2. 魔法の王国
魔法と神の守護があるアルカディア王国。
この国には、四大公爵家がある。
四つの基本魔法を各公爵家が担っており、プレアデス家は水魔法。そして、アステリア家が風魔法。火魔法はグラフィアス家。土魔法はトゥレイス家が各々取り纏めている。
魔法としては、他にもそこから派生しているものもあるのだが、各家、得意な系統があるだけで違う属性でも使えるし、個人差もあるため、必ずしも、家柄の属性が得意とは言い切れない。例えば光魔法や闇魔法、氷魔法や雷魔法がそれである。
基本的には魔法の発動に杖などの魔法具を使うが、その技術や魔力が上級になる程、アクションや詠唱だけで発動することが出来る。
ただ、それが出来るのは、ごく僅かだ。
王族では学園を既に卒業している第一王子エウロス殿下や第二王子エラトス殿下は出来るのだが、彼らの妹であるエリス王女は出来ない。
プレアデス家では兄アトラス、弟アインも魔法具なしででき、勿論、次男である俺も詠唱だけで魔法を発動することが出来る。
アステリア家ではステラの兄ヴェガードもステラも出来るし、グラフィアス家では長男のラサラスだけが出来る。彼の弟、次男のメラクと妹のアクイラは出来ない。トゥレイス家ではメリッサの兄ザニアは出来るのだが、メリッサは出来ない。
学園に通っている生徒の中には魔法具なしで魔法を発動出来る者は、他にいなかった。
エラトス殿下とステラ、ラサラス、メリッサと俺は学園の最終学年である三年で18歳だ。
二つ下の一年にエリス王女殿下、そして、双子であるメラクとアクイラがいる。
四大公爵の中でも、とある理由からトゥレイス家は他の公爵家とそれほど交流がない。それもあり、メリッサとステラの仲は元々良くなかった。
そして、学園に入ってからはステラのあの態度だ。何故、あそこまで嫌われようとしているのか。
自分の気持ちに嘘をついてまで。
彼女が本心でやっている様には見えなかったし、実際、彼女の人間性からも理解出来なかった。確かに、今までも傲慢であったり、冷徹な態度はあったのだが、そこまで露骨に嫌がらせをしたり、暴言を吐いたりしてはいなかった。
そして、その対象が決まっているということも疑問だった。
「何をしている」
「ひぃっ!!!」
ステラに後ろから声をかけた。クラスの扉の前で立ったままで、邪魔だったからだ。
彼女はビクリと肩を揺らすと、恐る恐る振り返った。
「……悪役令息……」
「……今、なんて?」
「っ!!」
聞こえた言葉に顔色一つ変えずに聞き返すと、俺の顔を見た彼女が『しまった』と目を見張り、慌てて走り去っていった。
彼女は学園に入った頃から、何か変わっていた。明らかに今までの彼女と違うのだ。人格が変わったというなら、そうかもしれない。
それはもう、俺の知っている幼馴染みの『彼女』ではなかった。