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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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53. 王女の正体

 


「「え?」」


 エリスの言葉に、シアンとステラは耳を疑った。確かに今、彼女は『私のことを』と、言ったのだ。


 エリスはニヤリと笑う。

 言葉を発した直後は失言だと感じたものの、あまりの二人の反応の良さに気分が良くなった。


「私の身体の使い心地はいかがかしら? 見知らぬ魂さん?」

「あ、あなたは……まさか……」

「そうよ。私はステラ。()()()()()よ!」


 二人は息を呑んだ。

 その様子にエリスはつまらなそうに言い放った。


「なぁんだ。シアンも知っていたの? 今のステラが本当のステラではないって。それはそうよねぇ? 私とは全然、違うもの。貴方なら気付くわよね? 幼馴染みですもの。ねぇ、シアン」


 シアンは無表情の顔をさらに凍てつかせる。ステラ(セイラ)の顔は違う意味で真っ青だ。


「シアン。貴方が愛しているのは一体、どちら?」

「は?」

「ステラの身体? それとも得体の知れない魂?」


 シアンは冷えきった視線をエリスに向ける。


「それをいったら、間違いなく魂だろうな」


 そして、ステラに視線を移した。


「お前の魂がどんな身体に入ったとしても、絶対に見つけ出してみせる。どんな手を使っても」


 溢れんばかりに大きく瞳を見開いたステラを抱き寄せ、耳元で囁いた。


「俺が愛しているのはセイラ、お前だ」


 ステラ(セイラ)の頬に涙が伝う。


「何なの?! 本当に!! 人の身体を奪っておきながら幸せになろうとしているわけ?」


 ステラ(セイラ)がビクリと肩を揺らす。シアンはエリスを睨み付けた。


「せっかく目覚めて、今まで纏わり付いて邪魔だったルーカスの魂がやっと消えたと思ったら、身体が私のものではなくて、エリス王女のものに変わっているなんて!」


 大きくため息を吐いた。


「シアン! それ以上、私の身体に触らないで!」


 ステラ(セイラ)は震え出した。思い出したのだ。――王女エリスのことを。

 どこかで聞いた名前だと思っていた。


 それはあの乙女ゲームのザニアルートだった。


 ザニアルートは彼が初恋を拗らせてしまったことから、恋愛が出来ずにいるという設定だった。そして、その初恋の相手が『エリス王女』だった。

 彼女は本編には登場しない。


 何故なら――すでに亡くなっていたから。


 彼女は二年前に亡くなっているはずだったのだ。

 二年前といえば、セイラの魂が転生した時期だ。セイラが追い出したステラの魂が、同じ時にエリスの魂が抜けてしまったエリスの身体に入ったのだ。


 多分、今のタイミングで目覚めたのはルーカスの魂が浄化されたからだろう。


 すべてが繋がった。


 本物の悪役令嬢ステラ・アステリアが今、目の前にいる。


 最近、常に不安が付きまとっていた。エリスを見るたびに嫌な予感がしていた。

 こんな大切なことを忘れていたなんて。


「ルーカスのせいでずっとやりたかったことが思い通りに出来なかったのよね。今はすごく快適なの。身分も王女だし。――ただ」


 ステラ(セイラ)を睨み付ける。


「貴女の姿を見るたびに私がステラだと思い知らされる。そして、私がステラであった頃より愛されているのを見ると余計に腹が立つのよ!」


「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」


 ステラ(セイラ)は小さく呟くように繰り返す。シアンはステラの身体を抱えたまま、エリスに目を向ける。


「エリス王女の魂はどうなったんだ?」


 ステラの身体がビクリと跳ねる。

 シアンは気が付いた。ステラ(セイラ)は知っている、と。


「天に召されたのよ。エリス王女の魂が抜けた身体を私が貰ったの。そもそも、私の魂が抜けることが()()()だったのよ!」


 シアンの腕の中のステラの身体が震えている。


「彼女は二年前、死んだの。本当は二年前に死ぬはずだったのよ!」


 ステラ(セイラ)の震えが止まった。

 シアンが腕の中のステラを見ると、彼女はすでに気を失っていた。


「ステラ! ステラ!!」


 王女を残しステラを抱え、救護室へと駆け出す。今日はこのまま帰らせた方が良いだろう。


 救護室でステラを寝かせると、二人分の早退手続きを済ませた。意識のないステラをプレアデス家の馬車に乗せ、アステリア家へと急いだ。



 ◇◇◇◇



 アステリア家の屋敷に着くと、ヴェガードがいつもの穏やかな表情からは到底、考えられないような厳しい顔で待ち構えていた。


 ステラが倒れたと、先触れを出しておいたのだ。あの様子だと知らせを受け、すぐに王城から転移したのだろう。


「どういうこと? シアン」


 いつもより一層、低く凍てついた声を放つ。


「想定外なことが起こった。話がしたい」

「いいよ。……こちらに。付いて来て」


 いつものサロンではなく、応接室へと通された。ヴェガードは素早く人払いと遮断魔法を掛ける。


「それで? 何があった?」

「エリス王女の正体がわかった」

「は? 何を言っている?」


 ヴェガードは険しい顔をした。


「ステラの魂が入っていたんだ。エリス王女の身体に」

「――何?」

「それを目の当たりにして、セイラが耐えられなくなった」

「待ってよ……全然、追い付かない」


 それはそうだ。

 ヴェガードにしてみたら、溺愛する妹の身体には見知らぬ者の魂が入っていて、さらに妹の魂は近くにあったのだから。


 ヴェガードは頭を抱えた。

 混乱しているのだろう。わからなくもない。


「二年前、セイラの魂がステラの身体に入り込んだ時に弾き出されたステラの魂が、それとほぼ同刻に命を落としたエリス王女の身体に入ったんだ」

「……え?」

「これは、恐らくなのだが。ルーカスの魂はステラの魂の中に入り込んでいたから、行き場を失って、あの木に魂を寄せていた。そして、ルーカスの魂が浄化されたことによって、ステラの魂が目覚めた」


 信じられないというように小さく首を振った。


「何なんだ、それは。一体、どうなっている?」


 確かに。理解が追い付かない。

 説明をしてはいるが、これが現実かどうかはまた別の話である。そう、これはまるで物語のようだ。


「やはり、ここは物語の世界なのだろうか……」


 ポツリと呟いてしまった一言に、ヴェガードが勢い良く顔を上げた。


「そんな馬鹿なこと、あってたまるか!」


 いつでも冷静なヴェガードからは考えられない。顔を赤くし、激昂していた。

 いつもなら、口にしない心の中の呟きを口にしてしまった自分もまた、普通ではなかったのだろう。


「僕らは生きている! この世界で生きている!」

「悪かった。ヴェガード」


 落ち着きを取り戻そうと窓際まで歩き、窓をあけ、風を入れる。『風魔法の公爵』といわれるアステリア家の一族だけあり、通り抜ける心地よい風に心を洗われる。庭園の花の香りを大きく吸い込んだ。


「いや、シアン。僕も悪かったよ。ごめんね」


 ヴェガードは何か噛みしめるように目を伏せる。シアンは小さく首を振った。


「気持ちは分かる」


 シアンの言葉にヴェガードは俯いた。


「ヴェガードには複雑かもしれないのだが……俺はステラのことが大事なのではないと、思い知った」

「それは? どういうこと?」

「エリス王女の中に存在するステラに、問われた。俺が大切なのは『ステラの身体か、その中の魂か』と。考えるまでもなかった。俺は――セイラのことを愛している」


 ヴェガードは大きく息を吸った。


「今はステラの身体にいるが、それが例え違う身体にいたとしても必ず見つけ出したい」


 ヴェガードはソファに腰掛けると、天を仰いだ。


「二年前……か」


 ヴェガードはその頃、学園を卒業したばかりで、宮廷法官として研修など忙しくしていた。家にも、殆ど帰ることがなかったように思う。時折、帰る時は学園に入ったことでステラも色々変わったのだと、そう思っていた。


 今のように毎日、顔を合わせていたら、ある日を境に突然、人格が変わってしまったステラに気付くことが出来たのかもしれない。


 今となっては後悔しかないし、もしその時に気が付けたとしても対処方法などなかっただろう。

 今のステラを大切に思うように、その時も変わらず、ステラを大切に思うだろう。それが例えステラの中に入っているのがセイラの魂であっても。

 何度、繰り返しても同じ対応をするとしか考えられなかった。



「ヴェガード。一度、直接エリス王女に会ってみてはどうだ?」

「……そうだね」

「俺がステラを送った時点で、ヴェガードにこの話をすることは、エリス王女も想定していると思うのだが」

「そうなると、エリス王女は僕に対して自分の兄として話し掛けるだろうね」

「ああ」

「複雑だなぁ……」

「兄妹だからな」


 二人は深くため息を吐いた。




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