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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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55. 兄妹の関係

 

 ◇◇◇◇



 3歳になった年。妹が生まれた。

 僕は『兄』になった。


 妹はあまり泣かなかった。そして、笑いもしなかった。


 歳が近い二人だけの兄妹ということもあり、僕らは常に側にいた。仲が悪いということはなく、ただ良いともいえなかった。


 幼い頃のステラは感情表現が苦手でいつも無表情だった。ステラが13歳の時、王家主催の茶会でも、自分がエラトス殿下の婚約者として発表されたというのに、何の感情も表さず、無表情だった。


 いま思えば、あれはまるでシアンのようだった。あの頃のステラにはルーカスの魂が入っていた。


 (だから、シアンと『同じ』だったのか)


 ステラも、『呪われた子』だったのだ。


 あの頃の僕は、感情を表現出来ないステラと無理に意志疎通を図ろうとはしていなかった。今のように妹を溺愛しているなどと言われるようになったのは、宮廷法官として働き始めてからだった。


 ヴェガードは気が付いた。

 自分が妹として理想としていたのは『ステラ』ではなく『セイラ』だったのだ、と。


 そのことに気が付いてしまえば、もうステラの魂を『ステラ』として見ることが出来ない自分を受け入れるしかなかった。


 ステラにとって酷い兄なのかもしれない。

 しかしステラと同じくらい、セイラのことも大切な存在となっているのは確かだった。



 ◇◇◇◇



 倒れたあの日から、ステラは私室のベッドで横になっていた。そして、彼女は――ヴェガードルートを思い出していた。



 ステラは元々、無表情で態度も悪かったため、周囲に嫌われていた。兄だけはいつもステラの側にいてくれた。相手にはしてくれていなかったが。

 そんな兄がステラは大好きだった。


 だから、悪魔と契約した。

 患った不治の病から、兄を救うために。


 ステラは兄の病気を治したくて、悪魔と契約したのだ。そして、主人公(ヒロイン)がハッピーエンドでもバッドエンドでも処刑される。

 悪魔と契約した魔女として。


 ステラが何故、悪魔と契約したのか、という理由はヴェガードが主人公(ヒロイン)の『星花』によって救われたハッピーエンドで語られることはない。

 ヴェガードは理由も知らぬまま、妹が処刑されるのを見届けるのだ。


 主人公(ヒロイン)が『星花』を手に入れられず、ヴェガードを救うことが出来なかったバッドエンドでのみ、彼女の兄ヴェガードに対する本当の気持ちを知ることが出来る。病床にいる彼の枕元に、ステラの望みを叶えるために現れる悪魔ベリアルによって。


 ステラの望みが叶えられ、絞首刑となる時。

 病から回復し、全てを悪魔から聞いたヴェガードが駆け付け、中止を求めるも間に合わず、ステラの亡骸を抱き締めて、泣き崩れるというエンディングだった。


 ヴェガードルートは悪役令嬢ステラ・アステリアの本当の姿を見ることが出来る、唯一のルート。


(今の彼女はヴェガ兄さまのことをどう思っているのだろう。兄として、彼に真実を話し助けを求めるのだろうか? もしそうだとしたら、ヴェガ兄さまはどうするの? 私はどうなるのだろう?)


 ――皆が幸せになる方法はないのだろうか?


 ずっとそんなことを考えていた。



 ◇◇◇◇



「お久しぶりでございます。エリス王女殿下」

「ヴェガード。お久しぶりね。頭を上げて?」


 深々と頭を下げていたヴェガードが顔を上げる。

 エリス王女は真っ直ぐヴェガードの目を見つめていた。――それはまるで何かを射貫くように。


「ところでヴェガード。ステラさんはお元気?」


 ヴェガードは瞳を逸らさずに口を開く。


「御気遣い、ありがとうございます。少しずつではありますが回復してきております」

「そう。それは良かったわ。私の目の前で倒れたのだもの。とても心配したわ」

「御心配、痛み入ります」


 互いに探るように視線を合わせる。口角を上げたのはエリス王女だった。


「随分と妹想いになったのね、ヴェガード」

「それは……どういう意味でございますか?」

「貴方が王城(ここ)で、何て言われているか、御存知?」

「……いえ」

「――『妹を溺愛する兄』ですって」

「!!」


 ヴェガードは息を吸う。

 エリスはその様子を見て、ふふっと笑った。


「羨ましいわぁ。私もそんな()()()が欲しいわ」

「………」


 ヴェガードは一度息を吐くと、にっこり笑って、エリスに言った。


「恐れながら。エリス王女殿下にも、いらっしゃるではありませんか。――殿下を大切に想うお兄様が、御二人も」


 エリスの顔から微笑みが消える。


「もう分かっているのでしょう? ()()()()()()


 ヴェガードは目を伏せると『やはり』と心の中で呟いた。


「おっしゃっている意味が分かりかねます。エリス王女殿下」

「――ヴェガお兄様。もう芝居はお止めくださいな。本当にいつから妹想いな兄になったのです? 少なくとも、()()()ではないですわよね?」


 ヴェガードは口の両端をくいっと上げた。


「そうだね。ここ二年くらいじゃないかな? 言葉で僕に勝とうと思わないことだね? ()()()


「手の内を明かしてしまっても宜しいのかしら? 貴方の可愛い妹がどうなるのか、楽しみですわね? ()()()()()


 エリス王女が微笑むと後方でガタリと音がする。


「ヴェガ……これは一体、どういうことだ?」


 二人は声のした方を向く。

 そこには驚愕の表情をしたザニアの姿があった。





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