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108.確執の解消

 

 ◇◇◇◇



『兄妹になんて、なるもんじゃないよ』

『一番近くて、一番遠いんだよ』



 まさかヴェガードが思わず放ってしまった言葉の意味が今になって理解出来るなんて。


 隣国の第二王女フレア。

 彼女にルフィーナの面影を感じてから。


 公爵令嬢ルフィーナ・グラフィアス。

 自分の父であるシェアト・プレアデスと同じ『色』を持った少女だった。


 『火魔法の公爵家』の令嬢とは思えないその容姿に、アトラスは幼いながらに疑問を抱いていた。

 しかし、彼女の趣味や思考、得意魔法までが自分と似ていることで彼女に対しての僅かな疑問が好意に変わるのに時間はかからなかった。



 幼い頃の記憶。

 覚えたての魔法に、幼子の興味は勝てなかった。

 ルフィーナの魔力が暴走して、それを止めることが出来なかった。一番先に駆け出して、大人たちに助けを求めることしか。


 その声に、真っ先に反応したのは――父シェアトだった。その様子は尋常ではなく、それはまるで『我が子を助ける父親』のようだった。


 アトラスは何も出来なかった。

 目の前でルフィーナを抱きかかえ、泣き崩れる父と、彼女の母親をただ呆然と見ていることしか。


 そして、アトラスの疑問は、確信へと変わった。彼女は自分の『妹』だったのではないか、と。


 以来、両家の確執が深くなったことで余計にそれが真実であるとアトラスに思い込ませた。

 腹違いの妹に恋をしていたなど。アトラスは口が裂けても言えなかった。




 エリス王女の婚約者発表があった数日後。

 父への来客がヴェガードだと聞き、ステラの婚約者選定のための調査だということはすぐ理解した。


 まさかそれによって決定的な事実が明らかになるとは。誰一人、思いもしなかっただろう。


 ヴェガードが両家の『秘密』を暴いたことで確執は間違いなく、埋められていっていた。


 そして、自分が蓋をしてきた『想い』もようやく解き放たれたのだ。従兄妹だったとわかり、幾らか心が晴れた。


「ヴェガにはホント、敵わないよな……」


 ヴェガードの『想い』も知っている。きっと……いや、間違いなく、彼も彼女が好きだった。


 ヴェガードは、あの時。

 ルフィーナを最期まで抱き締めて、離さなかったのだから。父シェアトに引き離されても呆然としたままだった。


「ヴェガと俺は、似てるな」


 エウロスの執務室で突然、呟かれた言葉に、その眉目秀麗な顔を歪めた友の様子を見て、笑う。


「……何? 急に」


 嫌そうな顔を隠しもしない彼に苦笑いした。

 

(――言えないよな。“好み”が似てるなんて)


「さぁな~?」


 ますます眉間の皺を深める友に、腹を抱えた。



 ◇◇◇◇



「悪かった……バルカン」


 深々と頭を下げるプレアデス公爵にグラフィアス公爵が口を開く。


「……頭を上げろ、シェアト」


 ハッと短い呼吸をして、頭を上げたシェアトの目には昔のようにニカッと笑うバルカンの顔が映る。その笑顔が徐々に滲み、ぼやけていく。


「泣くな、見苦しい」


 悪態をつく親友に、シェアトも言い返す。


「お前もな」


 お互いに顔を隠した手のひらが濡れていた。


「話はまだ終わっていないだろう?」


 覆った手のひらを口元に当て、濡れた顔を拭き取ると、バルカンはシェアトに言った。


「ああ。……夜会で見ただろう?」

「アンドロスの第二王女か……」

「そうだ」


 二人の顔は、険しくなる。


「プレアデスの『色』だな」

「そうだ。とても薄くなっているが、間違いなく、血縁だな」

「それは『防御』の方の――だよな?」


 シェアトは慎重に頷いた。


「それで? 陛下は、何と?」


 シェアトはさらに顔を険しくする。


「縁を結べ、と」

「ほぅ……」


 バルカンは顎に手を当てる。シェアトの顔は険しいままだ。

 バルカンは首を捻った。


「さほど難しいことではないだろう? 第二王女と歳も近く、適任がいるではないか」


 バルカンは勿論、三男であるアインが縁を結ぶと思っていた。しかし、違っているから、シェアトは難しい顔をしていたのだ。


「シアンを、と言われたのだ」

「な、に?」


 バルカンまでもが怪訝な顔をした。


(何故、相手を指名などしてきたのだ?)


 理解出来なかった。それを察したシェアトが話を続ける。


「第二王女がシアンを指名した」

「それを……シアンに伝えたのか?」


 シェアトは首を横に振る。バルカンは大きく息を吐いた。


「ヴェガードは知っているのか?」

「いや……まだだ」


 さらに大きなため息を吐き出し、頭を抱え込む。


「あの国は、何も知らないからな……」

「無知ほど怖いものはない」

「一刻も早く、ヴェガードに言うべきだ」

「ああ、元よりそのつもりだ」


 二人は目を合わせると、少しだけ顔を緩めた。

 両家の確執は間違いなく、埋まり始めていた。






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