100.近くて遠い
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勤務のため登城したヴェガードには、もう一人、話を聞くべき人物がいた。
「おはよう。アトラス。一夜にして英雄だね」
「早いな、ヴェガ」
彼は苦笑いした。
「いや。英雄はエラトス殿下だよ」
「そう」
ヴェガードは微かに笑い、追及しなかった。
彼があまり目立つのが好きではないことを知っていたからだ。昔からそうだった。しかし、アトラス本人が意図せず、目立ってしまうのだ。プレアデスという家の名と、その嫡男という立場上。彼はそれを引け目に感じていた。下が優秀過ぎることも要因の一つだが、ヴェガードには本人の気質によるものが大きい気がしていた。
「うちの魔法具は役に立ったかな?」
アトラスは目を見開いた。しかし、すぐに事情を飲み込み、笑って返す。
「ああ。アレが無かったら、今頃、コレが無くなってたからな」
アトラスは左腕をツンツンと突付いた。
ステラの秘密の企てが、ヴェガードには通用しなかったことに気付いたアトラスは、彼の追及に首を竦める彼女を思い浮かべると、緩む口元を手のひらで抑えて言った。
「ステラに礼を言っといてくれ。助かった、と」
半笑いの状態で言ったアトラスに、ヴェガードは怪訝な顔をした。
「ステラは君にどこまで話したの?」
「なぁんだ。聞きたかったのは、そっちか」
アトラスは、ニカッと笑う。
「まぁ……大体。シアンから聞いた話もあるしな」
「ああ。エリス王女の時に、か」
「そうだよ。あの時は……俄には信じ難かったが。今回、思い知ったよ」
ヴェガードは『そうだったか』と呟き、アトラスはニンマリと笑う。
「妹っていいよなぁ」
「はぁ?」
突然、囁かれたアトラスの言葉に、ヴェガードは表情を険しくする。
彼が何を言いたいのか、ヴェガードにはすぐ想像がついた。
「ヴェガが溺愛するのも納得出来たわ」
ヴェガードは、さらに深く眉をひそめた。
「シアンが誰かと婚約したら、俺にも可愛い『妹』が出来るんだなぁ」
ヴェガードが目を細め、アトラスを睨むと、彼は『からかい過ぎた』と目を伏せた。
「悪い。でも本当にそう思ったんだ。ヴェガ、お前が羨ましいと」
「え? 羨ましい?」
「ああ。俺には弟しかいないだろ? ――だからさ、あんな妹がいたら良かったのに、って」
「僕は……君が羨ましい」
「え? 何で――」
呆気に取られたアトラスに、ヴェガードは力なく微笑んだ。
「兄妹になんて、なるもんじゃないよ」
アトラスは意味がわからずに、首を傾げる。
ヴェガードは大きく息を吐き出しながら自嘲気味に言った。
「一番近くて、一番遠いんだよ」
アトラスはヴェガードの言っている意味が益々、わからなくなり、首を捻っていた。
◇◇◇◇
ステラは宣言通り、シアンとメリッサを避けまくっていた。シアンの不満と不安は募っていく。
「おい、ステラ。いつまで避けるつもりだ」
やっと捕まえたステラの腕を引くと、怒ったように頬を膨らませた。
「『呪い』が解けるまで、よ」
「本当の解除方法を教えろ」
「だから、わからないって」
一層、眉をひそめるステラに、掴んでいた手が緩む。その隙を突き、彼女は腕を引いて逃げ出した。
ステラに対して強く出られなくなった自分に頭を抱える。嫌われたくないという想いが自分を消極的にさせていく。逃げていくステラを追いかけることも出来ないまま、一日が過ぎていく。
近づいては、遠くなる。
そんな彼女との関係に彼は焦り始めていた。黒い血液の渦が少しずつ大きくなっていく。
シアンはゲームの物語の『悪役令息』である。
彼もまた《闇魔法》を遣える一人。そして、それが後々フラグを立てることを、まだ誰も知らない。
◇◇◇◇
「え? それは、真にございますか?」
エラトスは国王陛下の執務室で驚きの声を上げていた。数時間前、学園が終わり次第、陛下の執務室に来るようにと言伝を受けた。エラトスが執務室を訪れると、国王は、隣国の情勢を話し始めた。
西の隣国アンドロス。
そこで、内乱が勃発したという。
第二王女を秘密裏に匿ってほしいと要請があったというのだ。
「アンドロスと我が国には、結び付きがあるのだ」
「結び付き?」
「そうだ。何代か前に遡れば、王家も、公爵家も、かの国から嫁いだり、婿入りしたりしている」
「要するに、親族であると?」
「その通りだ」
第二王女フレア。彼女は15歳だ。
しかし、16歳として、学園に留学させるという。
「え? それは、真にございますか?」
「護衛騎士と従者を連れてくる。エラトス。お前が面倒をみてやれ」
「……畏まりました」
父上は、いつもそうだ。
面倒な事は第二王子である自分に投げる。先日の魔獣討伐の件もある意味そうなのだ。
ステラに求婚したばかりだというのに。
前回はアリサの相手を、そして、今回は隣国の第二王女の相手をしなければならない。やっと、彼女と近づけると思ったのに。そのタイミングでいつも遠くなっていく。
ステラに命を救ってもらった。
溢れ出す感情に自然とあの言葉を口にしていた。
『愛している。ステラ。私の妃になってほしい』
あれは、心の奥底から出た自分の本心だ。
王族とも在ろう者があのような形で一方的な感情に任せて、一方的に伝えて良いものではなかった。冷静になった今、あの時のことを思い返すと羞恥心で顔が紅潮してしまう。
ステラは、どう思ったのだろうか。
呆然とした彼女を、ヴェガードが抱え込むようにして帰っていった。感情が昂っていた自分もまた、呆然としていた。ヴェガードが何か言っていたように思うが、何と言っていたのか、思い出せない。
『愛すること』を知ってしまった。
『真実の愛』を見つけてしまった。
成就されない想いもまた苦しいことを、王子は知った。
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