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悪役令息の秘密の嗜み~今日も密かに悪役令嬢を愛でています~  作者: 夕綾 るか
第2章

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48. 婚約者候補

 


 学園に変化が起きた。


 アルカディア王国、エリス王女が学園に登園してきたのである。


 本来、王立魔法学園の一年生であるエリス王女は二年前、突如倒れ意識を失ってから今まで登園していなかった。


 しかし、最近になって奇跡的に意識を取り戻し、学園に登園出来るまでに回復したのだ。


 これには、国王や王妃だけではなく、彼女の兄、第一王子エウロスも、もう一人の兄、学園の三年生である第二王子エラトスも喜んだ。


 病状や状態は伏せられており、公にはエリス王女は元々、病弱だった為、療養中ということになっていて、王家や四大公爵家のみがその事実を知っていた。


 第二王子エラトスがエリス王女をエスコートし、学園に登園して来た。


 この事態に貴族達は沸き立った。

 何故なら彼女もまたステラと同様、未だ婚約者が決まっていなかったのである。


 公爵家の嫡男以外は婚約者候補として、名乗りを上げることになる。それはシアンやアイン、メラクが対象となることを意味していた。


 ピンクブロンドにゴールドの瞳。

 可憐に歩く姿は誰もが見惚れてしまう。隣には、プラチナブロンドに、同じゴールドの瞳を持つ兄、第二王子エラトスが並ぶ。

 優雅な王族の登園に学園は騒然となった。


 エリスは、ゆっくりと辺りに視線を移す。

 目が合った者達に、にっこり微笑むと甘いため息がどこからともなく聴こえてくる。


「お兄様。学園はどなたが案内してくださるの?」

「本当なら私が案内したかったのだけれど、学園の仕事があってね。エリスの希望はあるかい?」

「そうね……私、ステラさんにお願いしたいわ」

「ステラに?」

「ええ。お兄様の元婚約者様ですもの。私が知らぬ間に婚約が解消されていて、驚きましたのよ?」


 エラトスは苦笑いする。


「わかったよ。ステラには私から頼んでおくから。エリスはクラスで待っているのだよ」

「わかりましたわ。お兄様」


 二人は優雅に微笑み合うと、エリスのクラスの前で別れた。エラトスは、そのままステラのクラスに移動する。クラスの席にステラの姿を見つけると、声をかけた。


「ステラ」


 ステラが顔を上げた。思いがけない人物からの呼びかけに少々驚いた様子で目を瞬かせる。それでもさっと立ち上がると、礼をする。


「おはようございます。エラトス殿下」

「おはよう。ステラは今日からエリスが学園に来ているのは知っているね?」

「ええ。存じ上げております」

「私が学園を案内すべきなのだが仕事があって出来ないのだ。私の代わりに、エリスに学園を案内してやってくれないか?」

「私が……でございますか?」

「ああ。エリスたっての希望なのだ」

「エリス様の? 畏まりました。私で宜しければ」

「勿論だよ。助かる。宜しく頼む」

「ええ。承知いたしました」


 要件だけ伝えるとエラトスは自身のクラスに戻っていった。

 ステラは与えられた任務をこなすべく、エリスのクラスへと移動する。


「おはようございます。エリス王女殿下」

「おはようございます。ステラさん」

「ご案内させていただきます。どうぞ、こちらへ」

「ええ。宜しくお願いしますね」


 エリスは微笑むと、ステラの後について歩く。


 暫く、学園内を案内してお互いに特に会話もなく歩いていると、ふとエリスが声をかけてきた。


「ステラさん」


 名前を呼ばれ、ステラが振り返ると、何故か今までとは違う、冷たい視線を向けられていた。


「何故、エラトスお兄様との婚約を解消されたのです?」

「え? それは……」

「王家からの打診、というのは知っておりますわ。私がお伺いしたいのは――」


 エリスは驚くほどの凍てついた声で話す。その空気から、背筋に冷たい感覚が走った。


「あなたが何故、それをすんなりと受け入れたのか、ですわ」


 エリスは口元を隠していた扇子を、パシッと手に打ち付けながら閉じた。


「それは……エラトス殿下を守護されているテミス様の予言があったからですわ」


 ステラは少し俯きながら、口を開いた。今にも震えだしそうなのを堪える。

 エリスは答えに不服、と言わんばかりに、金色に輝くその瞳を細めた。


「以前のあなたなら、()()()()()()()で王子の妃の座を手放したりしなかったでしょう?」


 ステラは目を見開いた。

 確かに彼女が見てきたステラは彼女が倒れる前のステラであり、セイラを思い出す前のステラであった。だから、そんな印象を持たれても仕方がないと思えた。


 ――ただ。


 ステラは同時に違和感を持った。

 エリスのことは覚えているが、こんなことを言う方ではなかった。もっと、ふわふわとしていて、優しい瞳をした少女だった。王女とは(まさ)しく、彼女のことだといえるかのような。


 今、目の前にいる彼女は――到底、そうとはいえないような目を向けている。


 ――そう。あれは、(まさ)しく『()()』の目だ。


 ステラは息を呑んだ。身体中に悪寒が走る。今までに感じたことのない、苦しみ。

 どくり、と胸の奥から()()()()が湧き出てくる。ステラは無意識に胸を抑えた。


 ふと後ろから、ふわりと何かがステラを覆う。

 すると()()()()がゆっくりと浄化されていくのがわかった。


 耳元で声がする。


「やはりな。相互性は、あるのではないか?」


 聞き覚えのある声に、今は何故かホッとする。


「……シアン。何故、ここに?」

「ステラ。お前に呼ばれたんだ」

「私は……呼んでいなくてよ?」


 後ろから抱えられていた腕を解かす。振り返るとすぐ近くにシアンの顔があった。ステラは思わず、距離をとる。


 その様子を間近で見ていたエリスがふっと笑う。


「そういうこと、ですの?」


 ステラとシアンは、エリスを見た。


「お久しぶりね。シアン」

「お久しぶりでございます。エリス王女殿下」


 シアンは形式的に頭を下げる。

 エリスは今までステラに向けていた瞳とは、全く違う視線をシアンに向けた。


「これから学園に通うことになりましたの。仲良くしていただけると嬉しいわ」


 シアンは無言、無表情で再度、頭を下げた。


「ステラさん。今日はここまでで結構ですわ。また後日、ご案内、お願い出来るかしら?」

「畏まりました」


 ステラも頭を下げる。

 エリスはシアンにチラリと視線を送ると、ニコリと微笑んで立ち去った。


 ステラは心の中で息を吐いた。


 ――何か嫌な予感がしていた。






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