32. 伝説と神話
プレアデス家の図書室。
ステラに確認して欲しかった本はプレアデス家の図書室からは持ち出す事が出来ないため、ステラとヴェガードに足を運んでもらった。
「これなのだが」
その本をステラに渡す。
二人掛けのソファに肩を寄せ合い、本を読む兄妹に以前と同じ空気を感じ、二人が元通りの兄妹関係に戻ったことを察知した。
しばらくして、ステラが口を開いた。確かにこの『伝説』が自分の探していた『神話』だ、と。
「これだわ……この丘を探したいの」
「この国を見渡すことが出来る丘か……」
ヴェガードは顎に手を置き考える。
あの様子だとルーカスとレイラの話はステラにしていないのだろう。
星の花の研究者であったルーカスでさえ、見つけることが出来なかったのだ。そう簡単には見つかる筈もない。
「丘について調べたのだが」
二人が俺に視線を向けた。
「この国に『丘』と名が付く場所は、36ヵ所ある。そのうち、この国を見渡すことが出来る『丘』は、23ヵ所だった」
「もう調べてくれたの?」
「ああ。絞っただけだが」
「流石だね、シアン」
「いや……もう少し絞れたら良かったのだが」
考え込んでいたステラが視線を合わせると、
「地図はあるかしら?」
そう言われ、書棚のある区画から地図を取り出すとテーブルに広げた。
ステラは頬に手を添え、地図を見る。
「こことここ、そして、ここに……」
と指で指し示していく。すかさず、ヴェガードがステラの指した場所を書き留めていく。
12ヵ所程に絞れたところでステラが言った。
「全てに行くのは、無理ね……」
確かに距離もあり、場所もバラバラ。全てを確認するのでは時間も体力もいるだろう。
「もう少し手がかりがあると良いのだけど」
ステラが少し俯くと隣に座るヴェガードがステラの頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。ここまでわかったのだから。僕も、調査を続けていく。ステラも思い出したことがあったら、必ず言うんだよ?」
「わかったわ。兄さま」
ステラはヴェガードに微笑んだ。
「それにしても……アリサ嬢の魅了魔法が強すぎて、計画が狂ってしまったな」
「へっ?」
ヴェガードの一言に、ステラは目を瞬かせる。
「色々聞き出そうと思ったのだけど……先日は少し油断してしまった」
「ああ……王城のガーデンパーティーか」
確かにあの時、ヴェガードは彼女の魅了魔法にかかっていた。ステラがあの状態のヴェガードを直接見なくて良かったと思う。
そう思い、視線をステラに移すと彼女は顔を赤く染めていた。
「ステラ、顔が赤いぞ。また熱か?」
「……また?」
俺が指摘するとヴェガードが怪訝な顔をしながらステラを覗き込む。彼女は顔を隠す様に両手で覆うと早口で言った。
「大丈夫ですわ! 熱もありません!」
「……ステラ」
ヴェガードがステラの両手を押さえ込む。ステラはヴェガードと視線を合わせようとはせず、彷徨わせた。
「一体……何を隠してるの? ステラ」
「なっ、何も隠しておりませんわ!」
「そんな状態で僕を欺けるとでも?」
「っ!!」
ガーデンパーティーの話をした後に赤くなったのだから、多分、あの事だろう。
「ステラはメラクから婚約の申込みをされたんだ」
「「えっ?」」
俺が代わりに言うと二人から同時に返事が来た。『違うのか?』と首を傾げると、ステラは慌てた様子で首を縦に激しく振った。
「そっ、そうなのですわ。だから吃驚して……それを思い出してしまって……」
「ふぅん。そう……」
ヴェガードは納得いっていないようだったが取り敢えず今はステラを追及するのを止めたみたいだ。
「それで? ステラはメラクからの婚約の申込みを受けるつもりなの?」
「いっ、いいえ。受けるつもりはないですわ」
そう言うとステラは、ふと真顔に戻り俯いた。
「私は、死ぬかもしれないから……」
「「え……」」
ヴェガードと俺は弾かれたようにステラを見た。
(まさか……それが理由で断ろうとしていたのか?)
ステラは両手をぎゅっと握り締めていた。
「死ぬかもしれないのをわかっていて婚約するなんて……出来るわけないわ。相手に失礼よ」
ステラは顔を上げると、寂しそうに笑った。胸がぎゅうと掴まれる様に苦しくなった。ヴェガードでさえも眉間に皺を寄せていた。
そんな事はないと言ってやりたかった。でもそう言い切ることも出来なかった。
何も言えずに、ただ彼女を見つめていた。
◇◇◇◇
やっと。
ヴェガ兄さまとシアンのお陰で『神話』についても『星の花』についても手がかりが出てきた。
あとはあの丘を探し『星花』を手に入れること。そして、アリサさんが誰を攻略するかを探ること。
まさか、ヴェガ兄さまが彼女に魅了魔法をかけられていたなんて、全然、知らなかったけれど。
多分、シアンのお陰で事なきを得たのだろう。
――ただ。
ガーデンパーティーの話が出てシアンとの出来事を思い出したら、顔が赤くなってしまった。ヴェガ兄さまに追及されれば、あの事を話さなければならなくなる。
(無理、無理、無理! 絶対、話せない! 額にキスのことなど! 恥ずかしすぎる! しかも本人、目の前にいるし!)
と、そう思っていたら――
(――目の前の本人に援護された? メラクからの婚約申込み? それで赤くなったと? それ以上の出来事があったのですが!! ……本人、無意識ですか? まさか、無かったことに?)
本当に……シアンの思考回路がどうなっているのか、甚だ疑問だ。
それに――新しい婚約など出来るわけがない。
その相手が誰であっても。
死ぬのがわかっていながら婚約なんて。そして、処刑になるのなら、尚更。
そんなの……婚約者の迷惑にしかならない。
二人の苦しそうな顔を見たら私の方が冷静でいることが出来た。
(私のために……そんな顔をしてくれて、ありがとう。ヴェガ兄さま、シアン)
私は二人に微笑むことしか出来なかった。
ご覧いただき、ありがとうございます!
『続きが気になる!』と思われたら、
ブックマーク、評価いただけると、嬉しくなって、とても頑張ってしまいます!
☆宜しくお願いいたします☆




