34. 王子の告白
「遮断魔法まで掛けて……何をしていたの?」
「殿下にお話するようなことはありません」
シアンは表情を変えずにエラトスを見た。
「私が聞いているのだから、答えるべきでは?」
エラトスの顔は微笑んでいるが、声には血の気が引くほどの冷たさが含まれていた。
ステラがビクリと少し肩を震わす。そこにシアンが手を回し、ぐぃと自分の胸に引き寄せた。
ステラは驚いた顔をし、シアンを見上げる。エラトスも同様に、驚愕の表情でシアンを見た。そんな二人の反応に構わず、シアンは口を開いた。
「俺がステラに婚約の申込みをしていました。誰にも邪魔をされたくなかったので、遮断魔法を遣いました。――これで御満足頂けましたでしょうか」
エラトスは目を見開き、大きく息を吸った。
「そうだったか。それは邪魔したな。すまない」
そう言うと、エラトスはステラに歩み寄り、その前に跪いた。突然の出来事にステラが慌てて、エラトスの横にしゃがみ込む。
「殿下! 何をされているのです?!」
「……ステラ。すまなかった」
「何をおっしゃっておりますの? 殿下が無闇に頭を下げてはいけませんわ」
「私はステラを助けたかった。だからテミスの予言に従って婚約を解消した。……アリサ嬢の魅了魔法に掛かっていたのも意図的だった。テミスに言われていた。そうしないと君が死んでしまう、と」
「……え?」
ステラもシアンもエラトスの突然の告白に呆然とした。
「今はアリサ嬢の魅了魔法をテミスが解いてくれている。テミスが君と話をしたいと言って――」
『初めまして。不思議な魂をお持ちのお嬢さん。そして――貴方も不思議な魂をお持ちのようね』
ふわりとテミスが現れ、ステラとシアンに微笑みかける。
二人は顔を見合わせた。その様子にテミスは目を丸くしたが、すぐに目を細めた。
『そういうことね……貴方達に予言をあげるわ』
三人はテミスを見る。
『探し物は東にあるわ』
テミスはにっこり笑うとふわりと消えた。ステラとシアンは彼女の言葉に思い当たるものがあった。
――『この国を見渡せる丘』。
そのことだろう。
しかし、何のことなのかわからないエラトスは、首を傾げていた。
「テミスが君達にした予言だからね。君達がわかればそれでいいんだよ」
エラトスは優しく微笑んだ。
「ステラ。私に出来ることは少ないだろうが……何かあれば言ってくれ。力になろう」
「殿下……ありがとうございます」
エラトスは立ち上がると、ステラの手を引いた。
エラトスの腕の中に収まると、ステラは驚き眼を瞬かせた。
耳元でエラトスが囁く。
「君と結婚出来たら良かったのに」
「……えっ?」
そして、すぐにエラトスはステラを解放した。
ぼんやりと立ち竦むステラにエラトスはクスリと笑い、シアンに向き合う。
「シアン。君はステラを幸せに出来るの?」
「えっ……エラトス殿下! それは……あの!」
「命を掛けても。ステラを幸せにしますよ」
「は……? シアン?」
エラトスは王子スマイルで微笑むと、ひらひらと手を振って歩いていってしまった。
その場にシアンと二人残されたステラは、あまりの気まずさに俯いた。
「何よ……あの宣言」
「ん? 何の話だ?」
「なんでしれっと命掛けてるのよ?」
「いや……多分、ステラが死んだら俺も死ぬだろうと思ったからな。本当のことだ」
「はぁ? 何故なのよ?」
「さぁ? 何故だろうな?」
ヴェガードがステラに話をしていないのだ。許可なく俺からステラに話すわけにはいかない。
ステラと俺の真実を知ったら、ステラはどう思うのだろう。共に運命に抗おうとしてくれるだろうか。
それとも――別々の道を歩もうとするのだろうか。
胸が苦しくなる。
この痛みが。この苦しみが。
呪いでなければ、いいのに。
そうしたら、ステラは……俺のこの苦しみを素直に受け止めてくれただろうか?
◇◇◇◇
思いがけず『丘』の情報を入手したことでシアンはアステリア家に寄って帰ることになった。
「シアン。いらっしゃい」
ヴェガードがいつものように迎える。小さく頭を下げると、彼は微笑み、ステラを見る。
「今日は一緒に帰ってきたの?」
「えっ? ……ええ」
「ふぅん。そう」
ステラがまだエラトスと婚約していた時は、二人になるのは出来るだけ避けていた。帰るのも別々で時間をずらしていたのだ。ヴェガードがそれに気がつかないわけがない。不満そうにしていたが、受け流し、サロンへと歩く。
サロンに入ると侍女を下げて本題に入る。
「今日、エラトス殿下と少しお話し致しましたわ。そして、テミス様から予言をいただきました」
「予言?」
「ええ。『探し物は東にある』と」
「そうか……そうすると、5ヵ所に絞れたな」
「ええ。そうね」
ステラが微笑んだ。その数なら一つ一つ、行ってみることも出来る。希望が見えてきた。
――しかし。
この後、誰も予想しない出来事が起こる。
――その夜は、綺麗な満月だった。




