41. 神話と真実
◇◇◇◇
国を見渡せる丘にある、一本の大きな木。
その木の下に一人の青年が立っていた。そして、その木に近づいてくる、一つの影があった。
青年はその人影を見ると目を見張った。その人影も同じように驚愕の表情を浮かべた。
『――君は……レイラ?』
「あなたは……シアン?」
二人は向き合い、お互いに首を傾げた。
『あれ? レイラじゃ……ないね』
「え? あなたはシアンじゃないのね?」
『僕はルーカス』
「私はセイラ」
『ああ! 君か! クロノスが連れて来た子だね』
「ええ、そうよ。貴方は――」
『僕はルーカス・アステリア。ステラの魂に入り込んでいたのだけど、君が転生してステラの魂が消えてしまったから、この木に縋るしかなかったんだ。元々僕の守護神だったクロノスがこの木に纏わる神だったからね』
「え? あの、アステリアって……もしかして?」
『そうだよ。僕はステラの先祖さ』
「でも、あの木の神話って……」
『元々はね、クロノスとレアの話なんだ』
「レア?」
『そう。大地の神クロノスと大地の女神レア。二人は夫婦神なんだ。君を連れて来たクロノスは、時を司る神で、大地の神クロノスとは別の神なんだよ』
ルーカスはにっこりと笑った。セイラはその笑顔に驚いた。
シアンの顔をしたルーカスが微笑んだのだ。あの『氷の仮面』をつけた顔が、見たこともない笑顔を作った。驚かないはずがない。
ルーカスは彼女の表情を気にも留めず、話した。
『僕にはね、レイラっていう恋人がいたのだけど。君にそっくりで。だから間違えてしまった』
ルーカスは苦笑いして『ごめんね』といった。
『僕たちは結ばれなかったんだ。神の呪いでね』
「えっ?」
ルーカスは悲しげに笑った。
『神の転生し続ける魂だったんだよ。僕らは。愛を伝え合うと、どちらかが死ぬ。レイラだったんだ。死んでしまうのが』
セイラは息を呑んだ。
『不治の病になってしまった。僕は、彼女を救いたくて、必死で調べたよ。星の花について』
「――『星花の伝説』ね?」
ルーカスはゆっくりと頷いた。
『丘までは見つけられたんだ。そして、そこにいるクロノスも。でも……星花の伝説は違っていた』
「え? どういうこと?」
『神が願いを叶えてくれるわけじゃない。大事なのは「星の花」自体だったんだ』
「それは――『その木に咲く、永遠の花』?」
『そう。だから……どう頑張っても、僕らの時では無理だったんだ』
ルーカスは俯き、目を伏せた。
『僕は……レイラにこのことを伝えられなかった。どうしても。そんな時、僕もレイラと同じ病にかかってしまったんだ』
「え……」
『僕の病を知ったレイラは、僕を救うために悪魔と契約してしまった。――そして、彼女の心は悪魔に捧げられ、彼女自身は魔女となった』
セイラは大きく目を見開いた。
『悪魔の心を持った魔女は、その恐ろしさと残虐さから「悪魔女」と呼ばれるようになった。僕は……彼女を見ていることが出来なかった。耐えられなかった。レイラの姿をした「悪魔女」を――』
ルーカスはそこで大きく息を吸った。そして、息を吐き出しながら一気に言った。
『――殺したんだ。僕の手で』
セイラは驚愕し、口元を手で覆った。ルーカスは切なそうに微笑むと『ごめんね』と、呟いた。
『そして、僕もレイラと一緒に死んだんだ』
セイラは大粒の涙をポロポロと流した。ルーカスは優しく微笑むと、それを親指で拭ってやる。
『レイラは呪いをかけた。僕の魂とプレアデスの家に。レイラの魂と僕の魂が出逢うまで、その身体に眠る心を凍らせる呪いを』
「それって……」
『多分、君が言っていたシアンだろうね。彼は――僕に似ているのだろう?』
「ええ。彼の名は――シアン・プレアデス」
ルーカスは目を見開き、瞬かせた。呼吸を整え、セイラを見る。
『呪いを……解かないとね』
「ええ」
『君達で終わらせよう。やっと終わることが出来る』
ルーカスは優しく微笑んだ。
『そうだ。君にはもう一つ、話しておかなければならないことがあるんだ』
「?」
セイラが首を傾げると、ルーカスが言った。
『死ぬ前にね、僕もかけたんだ。――「呪い」を』




