102.留学生三人
魔獣討伐の日から数日後。
王立魔法学園に留学生が三人、編入した。
二人は一年。もう一人は三年。
サラリとした銀色の髪に、淡いアクアマリンのような瞳の令嬢。彼女の名前はリイナ・アルキオネ。そして、三年の兄レサト・アルキオネ。彼らは隣国の侯爵家令息令嬢だった。
もう一人の一年、ベイド・パラメディス。二人と同じ隣国の伯爵令息である。
隣国は今、内乱状態であり、混乱しているため、時期は中途半端ではあるが、我が国が特別に彼らを受け入れた。アリサのことは忘れられているので、特別編入は学園始まって以来のこととなっている。
そんな学園初の隣国の見目麗しい留学生に、生徒たちは沸き立っていた。
◇◇◇◇
週末、王城で開かれた夜会。
四大公爵家は揃って参加していた。
公には出来ないが、隣国の王族が来訪している。王家が饗さないわけにはいかない。
「お初にお目にかかります。リイナ・アルキオネと申します。皆様、以後、お見知りおきを」
綺麗な淑女の礼をする。
隣でエスコートする青年が表情を変えずに続く。
「リイナの兄、レサト・アルキオネと申します」
ブルーグレーの髪に、アイスブルーの瞳の端正な容姿をしたレサトは無表情で跪礼する。その雰囲気はまるで、あの呪いがかかっていた時のシアンのようにも取れた。
続いて、二人の半歩後ろに控えていた黒髪の青年がアメジストのような紫色の瞳を細め、微笑みを浮かべながら、跪礼する。
「ベイド・パラメディスと申します。今後、公爵家の皆様には、何かと、お世話になるかと存じます。お見知りおきを」
公爵家の面々が順に自己紹介していく。
「アステリア家、ステラと申します」
ステラがにっこり微笑むと、三人は吃驚したように目を見開いた。その三人の様子に、ステラは首を傾げた。三人は何事もなかったかのように、慌てて微笑む。
「シアン・プレアデスだ」
ステラをエスコートしていたシアンが自己紹介をする。三人は、少し緊張した面持ちでシアンの顔を凝視した。ステラに対する反応に続き、自分の反応にも何かを感じたシアンは、怪訝な顔をしたいのを抑え、無表情で静観した。
何故か、とても嫌な予感がしていた。
◇◇◇◇
「それで? あの公爵令嬢が元凶なのですか?」
サラリと靡く黒髪に手を当てる。まだあどけなさが残る青年に輝く銀色の長い髪を丁寧に結った令嬢が微笑みを向ける。
「今のところは……多分。でもまだわからないわ。だってさっき見たでしょ? すでに死んでいるはずの王女が生きてたのよ? あっちが本命かもしれない」
ふぅとため息を吐くとソファの背もたれにもたれ掛かった。長身で整った容姿の青年が茶の用意をし始める。
「おい、ベイド。これ、お前の仕事だろ?」
彼はギロリと黒髪のあどけない青年に言った。
「申し訳ございません。騎士サマ」
にっこりと微笑んだベイドに、『騎士』と呼ばれた長身の青年が顔をしかめた。そんな二人のやり取りに苦笑いした令嬢が話を戻す。
「どちらにしても私たちはこの世界を元に戻すために来たのだから、卒業までに何とか軌道修正させないと」
「わかっています」
「前が終わらないと、続編には行けないですから」
ベイドは口元を緩め、目を細めた。
「それにしても」
茶の用意を引き継いだベイドが話を進める。
「全っ然、悪役令嬢って感じじゃなかったですね」
その言葉に、他の二人がピクリと反応する。
「もう一つ言えば、あの悪役令息も何か違っていません? もしかして、あれも不具合ですか?」
「……そう、かもしれないわね」
「あと主人公、いました? どこいったのです?」
「そういえば……会っていないな」
騎士レサトが腕を組み、顎に拳をつける。
「それよりも――」
令嬢が顔を赤らめていく。その様子に二人はうんざり顔をした。
「格好良かったーっ! 生シアン!!」
「はぁ……まぁ、よく我慢した方だと思いますよ、王女サマ」
「でしょ!?」
「飛び掛からないかと心配しました」
従者ベイドが大きく息を吐いた。王女と呼ばれた令嬢は、ムッと口を尖らせた。
「レサトにめちゃくちゃ強く腕掴まれてたからね」
ギロリと睨まれたレサトは、しれっとした表情でその視線を受ける。
「暴走しそうなことは、わかっていましたから」
優雅な手つきでティーカップを口に運ぶ。不満そうな顔で王女は続ける。
「それにしても、何であんなに悪役令嬢と悪役令息が仲良しなの? あれは絶対、不具合よね?」
「さぁ? 俺たちは元の物語を知りませんから」
「そうですよ。王女サマの言いなりですから」
「何よ? それー」
ぷっと頬を膨らませる。しかしすぐに、ニンマリと頬を緩めた。
「でも、思い出すだけでニヤけちゃうー。早く卒業しないかな? あと三年だなんて……続編スタートまで待ち切れない!!」
ニヤニヤしている王女に、騎士と従者は呆れ顔をしていた。