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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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58. 聖女の存在

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 ◇◇◇◇



 ヴェガードに呼ばれるよりも、少し前。ステラの私室に守護神が姿を現した。


『セイラ。困ったことになっているね』

「アストライオス様?」

『私が今、君にしてあげられるのは、クロノスとの交信を繋げることだけなのだが……』

『充分だよ、アストライオス』


 時を司る神クロノスがぼんやりとその姿を現す。


『……クロノス?』

『ありがとう、アストライオス。……やぁセイラ。キミ、また困ったことに巻き込まれているね?』

「クロノス!」

『ごめんね。今は、この木の側を離れられなくて。本当なら側にいて助けてあげたいんだけど』

「私から出向けば良いのですわ」

『そうしてもらえると助かる。実は、アリサの件で話しておきたいことがあったんだ』

「アリサさんの?」

『うん。表向きは存在を消したことにしてあるんだけど……実際にはこの世界で生きているんだよね』

「ええ? そうなのですか?」

『うん』


 クロノスは口をキリッと結ぶと、視線をセイラと合わせて口を開いた。


『迎えにいって欲しいんだ』

「え?」

『彼女の――アリサの力が必要なんだ』

「アリサさんの? ……光魔法ってことですか?」

『そう』

「分かりましたわ」

『でも、そんなに時間がないんだ』

「どういうこと?」

彼女(エリス)の身体が限界なんだよ』

「――え?」

『元々、死んでしまっている身体だからね』

「あ……」


 クロノスもセイラもお互いに俯く。その暗い空気を振り払うようにクロノスは言った。


『だから、手分けして欲しいんだ』

「手分け?」

『そう。このことを知っているのは、あの日、あの丘にいた人間だろう?』


 セイラは心の中で『はぁ』と、ため息を吐くと、クロノスは苦笑いした。


「兄さまやシアンに話して、協力を仰げと?」

『まぁ、そういうことかな』

「それで……アリサさんは今、どちらに?」

『えっとね……西の方なんだよね』

「ああ。それで、()()()ですのね?」

『うん。だから、アリサの方にヴェガードとザニアを向かわせて』

「それで、私はクロノスの所へ行けばいいのね?」

『シアンと一緒にね?』


 セイラが眉間に皺を寄せる。その表情にクロノスは片眉を上げ、口を引き締めた。


『セイラ……まだ足掻いているの?』

「一体――何のお話ですの?」

『いや……知らないふりしなくてもいいよ。ボクも一応、神だよ? シアンもそうだけどさ、キミたち、ボクのこと全然、神様扱いしてくれないよね?』


 はぁと、大袈裟にため息を吐く。


『まぁいいけど。とにかく急いで。アストライオスを通してエオスに場所を教えるから。ヴェガードに迎えに行くように伝えて』

「分かりましたわ」


 自分から話を切り出すまでもなく、ヴェガード達から話をされたセイラは、ヴェガードとザニアに、彼女のいる場所へと向かってもらった。



 ◇◇◇◇



 西の果て。辺境の地にある、古びた教会。

 ここには、若い司祭と聖女が暮らしていた。


「ちょっと、ハデス! 何やってるのよ?」

「えっと……ごめんね、アリサ」


 若い司祭を聖女が叱り飛ばす。近隣の家の者たちには、もう見慣れた光景だった。

 いろいろなことに手間取る司祭に、祈りを捧げる儚げな姿からは想像もできないほど、テキパキ働く聖女。

 いつも微笑ましく見守られていた。


 そんな二人の元に、二人の青年が近付く。


「久しぶりだね、アリサ嬢」

「ヴェガード様? 何でここに? ザニア様も?」


 戸惑うアリサにヴェガードは、ゆっくり話す。


「実は王都で大変なことが起こっているんだ。君の力を借りたい」

「大変なこと?」

「エリス王女のことなのだが……」

「え? エリス王女って……彼女は亡くなっているのではないのですか?」

「……やっぱり」

「……え?」

「物語では、すでに亡くなっているのか……」

「ええ。だって、ザニア様はそれが原因で恋愛が出来ずにいらっしゃいましたから」


 ザニアは目を見開いた。自分の事情など知らない人間がまるで当たり前の様に自分の心情を話すことに、ただ戸惑うことしか出来ずにいた。俄には信じ難い話に、更に追い討ちをかけるように語られる話は、想像を超えていた。


「では。そのエリス王女が生きていて、ステラの魂を持っているといったら?」

「ええ! どうしてそんなことになっているんですか!? それって……ええ? もしかして……」

「何か知っているのかな?」


 アリサはヴェガードの質問には何も答えず、腕を組み、考えを巡らせているようだった。


「あの! ヴェガード様! ステラさんは今、どうされているのですか?」

「それは……魂ではなくて、身体の方のステラでいいのかな? 彼女の名前はセイラだよ」

「ええ! そうでした! セイラさん。彼女は今、どうしているのでしょうか?」

「セイラはあの木の丘に行っているよ。クロノスに会いに」

「なるほど……」


 アリサはまた考え込んだ。ヴェガードは、はやる気持ちを抑えるように言った。


「アリサ嬢の力を借りたい。クロノスがアリサ嬢の光魔法が必要だとセイラに伝えたようなんだ」

「私の光魔法……なるほど! 分かりましたわ! 一緒に参ります」

「ちょっと、アリサ! 私を置いていく気じゃないよね? 私も一緒に行くよ?」

「何を言ってるの? そんなの、出来るわけないでしょ? 教会は誰が護るのよ?」

「ええ~っ、アリサぁ……」


 半泣きの美しい司祭にヴェガードとザニアは目を丸くする。


「あの……まさか。貴方はハデス様でしょうか?」

「え? ええ、そうですよ。冥府の神ハデス」


 アリサがサラッと答えた。隣には目をパチパチと瞬かせる司祭が視線をアリサに向けて、その整った顔をへにゃりと緩めていた。それはまるで愛おしいものを眺めているようだった。


「何故……ここに? その姿は……人間?」

「えっと。その説明は、また改めてでも良いでしょうか? 今は、急ぎなのでは?」

「そうですね。ヴェガ、今はアリサ嬢と共に王都に向かおう」

「――分かったよ」

「じゃあ、ハデス。教会のことは頼んだわよ?」

「ええ~アリサがいないと無理だよ……」

「貴方、仮にも、()神様でしょ? もっと胸張って、頑張りなさいよ!」

「アリサぁ~」

「「元?」」

「あの……セイラさんと一緒の時に詳しく説明しますね!」


 半泣きの司祭を置き去りにし、教会で聖女として光魔法を磨いていたアリサを連れて、ヴェガードとザニアは王都を目指した。






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