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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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64. すれ違う心

 


 ヴェガードはザニアと王城へと出掛けていった。

 宮廷法官の仕事だ。ザニアも宮廷魔術師である。

 恐らく二人とも、今日中には何らかの形でエリス王女に会うつもりだ。とにかく時間がない。


 ヴェガードが王城へ向かう前、俺の所に来た。


「僕の予想が当たっていれば、今日中には片がつくよ。例え外れても、明日までには、必ず。だから、シアン。それまでセイラを頼んだよ」


「ああ。わかった」


 ヴェガードには勝算があるようだ。そして、俺にセイラを託したのだが……気付いてしまった。

 セイラがあそこまでして、隠そうとする理由を。


 この世界では、叶わぬ恋だからではないか、と。恐らく、相手はやはり『ヴェガード』だったのだ。

 彼女が心の中で『想い』を抱いているのは。


 この世界では血の繋がった『兄』だ。叶わぬ恋を整理したかった。だから、時間が必要だった。

 誰にも話したくなかった。……いや、話せなかったのだ。


 それに気が付くと、今のセイラには確かに時間が必要なのだと納得できた。いつか、ヴェガードへの想いが家族としての想いに変わるまで、いつまでも待ち続ければいい。


 呪いのあるこの身体には、もう慣れた。浄化する方法もわかっていて、そのためにセイラの近くにはいられるのだ。それだけで充分だ。


 ただ『凍らせた心』の呪いには『セイラの魂』が必要である。彼女の魂がなくなれば、それは俺の『死』をも意味する。ステラの身体があったところで、セイラでないのなら、俺には意味がない。


 そのためにも、ステラの計略は阻止しなければならない。――悪魔など召喚させてたまるか。



 ◇◇◇◇



「どうしよう」


 私の中にある『想い』が確信に変わると、どうしていいのか、わからなくなった。


(会いたいけど、会えない……)


 兄に恋愛感情が湧いてしまうかもと思った時よりずっとタチが悪い。あの時は『かも』だった感情が今は確かになってしまった。


(どんな顔して、会えばいいの? 今まで私はどう対応してた?)


 ぷちパニックだ。


 家に来たシアンと一緒に学園に向かうが馬車の中でもお互いに無言だった。


(今までこんな空気だった?)


 前世でも恋愛などしたこともなかった。

 好きな人が出来たことも。免疫も経験も皆無だ。


 私が死んだのは、16歳だった。こちらに転生した年齢と同じだ。私はセイラが生きるはずのなかった16歳以降を、そして、ステラが生きるはずであった16歳以降を、今、生きているのだ。




 高校の、入学式だった。

 桜の舞い散る川沿いの道を歩いていた。


『助けて』


 声のする方へ恐る恐る近づくと、川縁に原形を留めない自転車が見える。側には半身、川に浸かって必死に岸を掴む青年。傷だらけのその姿は、今にも気を失いそうだった。


 私は夢中で駆け寄り、その手を引っ張った。彼を岸へ押しやるとホッとして力が抜けた。足場の悪いその場所で、私はバランスを崩した。

 私は――そのまま、川の中に沈んだ。


 私はあの時、確かに死んだのだ。


 でも今、生きている。身体は違うけど、私だ。

 ステラの記憶を受け入れ、彼女の『本当の想い』もわかっている。――不器用だったのだ。とても。

 私とは違う意味で。


 私には想いを受け止めてくれる人がいる。それはとても幸せで、恵まれていることなんだ。

 『彼』に――私の想いを伝えよう。




 視線をシアンに向けた。

 その視線を感じたシアンが私に視線を合わせる。


「セイラは、主人公(ヒロイン)になればよかったのにな」

「――え?」


(何で?)


 シアンの言葉の意図が読めず、私は首を傾げて、シアンをじっと見つめた。


「そうであればヴェガードを選択出来ただろう?」

「はい?」


(シアンは一体、何が言いたいのだろう?)


 少し俯き、見様によっては落ち込んでいるかのごとく肩を落としている。


「ヴェガードが一番よかったんだろ?」

「え?」

「そう言っていただろ? 前にもヴェガードを恋愛対象として見てしまいそうだと言っていた」

「ああ……」


(シアンは私が兄さまを恋愛対象として想っていると思っているのか!)


 私の頬が緩む。

 切なそうな顔で肩を落とす……ように見えるシアンに、何とも言えない愛おしさを感じて、『ぷっ』と吹き出してしまった。


 そんな私にシアンは目を見張る。私は慌てて口を結んだ。


(――もう少し、勘違いしていて貰おう)


 いつもやられっぱなしの私ではない。少しシアンに『嫉妬』してもらおう。彼の呪いの発動条件は『嫉妬』ではないのだから。




 私はこの後、この判断を後悔することになる。

 伝えたい言葉は、伝えられる時に伝えておくべきだった、と。






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