表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/146

143.破壊の方法

 


 魔法具によってかけられた魔法を解く方法はその魔法具を破壊するか、《光魔法》『解除』だけだ。

 あいにく、アインは光魔法を持ち合わせてはいない。他に方法はなくもないのだが、その場合、身の保証は出来ない。何らかの後遺症が残ってしまう可能性が高い。忘却の魔法であれば、記憶に関するもの、だろう。


 だから、下手に手出しは出来ない。


(何でだよ? 何で自分にも遮断魔法をかけなかったんだよ、兄貴!!)


 王族の所有物を破壊するなど――ましてやそれが他国の王族であればなおさら、ありえない。


 ――何とかしてあのオルゴールを壊さなければ。


 アインの頭の中には、例の魔法具を『破壊』することしか選択肢はなかった。


(待てよ……破壊? そうか! なぁんだ、そういうことか!)


 “何か”を思い浮かべたアインはニヤリと笑うと、遮断魔法の中でブツブツと魔法を詠唱し始めた。


 ふわりとどこからか小鳥が浮かび上がるとアインの膝の上で留まり、暫く『チチッ』と鳴いていたのだが、主が瞬きしたのを合図に、一つ小首を傾げ、やがてパタパタと飛び立つ。


 まるで、そこが部屋の中とは思えないほど大きく旋回すると、勢いよく壁の向こうの空に羽ばたいていく。


 あっという間に窓の外に広がる空の彼方へと消えていった。――ここは部屋の中。そして、窓は開かない、というのに。


(さて、と。これからどうなるか、静観しますか)


 シアンのことは心配だが、忘れているだけで操られているわけではない。兄は優秀だ。状況だけなら自分で把握出来るだろう。それだけ信頼している。――今の自分は兄のかけた魔法に護られているのだから。


 あの頃とは違う。

 兄も苦しんだはず。表情をなくすほどに。あの時、かけられなかった魔法が今、この身を覆い包んでいる。


 ――本当はあの時、こうしたかった。


 この魔法をかけた時の兄シアンの顔はそう言っているかのようだった。



 ――パチンッ!!



「えっ?」


 まるで泡が弾けるように解けた遮断魔法に無音の世界から突然、音が戻ってくる。思わず漏れた声に反応するように扉がノックされた。


「いかがなさいましたか? 入室してもよろしいでしょうか?」

「……」


 入室の許可を出していないというのに扉が開く。つい怒鳴りつけそうになるのをグッと堪えた。


「何だ……聞き間違いか。そりゃあ、そうだよな。アレ、12時間は効き目あるらしいからな……」


(ああ、知ってるよ? アレ、ね)


 王女の部屋には、もう一つ、仕掛けがあった。

 ――あの“瑞々しい花の香り”。

 ()()()()()()()()()()()()


 アレは思考を麻痺させる吸入タイプの神経毒だ。王女はあの時、シアンに握手することで解毒した。彼女たちは何も知らないだろうがその程度の毒なら耐性がある。アルカディア王国の四大公爵家を侮りすぎだ。


 部屋にズカズカと入ってきた従者は冷めた紅茶にポトリと何かを落とす。


「飲んでくだされば、手間が省けて助かるのですが……まぁ、そうもいきませんよね」


 ぼんやりと一点だけを見つめ続けている公爵令息を見下ろすと肩を竦めた。


「あと10時間後にまた来ますね、公爵令息殿。あちらのご令息も次の段階ですから……私も忙しいのですよ。あ、気が向いたら、コレ、飲んでくださるとありがたいです」


 言いたいことだけ伝えると、部屋を出ていった。


(絶対許さねぇ。間違いなく毒じゃねーか)


 扉が閉まったことを確認すると眉をひそめた。

 命を奪うほどのモノではないが身体の自由を数日間、奪うくらいは出来るだろう。――コレもまた、効かないのだが。


(それにしても……“次の段階”って、何だ? そのせいで兄貴の魔法が切れたのか?)


 遮断魔法が切れたことによりシアンの身に何かが起こったことは確信していた。記憶を失っても解けなかった魔法が切れたのだ。それ以上の出来事が今、起きている、ということである。


 シアンの遮断魔法がない今、アインは魔法が遣えずにいた。



 ◇◇◇◇



「随分遅かったね……何かあったのかな?」


 ヴェガードの目の前に、アインの髪色と同じ青紫の小鳥が現れる。ソファの肘掛けに留まり、チチッと鳴いて首を傾げた。


「なるほど。思ったより賢かったようだ」


 伝達鳥から報告を受けると、口元を吊り上げる。


(それくらい手応えがないと、やりがいがない)


 これは愛するステラに対する高額請求(報復)なのだから。


「こちらも全員揃えて、参りましょうか」


 国の外側を護る第二王子と近衛騎士、宮廷魔術師、宮廷法官。続編の攻略対象にもなっている公爵家嫡男と次男。


 そして――


「準備はよろしいでしょうか? ――ハデス様」


 その部屋にはローブを纏った二人が存在していた。


「アリサ嬢」


 ふわりとローブを上げると『もちろんです』と、微笑んだ。


「あのような事態を起こした者を放ってはおけないからね」


 ハデスはローブを深く被ったまま、美しく整った顔に乾いた笑みを浮かべる。その顔にアリサが苦笑いするとハデスはアリサのフードに手をかけ、深く被せ直した。


 本編の隠しキャラと主人公。全員総出で赴こうではないか。“逆ハー”狙いの傲慢王女様のために。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ