74. 呪いの解除
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◇◇◇◇
ルーカスが変えた呪いの解除方法。
それは『愛する者の魂』による唇への口づけ。
悪魔によってレイラとのキスを奪われたルーカスの『嫉妬』と『羨望』による『呪い』だ。
本当に迷惑な先祖である。
しかし今回、ザニアによる口づけでステラの魂の呪いは解けた。後はステラの身体の呪いとシアンの凍らせた心の呪いを解くことだけだ。
ただ――これはこれで問題がある。
(あんな、しれっと自然に出来るのか? 私に? ザニア様……あれほど顔を真っ赤にさせておいて、さすがは攻略対象と言うべきか。決めるところは、ビシッと決めるのだな……凄すぎる)
私の申し出のタイミングも完璧だった。
そこは本当に褒めて貰いたい。
ザニアに囁いた、あの時。
『ステラの魂にかけられた呪いの解除方法は「愛する者の魂」による唇への口づけです。ステラの魂とエリス王女殿下を助けたいのであれば、ザニア様のキスが必要です。お願いしますね。それとこのことは決して口外してはいけません。いいですね?』
ザニアは顔を真っ赤にさせながらもコクンと一つ小さく頷いた。
解除方法は口止めした。
ザニア様ならヴェガ兄さまにもシアンにも伝えることはしないだろう。
後は――どうやってシアンとそうなるような状況になるか、だ。
「はぁ……」
何度目かもわからないため息を吐くと、目の前に感情の読めない超絶美形な顔が覗き込んでくる。
私の目と鼻の先には――シアンの顔があった。
「ひぃっ」
弾かれたように距離を取るとジロリと睨むような視線を受けた。
(今の距離! 頑張れば『事故チュー』なら出来たかも!! はぁぁー! 私の意気地の無さよ……)
「いい加減、慣れろ」
呆れたような顔でシアンが頬杖をついて言った。
「慣れるわけないでしょ? 大体ね……近すぎるのよ。シアンの距離の取り方は、おかしい」
「ステラにしか、しない」
「ーっ!!」
(何でそんなに平然とした顔で、そんなことサラッと言っちゃうかな……そうだった。ああ……ここにもいたよ、攻略対象)
――攻略対象、恐るべし。
「それよりも」
シアンの表情が鋭くなる。
「今朝は何故、メラクと一緒に来た?」
(うっわぁ。これは……怒っているのか?)
「メラクが屋敷に迎えに来たのよ……突然」
「ほぉ……」
「なっ、何よ?」
シアンの顔が怖い。ずいと、近づく整った顔に、思わず背を反る。
「明日からは俺が迎えに行く」
「へ?」
「当たり前だろう? 俺達は愛し合っているのだから」
「ひぃぃ!」
慌てて、シアンの口を抑えつける――が。
――時、既に遅し。
私たちはクラス中の視線を浴びる。
真顔なのに何故か満足そうな顔のシアンに、怒りさえ感じる。拳を握り締め、ふるふると震える。
クラスがざわめき出す。私の心臓は口から飛び出しそうだ。
ぎゅっと胸を抑え、立ち上がり、無言でクラスを出ていった。もう暫くは戻りたくない。私はお気に入りのガゼボまで早歩きした。
池の畔にあり、古びたガゼボ。今は誰もいない。ベンチに腰を下ろすと、ふぅと、ひと息吐く。
池の波紋を眺め、水中花をぼんやりと見る。
(――私はまだ生きているんだな……)
本来ならもうすぐ処刑されてこの世界にいる可能性はなかった。不思議なものだ。
そして、誰かと恋をしたり、婚約したり……その先の人生を考えることも出来なかった。
何とか、死ぬことを回避して、この先も生きていたい、生きていきたいと、そればかり考えていた。でも、いざその先が見えてくれば、何をしたいのかが見えなくなってしまった。
私は――この先、どうしたいのだろう?
私は――未来をどう生きたいのだろう?
このままでは前世と同じになってしまう。言いようのない不安が襲ってくる。私は唇を噛み締めた。
「やはり、ここか」
声の方を向くと、シアンが立っていた。コツコツと足音を立て、近づいてくる。
何も言わずに、私の隣に腰かけた。
「何故、逃げた?」
「逃げていないわ」
「あれが?」
「………」
私は決意した。
やはり、この先は自分で決めなければ。
「シアン」
隣に座るシアンに顔を向ける。シアンも同時に私に視線を合わせた。
「呪いを解くわ」
シアンのサファイアのような濃紺の瞳を覗き込むように顔を近づけ、そっと唇を合わせた。私が目を開けると驚いたように目を見開く夜空のような瞳が見える。
散りばめた星のように、キラキラと輝いている。
「綺麗な瞳ね」
顔が離れていくと、呆気にとられていた顔が少しずつ赤みを帯びていく。シアンは口に手を当てるとハッとして、目を瞬かせた。
私はクスリと笑うと、シアンに言った。
「呪いは解けたわ。私たちは……もう、自由よ」
(――これで、私が消えても。貴方は大丈夫)
そう。先は見えている。
いつか消えるという、私のこの先が。
◇◇◇◇
(――何だ? これは?)
胸の奥がドクドクと高鳴る。あの『呪い』の黒い血液とは違う鼓動だ。
しかも、もう、あの『呪い』を感じない。
ステラに口づけをされた。――唇に。
これが解除方法だったのか。
あの時、ザニアにステラが方法を伝え、エリスに口づけしたのだ。
ステラが出ていったクラスでは、今朝のメラクとの登園を目撃していた者たちの『本命はどちらなのか?』『婚約者というのは?』『王女殿下との婚約はどうなったのか?』という声がこそこそと聞こえてきた。
確かにまだ婚約者は決まっていない。王女の婚約者発表もされていないのだ。
俺は静かに席を立った。
逃げ出した彼女の行き先は検討がついている。
彼女が気に入っているガゼボ。
行ってみるとやはり彼女がいた。ぼんやりと池の波紋を見つめている。『愛おしい』とは、このことだろうか?
隣に座ると、彼女が視線を向けてきた。
その視線に応えるように合わせる。すると、彼女は何かを決意したように俺の名前を呼んだ。
「シアン」
力強い瞳から目が離せなくなる。
「呪いを解くわ」
輝くエメラルドのような瞳に吸い込まれていく。
いつの間にか、その瞳は瞼に閉じ込められ、俺の瞳の中には綺麗な長い睫毛だけが映る。
何が起きているのか、わからなかった。
突然の出来事に身体も感情も動かせない。
大きく見開かれた自身の瞳に、再度、美しい緑色の瞳が映ると、彼女がひと言、発した。
「綺麗な瞳ね」
その言葉で、ハッと我に返る。
(――何だ? これは?)
胸の奥がドクドクと高鳴る。あの『呪い』の黒い血液とは違う鼓動だ。
しかも、もう、あの『呪い』を感じない。
頬に赤みが差していくのを感じる。初めての感覚に戸惑い、口元を手で覆う。
その様子に彼女がクスリと笑った。
「呪いは解けたわ。私たちは……もう、自由よ」
言うまでもなく、感じていた。『凍らせた心』の『呪い』が解けた、と。『氷の仮面』が溶けてなくなった、と。
今までの『想い』のすべてを伝えたい。
彼女に今出来る精一杯の笑顔を向けた。
そして、その時。俺が見たのは、
今にも泣き出してしまいそうな
――彼女の悲しい笑顔だった。




