13. 策略の開始
王子がいるクラスには、攻略対象が二人もいる。様子を見ようとクラスの前に行くと、早速イベントが発生した。
エラトス王子との遭遇イベントだ。
王子の方からぶつかってきた。彼に抱き上げてもらい、救護室まで一緒に行くと、丁寧に謝っていった。
ここから少しずつ距離を縮めていく。彼の婚約者である悪役令嬢ステラ・アステリアの暴言と陰湿な嫌がらせによって。
でも、今まで一切、私に対する嫌がらせがない。様子を見ているとステラが嫌がらせをしているのは王子とメリッサにだけだった。
そして、どうしてか悪役令息シアンとよく一緒にいるようだ。シアンルートはプレアデス家に関わることだから学園内のイベントはあまりない。出会いのイベントも何故か上手くいかなかった。
本来であれば、渋々、彼の方から学園を案内してくれるはずだったのに。
まぁ、いいわ。今はまず他の攻略対象との出会いのイベントを確実にこなしていこう。
そして授業後、もう一度、王子に会いにいくことにした。
ゲームの物語通り、王子にステラのことを伝えると自分がされている態度と同じだったこともあり、すんなり信じてもらえた。
王子、チョロいな。
でも、私は王子を狙ってない。だから、ステラと婚約破棄しなくてもいいのだけど。まぁ、悪役令嬢はどのルートでも処刑だけしかエンドがない。王子との婚約破棄は、決定的だ。私と結ばれなくても、メリッサが婚約者になる。本当にステラに転生しなくてよかったと思う。
それよりも、誰を選ぼう?
まだ出会っていない攻略対象が多い。これからがまた楽しくなりそう。
私はウキウキと心を踊らせた。
〜・〜・〜
その日はもう一つの出会いイベントが起こった。四大公爵家の一つ、火魔法のグラフィアス家、長男ラサラス・グラフィアス。第二王子エラトス殿下と同じクラスの明朗快活系男前美男子。
救護室からエラトス殿下が出ていった後、ベッドの上で救護教員を待っていると、突然、仕切りのカーテンが開いた。
「おっと。悪い。間違えちまった」
「いえ……」
「おっ! お前! 女神アフロディーテを召喚したヤツだろ?」
「えっ、ええ」
「名前……確か、アリサ・ベルクルックスだったな。俺はラサラス・グラフィアスだ。隣のクラスだが、よろしくな」
そういうと握手し、ブンブンと上下に手を振る。
「光魔法が得意なんだって?」
「ええ」
「そんならさ、その足、自分で治せばいいんじゃねぇか? 何でわざわざ救護室来る必要あるんだ?」
「えっ?」
顔はニコニコ笑っているのだが、何か引っ掛かる言い方だった。それも一瞬で。次の瞬間には教員が来たこともあり『お大事に』と手をひらひら振って出ていってしまった。
嵐のような出会いだったけど、こちらも少しずつ仲を深めていこう。
(ラサラスには……そうだ! 可愛い弟がいた!)
名前はメラク。一年生の弟キャラだった。双子の妹がいて、二人とも可愛い系の容姿。
兄がビビッド系のオレンジの髪、ダークレッドの瞳なのに対して、メラクはオレンジブラウンの髪、瞳は薄赤とゴールドのオッドアイ。妹のアクイラはオレンジアッシュの髪に、メラクとは逆目のオッドアイ。
この双子にも、物語があった。ラサラスを通して出会いのイベントがあるので今後、メラクとも関わりが出てくると思う。こちらも進めていきたい。
(ここまで来ると逆ハーレムルートもありかな?)
「ふふふっ」
自然と顔が緩んでしまった。