メラクはそのことに、いつ気が付いたのだろう?)
こればかりは一度、魔力を流してみないとわからないし、受け入れる相手もそのつもりでなければ、互いに危険を伴う。血を分けた家族や親類ではないのだから。
ステラに聞けば、婚約解消した後、あのガーデンパーティーでメラクから婚約の申込みをされた、と言っていた。
(――あの時か……)
アリサ嬢に、あの魅了魔法をかけられた時だ。
迂闊だった。あの時、彼女の魅了魔法にかかり、隙が出来たばかりに、メラクの魔力が流し込まれるような状況にステラを置いてしまった。
(まさか……ステラはメラクの魔力が流されたことに気が付いていないのか?)
「ステラ。一つ、確認したいことがある」
「何ですの?」
意識が戻ったステラに確認してみる。
「君はメラクの魔力を受け入れたことがある?」
驚いたように目を見開いた。
「まさか!」
(やはり、そうか。流されたことに気が付かないくらい、魔力の相性が良いのか)
大きく息を吐く。考えを悟ったステラが呟いた。
「まさか……メラクはそれで私を婚約者に?」
「多分ね」
ステラはアリサに言われたことを思い出した。
『――いいですか? 続編では“グラフィアス家”に要注意、ですよ?』
なるほど。確かに、要注意だった。
ステラはアリサに連絡してみようと考えていた。
◇◇◇◇
グラフィアス家の門前に、一台の馬車が停まる。星型の家紋が入った若草色の馬車だ。
中からは、イエローアッシュの髪に、深緑の瞳をした見目麗しい青年が優雅に降りてくる。
「やぁ、メラク。先日は、ありがとう」
「その後、ステラの様子はいかがです?」
「まぁ……相変わらず、だよ」
「そうか……」
「さぁ。グラフィアス家ご当主様にお目にかかろうかな」
「ああ。こちらへ」
従者に案内させる。メラクは部屋の前まで来たが中には入らなかった。
「旦那様。アステリア家ヴェガード様をご案内いたしました」
「入れ」
許可を得て、その部屋に足を踏み入れるとすでにバルカンが腰掛けていた。
「久しいな。ヴェガード」
「ええ。お久しぶりでございます、公爵閣下」
「まぁ、かけてくれ」
ヴェガードは促されるまま、ソファに腰掛けた。
「話はメラクとステラの婚約の件かな?」
ニコリと笑うその顔は息子の婚約を喜ぶ父親そのものだった。ヴェガードもにっこりと微笑み返す。
「婚約の話ではありますが。お断りに参りました」
バルカンの顔がみるみる歪んでいく。
「何? 倒れたステラを介抱した上に、我が屋敷で療養させていたのだぞ?」
「ええ。それに関しては、感謝しております」
「その上、寝たきりの状態で婚約してやると言っているのに――」
ヴェガードの顔から笑みが消える。
「――してやる?」
その顔に、瞳に、バルカンは目を見開いた。
「あいにく、どのような状態であっても、ステラは引く手数多ですので。困ってはおりません」
そして、ヴェガードはバルカンから視線を逸らすことなく言った。
「ステラのグラフィアス家での療養はメラクからのたっての希望でして。僕としては、一刻も早く屋敷に連れて帰りたかったのですが。むしろ、ステラを人質に取られたようだ、と思っていたぐらいです。もう少し長くなっていたら、僕の魔力が暴走して、意図せず、グラフィアス家を『破壊』してしまっていたかもしれませんね」
バルカンは見開いた目を、さらに大きくすると、ハッと短く息を吐いた。
「そうか。それは、すまなかったな」
「いえ。わかっていただければ、結構です」
「しかし――」
バルカンが話を続けたことにヴェガードは怪訝な顔をした。そんなのは、お構いなしに話し続ける。
「ステラも色々、ありそうじゃないか」
「どういう意味です?」
「学園に入ってから、変わったとか?」
口角を上げるバルカンにヴェガードは表情を一切変えずに返した。
「何を仰りたいのでしょうか?」
「まぁ、『プレアデス』には、隠し事がたくさんあるからな。アステリアも巻き込まれているのでは、と心配になったのだよ」
(――『呪い』のことか。あの言い方だと、詳しい内容まではわかっていない。ならば、こちらの方が有利)
「ご心配には及びません。そこは僕も、しっかりと調査させていただきましたので」
目を細め、にっこりと微笑んだ。
「もちろん、グラフィアス家のことも」
バルカンの顔からは微笑みが消える。
「僕はルフィーナが大好きだったのですよ」
バルカンの顔が徐々に歪んでいく。
「将来、彼女の婚約者になりたいと思った程に」
「……何だと?」
バルカンは瞳を揺らした。
「彼女は《水魔法》が、とても得意でしたね」
少しずつ息を荒くしていく。
「そして、その容姿は――まるで『水魔法の公爵家』のようでしたよね」
「……やめろ……」
わなわなと身体を震わす。
その様子にヴェガードは、その端正な顔に極上の笑みを浮かべた。
「皮肉ですよね? 『ルフィーナ』って『赤』という意味なのに。彼女には全然、赤が似合わなかった」




