56. 王女の真実
「どういうことだ? ヴェガ」
ヴェガードはザニアに視線を向けると微笑んだ。
「これはこれは――トゥレイス公爵令息殿。エリス王女殿下の御前ですので場を改めましょうか」
ヴェガードの目配せに気付き、視線をエリス王女に向ける。彼女はまるで他人のように微笑む。
「お久しぶりですわ。ザニア様」
「……お久しぶりでございます。エリス王女殿下」
その呼び方にザニアは違和感を持った。
彼女は自分のことを『ザニア様』などと呼ばなかった。
(彼女は……一体――)
「ではこれで失礼させていただきます。またお会い出来る時を楽しみにしております」
ヴェガードは恭しく礼をした。エリス王女は優雅な笑みを浮かべる。
「私もその時を楽しみに待っておりますわ」
ヴェガードが部屋を出ると後を追うようにザニアは王女に一礼し、退室した。
「ヴェガ」
「この後、時間取れるか?」
「勿論だ」
「うちの屋敷に」
「分かった」
一見、他者から見れば、言葉を交わしているようには見えないであろう早さでやり取りをし、二人は別々の道に歩いていった。
数時間後。
アステリア家にはザニアの姿があった。
「――説明してくれるね?」
急かすように本題に入るザニアに『まぁいいから落ち着いて』と、茶を勧める。その茶を一気に飲み干す親友に肩を竦めた。
「まぁ、最初の僕の反応も同じだったから、何とも言えないけどね」
ヴェガードは苦笑いした。
「今から話すことはザニアには少し……いや、だいぶ辛い話になると思う」
「……構わないよ」
即答するザニアにヴェガードは、ゆっくり頷くと話し始めた。
「事の始まりは、二年前。僕たちが学園を卒業した時だ。――エリス王女が倒れたね」
「ああ」
「あの時。本来、エリス王女は亡くなるはずだったようなんだ」
「――え?」
「ごめん。君の大切な人だとは分かっているんだ。だからこんなこと冗談でも……例え、真実であっても口にするのはどうかと思うのだけれど」
ザニアが眉間に深く皺を寄せた。ヴェガードは大きく呼吸すると話を進める。
「同時にステラの身にも考えられないことが起こっていたんだ」
ザニアが顔を上げ、視線を合わせた。
「異世界の『セイラ』の魂が、ステラの中に入ったんだ」
「そういえば、ルーカスが言っていた……」
「ああ。説明できていなくて、ごめん」
ヴェガードが少し俯き、謝った。呪いの秘匿と共にしっかり話をしていれば良かった。ヴェガードは後悔しているかのような苦々しい顔で話を続けた。
「それが原因で、ステラの魂が弾き出されたんだ。そして、エリス王女の魂が抜けた身体に入った」
「――は?」
「わかるよ? 僕も最初は受け入れられなかった。目の前にステラが存在するのに、中身は違う人間だなんて」
静かに目を伏せた。
「今日、実際にエリス王女と会って話をするまでは何かの間違いであって欲しいとそう願っていたよ。――でも、逆に確信してしまった。彼女は『ステラ』だ。間違いなく」
ザニアは今までの話を噛み砕くように目を閉じ、そして、呼吸を整えた。
「そうか……だから、彼女にクロノスが付いているんだね」
「――え?」
今度はヴェガードが視線を上げた。ザニアはその視線にゆっくり瞳を合わせると、口を開く。
「レアがクロノスが王城にいると言ったんだ。追跡するとエリス王女に辿り着いた。彼女はまだ召喚の儀式をしていないはず。そして、魔法具無しの発動も出来ないはずなのに出来ていた。だからルーカスの魂が彼女の中にいるのだと思っていた。近いうちにヴェガに会おうとしていたんだ」
「そうだったのか……ルーカスの魂はあの時、確かに浄化されたんだ。シアンとも話したのだけれど、ルーカスの魂が浄化されたことによって、ステラの魂が目覚め、エリス王女自身も目覚めたのではないかと考えている」
「それだけではないね。クロノスがルーカスの魂に与えていた守護をステラの魂にも与えたんだ。だから、目覚めたんだよ」
「そうか……」
ヴェガードは『なるほど』と、肯定するように頷いた。ザニアは大きく一息吐く。
「それで? これから、どうするつもりなんだ?」
「え?」
「そのままにしておくつもりはないんだろう?」
「……まぁね。君にも知恵を御借りしようかな?」
ふっと笑い合う。
ただ――これからどうすべきか、ヴェガードにもザニアにも、未だ何も思い付かずにいた。
急に短編が書きたくなりまして……
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お待たせしました! ……え? 待ってない?
良かったら、短編もご覧ください。




