30. 灯台下暗し
◇◇◇◇
ガーデンパーティーの数日後、王城の図書館。
ヴェガードはステラの話を聞いてからずっと神話や星の花について調査していた。しかし、神話についての文献や資料は全くと言っていいほど、見当たらなかった。
「ん? これは……」
一つの本を手に取る。
「――『星花の効能についての考察』。星花? 星の花のことか?」
手に取った文献をパラパラと捲る。
「え? ……嘘だろ?」
ヴェガードは手を止めた。
そこには星の花の研究者の名前があった。
――ルーカス・アステリア。
紛れもなく、アステリア家の先祖の名前だった。
屋敷に戻ったヴェガードは文書保管室へと急ぐ。
そこにはアステリア家に代々受け継がれてきた文書や資料、書物が保管されている。
ルーカス・アステリア。
星の花の研究者。
何か星の花に関する資料があるかもしれない。年代的には約三百年ほど前の先祖だ。
(見つけた! これだ!)
まさかこんな近くに手がかりがあったとは。
資料を開くと、見覚えのある人物の肖像画がペラリと落ちた。拾い上げて、驚く。
(これは……シアンとステラ? いや、まさか)
裏返すとそこには、所々変色し薄くなったインクの文字が並んでいた。
『ルーカス・アステリア』『レイラ・プレアデス』
(レイラだって? レイラって……あの稀代の悪魔女?)
今では御伽噺のようなものだが語り継がれる物語の一つ。――悪魔女レイラ。
(それがプレアデス家の出身なのか? しかもアステリア家の者と恋仲だった?)
ルーカスについての書類を調べるうちに彼の日記のようなものを見つけた。正しくは経過観察に近いものだったが。
要約すると、こうだ。
ルーカス・アステリアとレイラ・プレアデス。
結ばれる事のなかった二人。
レイラが不治の病を患ったことにより、ルーカスは星の花を調べた。その当時、星の花を咲かせる木がある、と云われ、その花に願いをかけると何でも叶うという伝説があった。
ルーカスは、それにかけたのだ。
しかし、無情にも先にルーカスが身体を壊してしまった。レイラはもう動かない身体に鞭打ち、悪魔を召喚する。悪魔と契約したレイラは魔女となり、ルーカスを救った。
ただその契約内容が問題だったのだ。悪魔に魂を売った魔女は、悪女と化した。以前の清らかな心を持ったレイラではなかった。
ルーカスは嘆き悲しみ、彼女と共に滅びる決意をした。
愛していた者に殺される。
自分が命をかけて救った、愛していた者に。
彼女は呪った。彼の魂を。――永遠に。
そして、いつしか彼の魂が彼女の魂に出逢うまで、その身体に眠る心を凍らせた。
その氷を解かせるのは、ただ一つ。――愛する者の魂。
(――まさか。プレアデス家は隠しているのか? シアンがあの御伽噺の『呪われた子』だ、と)
知ってしまった今となっては、どう考えてみてもシアンのあの状態は、そうとしか思えない。
『冷色の貴公子』『氷の仮面』とそう呼ばれている、彼の状態が。
シアンが魅了魔法にかからないのは、呪いがかけられているから。魔法の浄化の能力もシアンの身体自体が呪われているから。呪いの力によって、相殺されているだけなのだ。浄化ではない。
ヴェガードから血の気が引いた。
(――だとすれば、ステラはルーカスの魂を持っているのか? だから、互いに惹かれ合っている? シアンは……ステラがルーカスの魂を持って生まれたから呪われてしまったのか)
ヴェガードは一人、驚愕で動けずに佇んでいた。
◇◇◇◇
ガーデンパーティーの数日後、王立魔法学園。
シアンが魅了魔法を解いたが、その効果はアリサの前では無力だった。今日もアリサの周りにはエラトスをはじめ、ラサラス、メラク、アインが囲んでいた。
ステラはシアンがあのガーデンパーティーの日に発した言葉の意味を痛感していた。
――『根本をどうにかしないと終わらない』
確かにそうだ。アリサの魅了魔法をどうにかするしかないのだ。アリサは着実に攻略対象との距離を詰めている。まだ誰のルートに入っているかはわからないが。
ステラは焦っていた。
どうにかして、アリサよりも先に見つけないと。うまくいけば、彼女の魅了魔法も何とかなるかもしれない。
でも。手がかりがない。神話も星の花も。
アリサは見つけたのだろうか? 攻略対象たちを救う『星花』を。




