73. 兄弟の企み
◇◇◇◇
とある公爵邸。
主に呼ばれた青年二人は執務室に佇む。
「シアン・プレアデスとステラ・アステリアの婚約を何としてでも阻止しろ! いいな?」
「「仰せのままに。公爵閣下」」
執務室を後にした兄弟は長い廊下を歩く。
「どうなさるおつもりですか? 兄上」
「どうっていってもなぁ……状況的に、今は俺らに不利だろ?」
「そうですね……」
「お前、何か良い案あるか?」
弟は口角を上げ、ニヤリと笑う。
「“ある”と言ったら、協力していただけますか?」
兄はニカッと笑い、弟の頭をぐしゃりと撫でる。
「さすが俺の弟! 当たり前だよ」
弟はぐしゃぐしゃになった髪を直しながら、兄を見上げた。
「それにしても――」
兄は『はぁ』と息を吐きながら言う。
「大人の事情に子どもを巻き込むなっつーの」
そんな兄に弟は『ふっ』と笑う。
「そうですね。でも――」
ふと弟は真面目な顔をした。
「今回ばかりは、感謝します」
そんな言葉に隣を歩く兄はチラリと目をやる。
「僕には、またとないチャンスですから」
「チャンス?」
「ええ。やっと出来た欲しいものを手に入れられるチャンスです」
弟はクスリと笑う。つられて、兄も笑う。
「お前がそんなこと言うなんてな」
「兄上。協力、お願いしますね?」
「勿論だよ、弟! 任せとけ!」
兄は自身の胸をドン、と叩いてみせた。弟は頼もしい兄の言葉に微笑んだ。
◇◇◇◇
アステリア家の前に一台の馬車が停まっていた。
蠍を象った紋章が描かれている。
「おはよう、ステラ」
優雅に挨拶をする美少年。
キラキラ光るオレンジブラウンの髪に、瞳は薄赤とゴールドのオッドアイ。
「おはようございます。――メラク」
ステラは朝からキラキラした年下の小悪魔の登場に頭がクラクラした。
「迎えに来たよ! 一緒に行こう?」
ステラは大きくため息を吐いた。
「こういうのは困ります」
「何でさ。婚約者はまだいないんだし。僕も立候補しているのだから、アピールしないとね」
大きく片眼を瞑ってみせると、片腕を突きだし、エスコートを促す。
ステラはもう一度、はぁとため息を吐き、そっと手を添えた。
メラクは満足そうに微笑むと歩き出す。
グラフィアス家の馬車に乗ると、メラクは一方的に話し始めた。
「ねぇ、ステラ。僕と婚約してよ」
「嫌です」
「何で?」
「嫌だからです。どちらにしても婚約者は兄さまが決めるので」
「ヴェガードかぁ……うーん。強敵だね」
ステラは半ば呆れたようにメラクを見る。
「何故、そこまで私に拘るのです?」
メラクは対面に座るステラの瞳をじっと見つめると、にっこり微笑んで言った。
「僕とアクイラを見分けられるからだよ」
「え? それだけ?」
「それで充分さ。だって今までいなかったもん」
「ますますお断りしたくなりましたわ」
「えー? 何で??」
首を傾げるメラクに何度目かもわからないため息を吐いた。それと同時に学園に到着する。
メラクのエスコートで馬車を降りると、周囲がざわめく。ステラは目を瞑った。
(――ああ、目立つ……本当にやめて貰いたい)
ただでさえ、目立つ容姿の攻略対象、メラク。
そして、四大公爵家の二人が家紋付の馬車で一緒に登園してきたのだ。目立たないはずがない。
平穏な日常には戻れそうになかった。それもこれも婚約者が決まるまでの辛抱だ。
「よぉ。ステラ」
「おはようございます。ラサラス。貴方の弟、どうにかして頂けないかしら?」
にかっと笑うラサラスに、じとりとした視線を向け懇願する。メラクはすでに別行動していた。学年が違うのでクラスの階も違う。
ステラの視線と懇願にラサラスは頭を掻いた。
「うーん。そうしたいところなんだけど。メラク、ステラに本気みたいだし。それに……まぁアレだ。別件で俺らも困ってるんだよな」
「ああ……御当主様ですね?」
「ああ……毎度、悪いな」
「あなた方のせいではないでしょう?」
「そうなんだけど」
「大丈夫ですわ。兄さまがおりますし」
グラフィアス家のことは何となくわかっている。
現在の当主はグラフィアス家とプレアデス家の仲が悪い。そもそも火魔法と水魔法で相性が良くないことも原因の一つではあるが、遡れば、当主同士が学園にいた頃から犬猿の仲だそうだ。風魔法の公爵家である父が仲を取り持っていたらしい。お父様はお優しいから。
「でも、ステラ。真面目に考えてあげて。メラクは本気だからさ」
「え?」
「アイツ、言ってたんだ。『本当に手に入れたいものが出来た』って。アイツのあんな顔、初めて見た」
「ええ?」
ステラが顔をしかめるとラサラスは苦笑いした。
「そんな顔すんなよ……ステラは可愛いのに」
「えっ?」
「それとも、俺と婚約するか?」
「はぁ?」
いつものように、にかっと笑うラサラスに、少しでもドキッとしてしまった自分に腹が立つ。
「グラフィアス兄弟は、お断りですわ!」
ぷいっと顔を背けると、ステラは自分のクラスへと歩き出した。そんな後ろ姿をラサラスは、へらりとした笑顔を一瞬で消し、真顔で見つめていた。
「悪いな、ステラ」
そう、呟いて。




