26. 庭園の茶会
週末。
王城のガーデンパーティーに参加していた。
プレアデス家からは近衛騎士団所属の兄アトラスと自分、そして、学園の一年である弟アインが出席していた。
アステリア家は宮廷法官のヴェガードとステラ。
グラフィアス家はラサラス、メラク、アクイラ。
トゥレイス家からは宮廷魔術師のザニア、そして妹のメリッサ。
四大公爵家の令息令嬢が勢揃いしていた。最近では滅多に揃わない。兄たちは皆、職務に就いているからだ。
「久しぶりだな。ヴェガ、ステラ」
兄アトラスがヴェガードとステラに歩み寄った。俺とアインもついていく。
「ああ。アトラスもアインも元気そうだね」
ヴェガードが柔らかく微笑む。すると、アインが横からステラに話しかけた。
「相変わらず、可愛くねぇな。ステラ」
ステラはアインを軽く睨んだ。アインは、いつもステラに悪態を吐く。
弟のその態度にアトラスは苦笑いした。
「やめろ、アイン。ヴェガが……怖い」
ヴェガードを見ると微笑んではいるが、その視線には怒りが滲み出ていた。それに気が付いたアインは目を丸くして、視線をそらした。
「気をつけろ、プレアデス家が滅ぼされるぞ」
アインはぶるりと身体を震わせると、その場から足早に逃げ去った。
「ごめんな。アイツ、いつもステラを見ると攻撃的で。ステラのこと、好きなんだろうな」
「そうは思えませんけど」
ステラはアトラスの言葉に即座に反論し、大きくため息を吐き出す。アトラスは頭を掻いた。
「まぁ、男は気になる女にちょっかい出したくなるんだよ。なぁ、ヴェガ」
「僕ならそんな言葉を使って、ちょっかい出さないけれど。ねぇ、シアン」
「?」
急に話を振られても、ちょっかいなどという意味がわからず、首を傾げると、兄たちは揃って苦笑いをした。
「やぁ。皆、久しぶりだね」
「ザニア。元気か? 王城ではあまり見ないが」
「ああ、元気だよ。最近は……まぁ色々あってね」
「「ああ……」」
兄たち三人には理解出来る話らしい。
主には強力すぎる守護の力と魅了魔法についてのようなので……主人公のことだろうが。
宮廷魔術師のザニアにはかなりの仕事がきているらしい。今日も本来なら、このガーデンパーティーには参加出来なかったと言っていた。
兄たち三人の話をただ黙って聞いていた。
◇◇◇◇
アリサの周りには第二王子エラトスとラサラスがいた。そこには、ラサラスの弟メラクの姿もある。ラサラスがメラクとアクイラをアリサに紹介し始めた。
「アリサ嬢。俺の弟メラクと妹アクイラだ」
「はじめまして。アリサ・ベルクルックスと申します。同じ学園なので、仲良くしてくださると嬉しいわ」
「こちらこそ。僕はメラク・グラフィアス。そして双子の妹、アクイラです」
アクイラは黙ったまま、淑女の礼をする。
しばらく一緒に歓談していたが、徐々にアクイラの顔が青ざめていく。そして、アクイラはメラクに耳打ちすると、ゆっくり立ち上がった。
「すみません。アクイラが体調が悪いみたいなので少し席を外します」
メラクはそういうと、アクイラを支えて、庭園の端のベンチへ連れていった。
それを見たアリサは、イベントが始まったと確信し、王子たちから距離を取って、双子に近づいた。
「アクイラさん、大丈夫ですか?」
「……ベルクルックス男爵令嬢?」
「アリサって、呼んでください」
「え?」
にっこりと微笑むアリサに、メラクは一瞬にして心を奪われた。
「アリサ嬢。アクイラなら大丈夫だと思います」
「でも……心配ですわ」
「アリサ嬢は優しいのですね」
メラクは微笑んだ。
しかし、その間にもアクイラの体調は、どんどん悪くなっていく。アクイラはメラクに耳打ちした。『一人で空部屋を聞いて休むから、あなたは兄をお願い』と。
メラクは無言で頷くと、アリサをエスコートしてガーデンパーティーへ戻っていった。
アクイラはふらふらとよろけながらも、城の中へ入ろうとしたのだが力尽き、途中の生垣でしゃがみこんでしまった。
その姿は誰にも見つけられそうになかった。
◇◇◇◇
イベントが始まった。
このガーデンパーティーでは攻略対象が多く参加している。出会いのイベントが各所で起こる。
まずは、メラク。
兄であるラサラスを通じて、紹介される。彼らは双子特有の問題を抱えているのだ。私がその問題を解消してあげ、メラクと恋に落ちる。
メラクと出会った後はプレアデス兄弟。それからトゥレイス家のザニア。
ここですべての攻略対象に出会う。
メラクまでは順調そのものだ。
アクイラが体調を悪くしたのは想定外だったが、何とか二人きりに持ち込めた。
メラクはアクイラとの関係の苦しい胸の内を主人公に、ポロッと明かしてしまう……はず、なのだが。いっこうに話を始めず、メラクは、ただ私を見て微笑むだけ。
そのうち会場に戻ってきていた。一度、整理しようと思い、メラクに断りを入れ、化粧室へ行く。
何かがおかしい。
アフロディーテのことや光魔法のこともそうなのだが、物語と違っていることが多すぎる。
イベントなどは物語通りに起こるのに……何故だろう? 内容が違う。
とにかく――今は、次の出会いイベントだ。
夜会ですでに知り合っているヴェガードと偶然、出会い、一緒にいる近衛騎士団のアトラスと、宮廷魔術師のザニアを紹介される。悪役令息のシアンも一緒にいるはず。皆と仲良くなるイベントだ。
シアンと仲良く話をしていると、エラトスが嫉妬して割って入ってくる――という物語だった。
化粧室を出ると、すぐにヴェガードと出会った。
「やぁ。アリサ嬢じゃないか。夜会以来だね。また会えて、嬉しいよ」
「ヴェガード様。私もお会いできて嬉しいですわ」
アリサは、にっこり微笑んだ。
その微笑みにヴェガードだけではなく、その場にいたアトラスもザニアも目を見開いた。
「アリサ嬢。紹介するよ。彼はアトラス。そして、彼がザニアだ」
「君が噂の御令嬢だね。会えて嬉しいよ。私はアトラス・プレアデス。君は確か、学園でシアンと同じクラスだったね」
「ええ。シアン様にはいつも御世話になっておりますわ」
「俺は君の世話など一切していない。そして、その呼び方も許していない」
シアンは冷たい視線をアリサに向けると、その場を立ち去ろうとした。それをアトラスに止められる。
「悪いね。シアンはいつもこんな感じだから」
アトラスは苦笑いし、シアンの肩を掴んだ。
シアンは眉間に皺を寄せる。その場の空気を変えるようにザニアが自己紹介を始めた。
「私はザニア・トゥレイス。よろしく」
アリサに、にっこりと微笑んだ。安心したアリサがザニアに微笑み返す。
ザニアの眉がピクリと動く。彼もまた、シアンの反対側の肩を掴んだ。
そこへエラトス殿下がやってきた。
「アリサ嬢。ここにいたのか。探したよ?」
「エラトス殿下。お探しだったのですね。御手間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」
アリサが微笑むと、エラトスもまた微笑んだ。
アリサはチラリとシアンを見る。しかし、その視線が交わることはなく、彼は別の方向に視線を向けていた。彼の視線の先を追うと、そこにはステラ・アステリアの姿があった。
ステラはアインと一緒にいた。
アインが何かをステラに言っているが、ステラはアインを見ようともしない。そのうちに、アインがこちらに気が付き、近づいてきた。
「あんたがアリサ・ベルクルックス?」
「ええ、そうよ。貴方は……」
「オレは、アイン・プレアデス。……へぇ。光魔法が使える割には冴えない魔力だね」
「お前! すまない。ベルクルックス男爵令嬢」
「いえ、大丈夫ですわ。そうだ。皆様、どうぞ私のことはアリサと呼んでください」
ニコリと微笑むと、アインは瞳を大きく開いた。
「図々しいね。男爵令嬢のクセに。いいよ? 呼んであげても」
アインは片方の口角を上げた。
アトラスは注意したばかりなのに悪態を吐く弟にこめかみを押さえる。そして、シアンは、目の前の出来事には興味が無さそうに、まだ視線をステラに向けていた。
アリサはその視線の先にいるステラを、無意識に睨み付けていた。
ヴェガードはそれを微笑みながら見つめていた。




