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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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80. 企みの露見

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「ステラ……」



(――何故、目を覚まさないの?)


 頭を打った、ということにし、ステラを屋敷から動かせない口実を作った。

 しかし、実際には、頭を打ってなどいない。医師も特にどこにも異常はみられないと言っていた。――それなのに何故、未だに目を覚まさないのか?


「メラク様。アステリア家ヴェガード様がお越しになられました」

「随分、早かったね。――いいよ、通して」

「畏まりました」


 従者が下がり、すぐにヴェガードを連れてきた。


「メラク」

「ヴェガード。こちらだよ」


 ステラの眠るベッドサイドへ駆け寄る。頭に巻かれた包帯が現実味を醸し出す。ヴェガードは苦しげに顔を歪め、眠っているステラの手をギュッと握り締めた。


「ステラ……」

「頭を打っているようで、今は動かせないんだ」

「介抱してくれて、ありがとう」


 メラクは小さく首を振った。そして、ヴェガードに質問する。


「でも――どうして、ステラはあんなところに一人でいたの?」

「ああ……具合が悪いから、先に帰ると言っていたんだ」

「へぇ。それで? 具合が悪いと言っていたのに、一人で帰したの?」


 ヴェガードは大きく目を見開いた。


「僕ならついていくけどね」

「そうだね。ついていけば、よかったよ」


 棘のあるメラクの言い方に、ヴェガードは内心、ムッとしたが、その通りで何も言えなかった。

 自分かシアンがついていけば、よかったのだ。


 ただ、あの場の状況を把握する必要があった。

 従者に馬車を呼ばせていたし、ステラも乗降場所に向かっていたので問題はないと思っていた。具合が悪いというのも、あの場から立ち去る口実にしただけだったから。


(その後、倒れた? ステラに――何があった?)


「ステラが倒れたのを見たの?」

「うん。声をかけようと思って近付いたら、突然、倒れて……驚いて、慌てて駆け寄ったんだ」


 メラクは俯き、悔しそうに『間に合わなくて、ごめん』と言った。ヴェガードは首を振る。


「いや。すぐに助けてくれて、本当にありがとう」

「でも……目を覚まさないんだ」

「頭を打っているなら、暫くは様子をみるしかないだろうね」


 メラクは口を横に結んだ。


「目を覚ますまでは、うちで預からせて」

「え? ――いや、連れて帰るよ」

「動かさない方がいいんだ。意識が戻るまでは」


 ヴェガードはメラクをじっと見つめる。


「……わかった。世話になるよ」


 メラクはホッとしたように肩を下げた。


「但し、僕が来ることを()()()()()()許可してね」


 にっこりと微笑んでみせたヴェガードにメラクは微笑み返すと、ゆっくり頷いた。


「約束する」


 ヴェガードはステラを残し、帰っていった。




 もう計画は進められた。後戻りは出来ない。彼女をここに留めている間に、すべてを終わらせる。


「ステラ。君は僕のものだ――」


 目を覚まさない愛しい人の額に口づける。優しく頭を撫で、声をかける。


「ねぇ。早く目を覚まして?」


 ――僕のステラ。


 君を手に入れるためなら、僕は何でもするよ。



 ◇◇◇◇



 ステラが倒れてから七日が過ぎた。未だ、一度も目を覚まさない。医師にみせているが原因不明だ。屋敷に留めておくのも、そろそろ限界である。


 何より原因もわからないのに留めておくのは危険すぎる。それはステラにとっても、グラフィアス家にとっても。


「そろそろ、ステラを連れて帰るよ」


 ヴェガードが切り出す。メラクは同意せざるを得なかった。

 当初の計画ではステラにステラの自身の意志で、ここに留まってもらう予定だった。

 まさか、あのまま目を覚まさないなんて。


「ヴェガード」


 帰り支度をしているヴェガードに声をかける。


「ステラと婚約させてもらいたい」


 ヴェガードは目を丸くして首を傾げた。


「この状態のステラと?」


 メラクは黙って頷いた。


「申し出は嬉しいけどね。この状態で、誰かと婚約などさせられないよ」

「それでもっ!」

「ステラが嫌がる」

「――え?」

「ステラは言っていたんだ。学園を卒業するまでは誰とも婚約しない、と」

「何で……?」


 ヴェガードは、ひょいと肩を竦めた。


「さぁ? 何でだろうね……ステラはこうなることがわかっていたのかもしれないね」


 眠ったままのステラに優しい眼差しを向けると、その頭をそっと撫でた。


「メラク」


 俯いていたメラクに、ヴェガードが呼びかけた。その視線は、ステラに向けられたまま。


「君の幸せは、何?」

「え?」


 ヴェガードは、静かにメラクへと視線を移した。


「ステラの幸せを願っている?」

「そんなの……当たり前でしょ?」

「そう」


 視線をステラに戻すと、愛おしそうに見つめる。


「僕の幸せはね、ステラの幸せなんだ」


(ヴェガードは一体、何が言いたいのか?)


 人の心を読むことが出来るメラクにもヴェガードの心は読めずにいた。


「ステラが幸せだと思うことをしてあげたい。例えそれが自分にとって不幸なことであったとしても」


 メラクがヴェガードと視線を合わせると、深緑色のその瞳は底知れぬ沼のように怒りで満ちていた。背筋にゾクリと悪寒が走る。


「ステラの幸せを、当たり前だと言った。その君がしたことは――何かな?」

「……え……」

「ステラの幸せより君の幸せを優先させただろう? ――違うかい? メラク」


 その視線に、言葉に、身体が動かなくなった。


「ステラを助けてくれたことには感謝するよ。ありがとう。でも、僕はステラの想いを無視して、自分の想いを押し付ける奴に、愛する妹は渡さないよ」


 ヴェガードがその身体に纏う魔力にメラクは震え出す。これが、この国唯一の《闇魔法》『破壊』と『消滅』を持つアステリア家の力か、と。その力を初めて目の当たりにし、恐怖で動けない。


「君たちの事情もわかっているつもりだよ? 僕もルフィーナが大好きだったからね」


 メラクはハッと顔を上げた。


「だけど」


 ベッドサイドに腰掛けていたヴェガードが、ゆっくりと立ち上がる。


「僕の愛する人を巻き込むなら、容赦しないよ?」


 一歩ずつ、メラクに近付いてくる。


「必要であれば、当主と()()()()よ?」


 この場から逃げ出したいのに、身体が動かない。


()()()の企みは、わかっている」


 一歩、また一歩、近付いてくる。


「君は、僕がこの七日間、何もしていなかったと、そう思っているの?」


 目の前で、ピタリと立ち止まる。


「浅慮だねぇ」


 ずいと眉目秀麗な顔が近づく。ステラに似ているが、その顔には一切の隙がない。


「自分の欲しいものを手に入れるためなら、手段を選ばない、その精神は嫌いじゃないけど」


 顔を離し、凍てついた視線を上から向ける。


「相手が悪かったね」


 にっこりと笑う。

 その笑顔は、恐怖でしかなかった。







ご覧いただき、ありがとうございます!

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いつも、本当にありがとうございます☆


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