59. 彼女の結末
東にある丘の上。
大きな木の下には、神と二人の男女がいた。
『よく来たね』
「クロノス」
『時間がないから、本題に入るね。セイラにはもう話したけど、エリスの身体が限界だ。多分、本人も気が付いているはず』
セイラとシアンは、黙って頷く。
『セイラ。君の呪いは、その身体にだけだよね?』
「ええ。ステラの魂が存在するとわかった時点で、彼女の魂と私の身体に呪いがかけられているということになるわ」
シアンが眉をひそめ、セイラを見る。その視線を合わせないようにセイラはクロノスを見た。
『君たちの呪いの解除方法は、ルーカスから聞いているのだろう?』
セイラは俯き、一呼吸おくと言った。
「シアンの呪いの解除とステラの魂の呪いの解除を急ぐなら、シアンとエリス王女の婚約を急いだ方がいいわ」
「――は?」
シアンは怪訝な顔でセイラを見て、クロノスは肩をすくめ、大きくため息を吐いた。
「わかっているでしょう? シアン、貴方の呪いの解除にはステラの魂が必要で、ステラの魂の呪いも一緒に解けるのよ。そして、ステラがエリス王女の記憶を受け入れることが出来れば、身体は保たれるはず」
セイラがクロノスを見ると、クロノスは天を仰ぐように空を見上げ、再度、大きな息を吐いた。
『まぁね。ステラの魂がエリスの記憶を受け入れられれば、身体は保たれるよ。彼女の中には大地の神クロノスがいるからね』
「「え?」」
『あれ? ヴェガードたちから聞いていないの?』
セイラとシアンは首を横に振る。
『ルーカスの魂を守護していたってことは、その魂を持ったステラもまた守護されていたんだよ。だから、ルーカスの魂が浄化された時、クロノスの戻る場所はステラの魂だったんだ。彼女も18だからね』
「召喚の儀式か……」
『そういうこと』
「召喚の儀式――え? ちょっと待って。それって……ということは――ああ!」
セイラは頭を抱えた。
(――このままでは、マズイ!!)
ステラがゲーム通りに進んでいくとしたら。
もしゲームの強制力が働いていたとしたら。
このままでは、ダメだ。
だって、彼女は――どんな結末であっても処刑される『悪役令嬢ステラ・アステリア』なのだから。
頭を抱えるセイラにシアンとクロノスは心配そうに視線を向ける。
「セイラ」
シアンが名を呼ぶとセイラは頭を抱えたまま視線だけを向けた。
「セイラ、お前の身体の呪いはどうする?」
「私の身体は……後でも大丈夫。今はエリスの身体が優先だわ」
シアンは唇を噛み締めた。
「その方法しかないのか?」
「え?」
「俺とエリス王女が婚約することしか、本当に方法がないのか?」
『――ボクは他の方法もあると思うけど』
セイラはクロノスをジロリと睨む。その様子に、シアンは眉をひそめた。
「どういうことだ?」
『そのままの意味だよ。ね、セイラ。キミ、往生際が悪いよ?』
セイラが明後日の方向を見ると、今度はシアンがセイラをジロリと睨んだ。そしてツカツカとセイラとの距離を詰める。
「何を隠している? セイラ」
「べっ、別に……何も――」
「俺の呪いの解除方法を言え」
「もう、わかっているでしょ? ステラの魂よ」
「違うだろう?」
「え? 何……言ってるの?」
シアンはセイラを木の幹に押し付けた。
「以前、言ったな? ステラの身体と魂が揃わないと呪いは解除されない、と」
「あ……」
「ということは。お前の身体も必要ということだ。それなのにステラの魂だけが必要というのは、どういうことだ?」
身体の後ろに幹の冷たさを感じる。セイラは目を泳がせると、シアンはさらに顔を近づけた。
「矛盾しているよな?」
片方の口角を上げて続ける。
「さぁ、言え。本当の解除方法を」
逃げ場のないセイラは顔だけを目一杯、背ける。
「い、言えない」
「何故だ」
「言えないから、言えない!!」
頑ななセイラの態度にシアンもクロノスも、目を丸くする。シアンの胸を押して距離をとった。
「それよりも急がないとマズイわ。相手は、ステラなのよ……」
「どういうことだ?」
「ステラの最期は、必ず処刑なの」
その意味に気付き、ハッと短く息を吸う。
「そんなことをしたら……お前はどうなる?」
「――消えるでしょうね、この世界から」
息を止めた時間が長く感じる。シアンとクロノスは空を見上げた。
どこまでも澄み渡る、美しい青空を。
◇◇◇◇
「うっ、ぐ……」
エリスは苦しそうに顔を歪め、胸を抑える。
最近、一段と酷くなった。身体が思うように動かず、息が苦しい。ヨロヨロと力なく私室のソファに倒れ込む。
――この身体は、もう限界なのかもしれない。
一刻も早く、自分の身体を取り戻さなければ。
そのためには、アレが必要だ。
――そう。悪魔との契約が。




