16. 二人の距離
魔法薬の実験の授業にて。
あの優秀なステラが実験に失敗した。それをフォローしたのがシアンだった。
「ステラが実験に失敗するなんて、珍しいな」
「体調でも悪いんじゃねぇか?」
第二王子エラトスとラサラスは幼馴染みのため、普段から砕けたやり取りをしている。
「ステラ様は、シアン様と仲がよろしいのですね。エラトス殿下という素敵な御婚約者様がいらっしゃるのに」
アリサがそういって、エラトスに視線を向けた。目が合うと少し憂いを帯びた表情で美しく微笑む。
「ああ、シアンとステラは幼馴染みだからな」
ラサラスがアリサに視線を移した。
「まぁ、俺も幼馴染みの一人だけどな!」
にかっと笑って、遠くの二人を見る。
アリサは何処か面白くなさそうに視線を同じ二人に向けた。
呆然として煤だらけのステラの顔に、フッと表情を緩めたが、次の瞬間、シアンが自分のハンカチでその顔を拭き始めたのを見て、目を見開いた。
それは、その班の全員が同じで。エラトス、ラサラス、メリッサまでもが驚愕の表情を浮かべた。
あのシアンが、誰かの世話を自分からするなど……あり得ない。目の前の光景に言葉を失くす。
「あ……あれ? シアンって、あんなにステラと仲が良かったっけな? どっちかっていうと、俺の方がステラとは仲が良かったと思うんだけどな」
ラサラスは顎に手をあて『うーん』と唸る。エラトスは、じっと二人を見つめたままだった。
その二人の様子を見ていたアリサは決めた。
――シアンルートを攻略しよう、と。
◇◇◇◇
二人の距離に危機感を感じた。テミスにステラと婚約破棄になるといわれてから、一層、ステラを手離したくなくなった。
いつから自分にこんな執着心があったのかと思うほどに。
ただ同じように、目の前にいるアリサ嬢のことも気になっていた。ステラの婚約者としての立場を思い、気にかけてくれたひと言に胸が高鳴った。
その日、私室に戻るとテミスが現れた。
『ステラちゃんに危険が迫ってるわ』
「何だって?」
『彼女、このままだと……死んでしまうわ』
「え?」
『だから、今すぐ婚約を解消してあげて』
「はぁ? 何で、そうなる?」
『貴方のせいで死ぬことになるのよ』
「どういうことだ?」
『詳しくはいえない。けれど、婚約が解消されれば生きる可能性も出てくる』
「……解消しなければ?」
『ほぼ間違いなく、ステラちゃんの命は一年以内に失われるわ』
頭を抱え、『はぁ』と大きなため息を吐き出す。
(一体、何が起こっているんだ。婚約を解消するとして、理由はどうする?)
『テミスの予言』
「え?」
『そういえばいいのよ』
テミスはパチリと片眼を瞑って見せた。
私はもう一度、大きなため息を吐いた。
ステラとシアン。
二人の距離が縮まっている今、何故こんなことになるのかと。自分の運命を呪いたくなった。