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105.本当の彼女

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☆本当に、いつもありがとうございます☆

 

 ◇◇◇◇



 第一王子エウロスの執務室。

 三公爵家嫡男が揃っていた。


 主には昨夜、開かれた夜会について、だ。もっと詳しくいうと、隣国の王女について。


「それにしても驚いたな。あれは、あの姿は――」


 エウロスが言い淀んでいるとヴェガードがさらりと発した。


「ルフィーナ」


 その場の全員が、ひゅっと短く息を吸った。


「実は――」


 アトラスが言いづらそうに口を開き、頭を掻く。


「多分、親族なんだ」

「「「はぁ?」」」


 エウロス、ヴェガード、ザニアの三人は驚いて目を見開き、アトラスに視線を送る。


「正確に言えば、血が濃いのはアルキオネ侯爵の方だ。アルキオネ家は、王女の遠縁にあたる」

「なるほど。だから親族か」

「父と同じ色だからな」


 ヴェガードが『そう言えば』と三人に切り出す。


「ルフィーナのこと、すでに聞いているか?」


 プレアデス家とグラフィアス家の確執が解消されつつあるということは四大公爵家の当主たちには、すでに話してある。関わりのなかったトゥレイス家も含めてだ。


 ルフィーナが何故、あの容姿をしていて、水魔法が得意だったのか。それはプレアデスの血も引いていたからだ。それも、直系の。

 プレアデスとグラフィアスは親族になっていた。その子どもたちは従兄弟同士ということになる。


「聞いている」


 そう呟いたのは、アトラスだった。寂しげに目を伏せると、大きく息を吐き出した。


「ルフィーナは、従妹だったんだな……」


 ふっと笑うと、


「父と同じ色をしていたから、本当の『妹』みたいに思っていたよ」


 ヴェガードは静かに息を吸った。

 アトラスが、ルフィーナのことを『妹』のように想っていたとは思えなかったから。自分と同じように婚約者にしたいと考えるほど、彼女に対して好意を持っていたと思っていた。

 それが『妹』に対する感情だった、と?


 ――『本当の妹』。


 まさかアトラスまでバルカンと同じ勘違いをしていたのではないか。アトラスは、明らかに、ホッとしていた。ラサラスもメラクもアクイラも、同じ姉弟妹であっても、あれほど色が違うのだ。彼らは『火魔法の公爵家』の容姿だった。ルフィーナだけが彼らとまったく違う色であれば、アトラスもどこかで自身とルフィーナとの血の繋がりを考えざるを得なかったのかもしれない。実際には、彼ら全員がプレアデスの血を引いているのだが。


「悪い……プレアデスには秘匿事項が多いんだよ」

「わかっている」


 それ以上、何も言わせないよう、エウロスが返事をすると、アトラスは『はぁ』と一つ大きなため息を吐いた。


「俺には向いてない」


 三人はため息と共に呟かれた言葉に視線を向けずに意識だけを集中させた。


 アトラスの想いは皆、昔から知っている。だからこそ、何も言えなかった。

 トゥレイス家の『隠密』というのとはまた違った意味で『防御』という国防の『秘匿』。アトラスは、常に自身に付き纏うプレアデスの嫡男である重責に押し潰されてしまいそうだった。


 片手で頭を抱える友に、誰一人かける言葉を見つけられずにいた。




 ◇◇◇◇




(――うん、何となくわかってた……けれども!)


 昼食の時間。

 明らかに王族の従者が二人を迎えに来た。

 案の定、案内されたのは、学園内にある王族専用の個室だ。中に入るとすでに皆、揃っていた。


 エラトスが声をかける。


「ステラ……来てくれて、ありがとう」

「いえ、ご招待ありがとうございます」


 あの日以来、言葉を交わしていなかったので何となく気まずい。ステラが、恐る恐るエラトスの顔を見ると、彼は少し頬を赤くして、はにかんだ。


 その様子を見ていたシアンは面白くなさそうに、眉をひそめた。ステラは視線だけを振り、苦笑いして席に着く。


「さて。揃ったようだから、昼食としよう」


 エラトスの一言で、給仕係が動き出す。

 ここが学園であることを忘れてしまいそうなほどの豪華な食事が次から次へと運ばれてくる。食事中の話題は主に、リイナたちのこの国に対する印象や学園についてだ。


「学園はいかがですか?」


 エラトスの言葉に、リイナが反応する。


「とても楽しいですわ」


 にっこりと微笑むと、エラトスから視線をシアンに移して、笑いかける。一方、シアンは彼女の方を見てもおらず、黙々と食事を進めている。


 エラトスは彼女らを国王陛下から任されているため、この席を設けたのだろう。レサトはエラトスと同じクラスで、リイナとベイドは、エリスと同じである。


 だから、本来ならシアンもステラも関わることはなかったのだ。まさか、彼らから声がかかるとは、思ってもみなかった。


「シアン様」


 愛らしい声が、個室内に響く。無表情のシアンが食事の手を止め、声の主の方に視線を向けた。


「シアン様の婚約者は決まっていらっしゃらないと伺いました」


 ステラの肩がピクリと跳ねる。

 シアンは視線を一瞬、ステラに向けてから、声の主に戻し、冷たく低い声を発する。


「それが、何か?」

「では、私と婚約していただけないでしょうか?」


 その場の全員がピタリと手を止めた。彼女は微笑みを崩さずに続ける。


「両王家にとっても、良い縁談だと思いますわ。何より、私たちは遠縁ですし。ご存知でしょう?」


 シアンは表情を一切変えずに、口を開く。


「でしたらアインが適任では? 歳も近いですし。同じプレアデスですから」


 彼女は驚いたように目を瞬かせた。

 まさか王女の自分に言い返すとは思っていなかったかのようだった。しかし、すぐに笑顔に変わる。


()()シアン様と婚約したいのですわ」


 ふふっと、口元に手を当てて笑う。

 それと同時に、ガシャンという大きな食器の音が室内に響き渡った。


 音のする方に視線が集まる。

 その先に眉間に皺を寄せ、苦しそうに胸を抑えるステラの姿があった。


「ステラ!」


 席を立ち、駆け寄ろうとしたエラトスよりも早くシアンがステラを抱きかかえた。そして、エラトスを制す。


「殿下はこちらに。俺が彼女を連れていきます」


 そう言うと、王女に『失礼します』と頭を下げ、ステラを抱えたまま、部屋を出ていった。


(――呪いの発動か?)


 ステラが『嫉妬』してくれるのは正直、嬉しい。ただ、そのせいでステラがあの苦しみを受けると考えると、こちらまで苦しくなる。


(解除する方法は本当にないのか? ないとすれば、何故、あの時、ステラの呪いが解けなかったのか? エラトスに必要な光はステラにも必要だったのではないか? ヴェガードはステラの中の星花の光は使われたと言っていた。もし、彼の抱える問題と一緒に解けていたなら、今、呪いの発動はなかったはずだ)



『「呪い」は“言葉ひとつ”だからね』



 あのヴェガードの言葉。


(すでに、わかっているのか? そうだとしたら、何故、ヴェガードはステラの呪いを解こうとしないのか?)


 悪魔の契約にしてもそうだ。言葉ひとつ。

 その意味を、あれからずっと考えていた。


 抱えたままのステラが未だに気を失っていることに気が付いた。


(――おかしい。呪いが浄化出来ていない?)


 いつもなら、抱き締めれば浄化されるはずの呪いが触れている今も、解けていない。自分の中の呪いが解けてしまってから、ステラの呪いの発動を感じることも、呪いを浄化出来ているのかも、わからなくなってしまった。


 もどかしい気持ちがシアンを襲う。

 あの時もそうだった。こんなにも『呪い』の存在が必要なものになっていたとは――


 自身の腕の中で目覚めない愛しい人を見つめる。


「起きろ、ステラ」


 抱き締める力を強める。


「うっぐ……苦しいわ、シアン」


 耳元で聞こえた愛しい声に安堵する。

 はぁと安堵の息を吐き出すと、小さく『ひっ』という短い悲鳴が聞こえた。ふっと鼻で笑う。


「あ! ダメって、言ってるでしょ?」

「ここには、俺とステラしかいない」


 そう言うと、ゆっくりと腕の力を緩める。


「苦しかったわ……」

「どれが?」

「え?」

「あの場の空気か? 呪いの発動か? それとも、抱き締める力か?」


 ステラは口元を引き締めて、『全部よ』と言った。シアンはニヤリと口角を上げる。


「呪いが発動するほど『嫉妬』したのか?」


 ステラの口元はますます横に引かれる。その様子にシアンは『ぷっ』と吹き出す。


「だから! ダメだって言ってるでしょ!!」

「だから、誰もいない。俺たち二人だけだ」


 悔しそうに眉間に皺を寄せ、頬を膨らませる。


「お前にしか、見せない」

「え?」

「お前にしか、出来ない」


 呆けた顔をするステラの頭を撫でる。


「ステラが失敗しない限り、な」

「なっ……! それ、どういう意味よ!?」

「そのままの意味だ」

「はぁぁ?」


 込み上げる幸せな笑いが、止まらなかった。







ご覧いただき、ありがとうございます!

『続きが気になる!』と思われたら、

ブックマーク、評価いただけると、嬉しくなって、とても頑張ってしまいます!

いつも、本当にありがとうございます☆


☆宜しくお願いいたします☆

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