45. 幸せの存在
澄み渡った星空。神々の揃った丘に星が降る。
セイラの魂が願いをかけた。
『どうか、すべてを幸せに在るべき所へ』
聖なる木に光が灯る。その光は蕾となり、やがて光輝く花を咲かせた。
その花は三つに分かれると――
一つはルーカスとレイラの元へ。もう一つは大地の神クロノスと大地の女神レアの元へ。
そして、最後の一つは――
「うっ……うぅ、ん……」
アリサが目を覚ます。
辺りをキョロキョロと見回すと、目の前には目が眩むほどの美形がおり、彼女は悪魔ベリアルに抱えられていることを知る。しかし、顔色を一切、変えることはなかった。
彼女から、彼女の守護神が姿を現す。
『やっと、出てくることができた』
「あなたは……」
『私は貴女の守護神。貴女を助けたい、そう言ったでしょう? 私の契約者、アリサ』
「あなたは――冥府の神ハデス」
『いかにも』
ハデスはニコリと微笑むと悪魔からアリサを引き剥がす。
『彼女は私の契約者だからね』
ハデスはゆっくりと辺りを見回す。そして、状況を把握すると笑った。
『ああ。これは……そういうことか。なるほどね』
一人で納得し、手にしている『星花』の光を見つめ、それをアリサに手渡す。
『これは、私たちの分だ』
「え?」
呆然とするアリサに、ハデスは優しく言った。
『君は、転生される魂が結ばれて出来る子どもの魂だったんだ。だから、私が迎えにいった。私も二人の子どもだからね』
クロノスとレアがハデスを見つめると彼は照れくさそうに視線を逸らした。
『私たちは本来、在るべき所へ帰らなければならない。一緒に行こう。アリサ』
「わかったわ」
ハデスの言葉にアリサは頷いた。
そして、アリサは辺りを見回して、ステラの姿を見つけると近づいていく。
「ステラさん。今まで本当にごめんなさい!」
ガバッと頭を下げた。ステラは慌てて手を振る。
「いえ! アリサさんは、何も……」
「ううん。私はあなたのことを全然考えていなかった。あなたがどうなっても構わないと、そう思っていたの。本当に、本当に、ごめんなさい」
アリサは顔を上げると続けた。
「わかっていたのに。あなたがどんな結末を迎えるのか。なのに……私は自分のことばかりであなたのことを助けようともしなかった。だけど、あなたは私を救ってくれた。本当にありがとう」
アリサはにっこりと微笑んだ。
「これからはあなたが幸せになってね」
そういって、ハデスの元へ戻っていく――途中で、アリサが振り返る。そして、口元に手を当て、ステラに向かって言った。
「これ、隠しルートよ!」
ステラは目を見開いた。アリサは、ふわりと笑うとハデスと共に光の中へ消えていった。
――隠しルート!!
(確かに、あった! すべてのエンディングを制覇した後に出てくる選択だ!)
アリサさんはそれを選んだのだ。
ステラが一人頷きながら『なるほど』と納得していると、ルーカスが話しかけてきた。
『ステラ』
ステラが振り向くと、そこにはステラとよく似たレイラとシアンに似たルーカスが寄り添っていた。
『僕たちもやっと一緒にいられる』
『貴女のおかげよ』
そう言って、二人は微笑み合う。ふとルーカスの顔が曇った。
『ところで……セイラ。星花の光が足りない気がしないかい?』
ルーカスは魂であるセイラの名を呼んで言った。ステラは首を傾げた。
『君たちの分がないだろう?』
ステラとシアンを指差す。
「え?」
『だって。君たちにも呪いがかけられているだろう?』
「「は?」」
答えたのはシアンとヴェガードだった。ステラは顔を真っ青にして、ルーカスの口元を慌てて塞ぐ。
しかし――時、すでに遅し……
睨み付ける二人の視線を受け、まるで蛇に睨まれた蛙状態のステラにルーカスは苦笑いを浮かべた。
そして、『ごめん』と一言、呟いた。
「ステラ。どういうことか、説明してくれる?」
ヴェガードがステラに詰め寄る。ステラがジリジリと後ずさりすると、背中側にはもう一人が立っていた。
「俺にも聞かせてもらおう」
恐る恐る振り返ると、そこには『氷の仮面』が、冷たい視線を向けていた。
「「君たちとは、誰と誰だ?」」
二つの声が重なる。
「るっ、ルーカスのバカー!」
そう言って、ステラは猛ダッシュで逃げていく。そんなステラにルーカスは驚き、目を丸くすると、隣にいるレイラに睨まれた。
『一体、何をしたのよ? ルーカス』
『あ……えっと……』
ルーカスは気まずそうに頭を掻いた。
『僕もかけちゃったんだよね……ステラに呪いを』
『「「はぁ?」」』
ルーカスの発言にレイラだけではなく、ステラに逃げられたヴェガードとシアンも目を見張る。
『どんな呪いをかけたのよ?』
『それが――』
「――言っちゃダメ!!」
ルーカスが言おうと口を開くとどこからともなくステラが舞い戻り、ルーカスの口を手で塞ぐ。
「言ったら、一生恨むわ。御先祖様?」
ルーカスは口を塞がれたままコクコクと頷いた。それを見たステラが手を離す。
『でも、ステラ。呪いは――』
「聞いたの。星の花の声を」
『え?』
「それは幸せの在るべき所にあるのですよ」
ルーカスは目を見開く。そして、その意味にハッと気が付き、微笑んだ。
『そうか……そういうことか。わかったよ』
ルーカスは優しく笑い、ステラの頭を撫でると、その耳元で囁いた。
『頑張ってね』
ステラは耳を抑えると顔を真っ赤にして言った。
「御先祖様を恨みます!」
ルーカスは思わず口元を綻ばせた。




