表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/146

81. 彼女の目覚

 


「お呼びでしょうか、公爵閣下(ユアグレイス)

「メラク」

「はい」

「ヴェガードに目をつけられたな?」

「っ!! ……申し訳ございません」

「いや。構わない」

「えっ?」

「むしろ、好都合」


 顔を上げたメラクに、父バルカンはニヤリと笑みを浮かべた。


「ヴェガードにはプレアデスを滅ぼしてもらう」

「はい?」


 理解できずにいると、父は不服とばかりに、ふんと鼻から息を漏らす。


「シアンとステラが婚約することはない」

「え……」

「シアンにステラを裏切らせる」


 メラクは、すぅっと息を呑んだ。

 ヴェガードの怒りの矛先がシアンに向けば。自分にとっても、彼女を手に入れられる好機。


「でも、どうやって?」

「お前達の計画をうまい具合に変更し、利用すれば良いだろう?」

「メリッサ……」

「その通り」

「しかし、もうヴェガードには知られています」

「だから、良いのだ」

「え?」


 バルカンは顎に手を当て、口角を上げる。


「ヴェガードが証人になる」


 メラクは怪訝な顔をした。


「グラフィアスは銃を用意し、弾を込めただけ」


 ハッと、視線を父に向ける。


「引き金を引くのは……プレアデスだ」



 ◇◇◇◇



(ステラ、どうして目覚めない?)


 ステラの私室に、主が戻ってきたというのに。

 部屋は薄暗いまま。


「もう七日も経つよ? ねぇ、ステラ。どうして、目を覚ましてくれないの?」


 ステラが神々と消えたあの時。

 たった二日だったというのに不安で押し潰されてしまいそうだった。


 今は、あの時とは違い、目の前にステラがいる。なのに、何故。あの時と同じように、押し潰されてしまいそうだ。


 ステラの手を握り締める。額に当て、祈りと魔力を送る。

 今のステラは自分が送り込む魔力で、生かされているようなものだ。それはまるで、意識不明になった時のエリス王女と同じように。


 ――コンコン。


 扉の外で従者が声をかける。


「ヴェガード様。プレアデス家シアン様がお越しになられました」

「通して」

「畏まりました」


 部屋にシアンが入ってきた。

 ステラの姿が見えると駆け寄ってくる。シアンの表情が曇り、悔しそうに唇を噛み締める。


(シアンは表情が豊かになったな)


 そんなことをヴェガードは感じていた。

 ――こんな時に。

 でも。それもすべてはステラがしたこと。彼女がシアンを変えた。救ったのだ。

 それを思い出すと、自然と顔が緩んだ。


 ヴェガードは静かに席を立った。そして、シアンに自分のいた席を譲り、ステラの部屋を出る。


 兄である自分に今出来ることは、妹の幸せを願うこと。


 ゆっくり歩き出すと、私室の扉を開けた。



 ◇◇◇◇



 ステラがアステリア家に戻ったとヴェガードから連絡を受け、すぐに駆け付けた。


 七日間、一度も目覚めていないという。


(何故だ? 何があった?)


 ステラの私室に通されると、ヴェガードがベッドサイドに腰掛け、祈りを込めるようにステラの手を握り締めていた。


 入室に気が付くと、黙ったまま席を譲り、静かに出ていった。


 ステラの部屋に、二人きり。

 昼間なのに薄暗いその部屋には、カーテンの隙間から太陽の光がうっすらと差し込んでいる。


「ステラ」


 物音一つしない静かな部屋に切なさを含んだ自分の声だけが響く。


「何故、目を覚まさない?」


 彼女の手を握り締める。


「聞きたいことが、たくさんある」


 もう片方の手で、彼女の頭を撫でる。


「今、お前は、何を考えている?」


 彼女の額にかかる髪に触れる。


「今、お前は、誰を想っている?」


 彼女の額に、口づけを落とす。


「俺は、いつでも、お前を想っている」


 ステラの手を両手で握り締め、額を擦り付ける。想いをこの手から、ステラの中に流し込むように。


『――私も。いつでも、貴方を想っているわ』


 自分の低い声しか響かなかった部屋に、透き通るような愛しい人の声が聴こえる。シアンがハッと、顔を上げると、そこには、ずっと見たかったエメラルドグリーンの瞳が輝いていた。


 シアンは思い切りステラを抱き締めた。ステラはそれを驚いた顔で抱き留める。


「どうかしたの? シアン?」

「――っ!!」

「あれ? 私……何で、ここに?」


 ステラの肩口に押し付けた顔を上げると、彼女が驚いた顔をした。そして、ぷくっと頬を膨らませ、顔を歪めた。

 ステラが何故、そんな顔をしたのか、わからずに戸惑うと、怒ったように言った。


「シアン。その顔、私以外の人に見せないで」

「はぁ?」


 わけがわからずに、首を傾げる。


「シアンの笑顔は、破壊力ありすぎなの!」

「……は?」

「だから、他の人に……見せて欲しくないの……」


(――何だ? それは?)


「ステラ以外には、こんな顔しないと思うが」


 多分、相手がステラでなければ出来ないだろう。


(ステラは、嫉妬しているのか?)


 嬉しすぎて、ふっと笑ってしまった。


「ああっ! その顔も、絶対、ダメだから!!」

「ぷっ、くくっ」


 反応がおかしすぎて、笑い出してしまった。生まれて初めて心から笑った気がする。

 顔が痛い。今まで使ったことのない筋肉を使ってしまったようだ。


 一通り笑い終わると、ステラに聞きたかったことをぶつけた。


「どこまで覚えている?」

「え?」

「あの日のことだ」

「あの日…」

「王城でのガーデンパーティーの日だ」


 ハッとしたように視線を彷徨わせる。


「メリッサを突き飛ばしたわ」

「それは覚えているのか?」

「ええ。でも……抗えない力というか……」


 自分の腕を抱き締めて、ブルッと震わす。その上から包み込むように抱き締めて、話の続きを促す。


「何故、倒れた? 原因は? 何があった?」

「あれは――」


 ステラが視線を彷徨わせた。

 この仕草は――何かを隠している時のものだ。


「ステラ」


 少し低くなった声に、びくりと肩を震わす。


「正直に話せ」

「あ、えっと? 突然、具合が悪くなって……」

「それで、いつ、メラクと会ったんだ?」

「え? は? メラク? 会っていないけど」

「――え?」

「何? メラクが、どうかしたの?」

「倒れたお前を見つけて、グラフィアス家に連れて帰ったんだよ」

「はぁぁぁ?」


 ステラは目を丸くして、奇声を上げる。


「何? 私、グラフィアス家にいたの?」

「そうだ」

「ええ?」

「七日間もな」

「は? ちょっ……ちょっと、待って!」


 わけがわからないというように首を振る。


「あのガーデンパーティーから七日、経っているということ?」

「そうだ」

「その間、私は……」

「一度も目を覚まさなかった」

「はい?」


 呆然としたステラに説明を続ける。


「今日、ここに帰ってきたばかりだ」

「え……」

「俺は――ずっと会いに行けなかった」


 視線を落とす。


「グラフィアス家の敷地に、プレアデス家の人間は入れないからな」


 両家の確執。親同士の確執。その子どもたちさえも、知っている。

 詳しく知る者は、いないかもしれないが。


「ヴェガードは毎日、会いに行っていた」

「え……兄さまが?」

「ああ。ステラに魔力を与えるために」


 七日間も寝たきりだったのだ。何もしなければ、衰弱していってしまう。親や兄妹なら、魔力を分け与えることが出来る。


「兄さま……」

「ヴェガードを呼んで貰おう。お前を心配していたからな」

「……ええ」


 扉の外にいる従者を呼び、ヴェガードを呼ぶように伝えると、もの凄い早さで駆け込んできた。


「ステラ!!」


 ベッドに押し倒しそうな勢いで、ステラに飛び付いた。そして、ぎゅっと抱き締める。その存在を、確認するかのように。


「良かった! 本当に……良かった!」

「兄さま……ご心配おかけしました」


 申し訳なさそうに俯くステラの額に、ヴェガードは抱き締めていた腕を解いて、額を当てた。


「生きた心地がしなかったよ……ステラ」

「ごめんなさい、兄さま」

「それより、何故、倒れたの?」

「あの……それは、ええっと……突然? その、体調が……悪くなって、気を失ってしまって――」


 ジロリと視線を向けられ、ぶるりと肩を震わす。


「――それで? メラクとは?」

「会っていないのです……」


 ということは倒れた後だったというメラクの言葉は嘘ではなかったことになる。ヴェガードはホッと息を吐いた。


「それより、兄さま。何があったのです? 何故、私はずっとグラフィアス家にいたのですか?」


 兄の目が変わったのに、ステラは気が付いた。

 これは――怒りの目だ。


「ステラを人質に取られたようなものだね」

「……えっ?」

「僕も随分、侮られたものだ」

「……ええ?」

「売られた喧嘩は買おうと思うよ?」

「ええぇ?」


 顔は笑みを浮かべているが、物凄く怒っているのを感じる。グラフィアス家は一体、何をしたのか。


 ステラは考えるだけでも、ゾッとした。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ