24. 魅了の女神
どうもおかしい。
召喚の儀式以降、私の守護神アフロディーテが姿を現さない。本来であれば、私の傍らにいて、力を貸してくれるはずなのに。声をかけてみても、何の反応もない。
ただ魅了の魔法だけは、桁外れに効果を発揮しているようだった。それ以外の魔法はあまり使えないので、わからないけど。
正直、ラサラスに救護室で回復魔法のことをいわれたときは焦った。光魔法が遣えても、回復魔法は不得意だったからだ。
何故だろう?
確か、物語の主人公は得意だったはずなのに。
何かが違っている。
御披露目の夜会で第二王子とステラの婚約解消が発表されたのも、本来の物語とは違っている。
本当なら、一年後に断罪、婚約破棄のはず。
何故、婚約解消になったのか、理由もあの場では知らされなかった。
でも出会いのイベントは起こった。ヴェガードに出会えた。
彼から誘ってきてくれた。見目麗しくて、優秀な宮廷法官。ゲームの中でも人気が高かった登場人物の一人。まるで夢のような時間だった。
確か、ヴェガードルートは……
(そうだ! 彼を助ける。あれを使って)
どのルートでも、あれは必要だった。
(あれを探さなきゃ! 彼らを助けるための『あれ』を!)
◇◇◇◇
『助けて。お願い……助けて……』
『あなたは、誰?』
『私は……あなたの守護神……』
『守護神?』
『そう。あなたを助けたい。だから私を助けて』
『どうしたら、いいの?』
『わからない』
『あなたにも、わからないの?』
『そう……でも、あなたが光を感じてくれたら』
『……光を感じる?』
『そう。今のあなたは、光が弱い』
『どうすれば、いいの?』
『心を強く持っていて。流されては駄目』
『わからないわ』
『お願い……私のために。彼女と話して……』
――夢? ……あれは、誰?
目を覚ますと、ふわりと花の香りがする。
とても心地がよい。
『やっと、話せた』
「えっ?」
『貴女がアリサね』
「アフロディーテ!」
『そうよ。ずっと貴女と話したかった』
「私もよ! 何故、出てきてくれなかったの?」
『それは……私にもわからないの。ごめんなさい』
「でも、よかったわ。話せるようになって」
『そうね。貴女……不思議な魂を持っているわね』
「え?」
『心と身体が一体ではないといえば、わかりやすいかしら?』
「そうね……そうだわ! 私は異世界から来たの。だから、この世界のことは何でもわかるわ」
『……何でも?』
「ええ。そうよ。これから起こることも、どうすればいいのかも」
『そう……』
アフロディーテは目を伏せた。
『貴女のもう一人の守護神は、誰?』
「……え? どういうこと?」
『……わかっていないのね』
アフロディーテは小さくため息を吐いた。
『貴女にも、わからないことはあるわ』
「……」
アリサは悔しそうに唇を噛みしめ、俯く。
『だから、驕ってはダメよ』
「……アフロディーテがいるから、いいじゃない」
『え……?』
「私にはあなたがいるから、いいじゃない!」
『……アリサ?』
「私がわからないことは、あなたが教えてくれればいいの! 私に出来ないことは、あなたがやってくれればいいじゃない!」
『アリサ……』
「私の守護神なんだから、私を守ればいいのよ!」
『……わかったわ』
アフロディーテは寂しげに俯くと、ふわりと姿を消した。
それからアフロディーテが姿を現したことにより守護の力が強まったアリサの周囲には、自然と人が集まるようになった。
学園においても物語通り、過保護に接する者たちがアリサを取り巻く。
第二王子エラトスをはじめ、ラサラスやメラク、アインまでもが、その中にいた。
アリサはもう二度と、あんな想いをしたくないと思っていた。
……あの記憶を取り戻してからの五年間。
それは、とても酷いものだった。




