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1. 秘密の嗜み

 


 コツ……コツ……コツ……


 薄暗い廊下に、足音だけが響く。


 キィ……


 スラリと伸びた手で、ゆっくりと扉を開けた。


 整ったシルエットをしたその青年は、その部屋にあるソファに静かに腰を降ろす。


 明かりを点けずにいる薄暗いその部屋は月明かりだけが白いレースのカーテンから漏れている。


 彼はゆっくりと目を閉じ、今日一日を振り返る。


 ――ふっ。


 一人、口元を手で覆い、小さな息を漏らす。

 彼は、とある『御令嬢』を思い出していた。


 ステラ・アステリア。

 四大公爵の内の一つであるアステリア家の令嬢。


 上着のポケットから手のひらに収まる程の水晶玉を取り出し、自身の額につけると、慣れた手つきで記憶を念写する。


 しばらくして、それをそっと手のひらに乗せるとその中心を覗き込むように視線を向けた。


 そこには今日の光景が映し出されていた。

 その水晶玉――『記録玉』の中に。


 映し出された記録を確認し終えると、青年はそれをまたポケットに戻し、部屋を出る。


 彼の名前は、シアン・プレアデス。

 四大公爵の内の一つであるプレアデス家の次男。


 彼は冷ややかで、常に冷静な態度と、濃紺の髪、サファイアのごとく青い瞳、そしてその端麗な容姿から『冷色の貴公子』と呼ばれていた。


 そんな彼には()()()()()があった。


 それは『ステラ・アステリア』を観察すること。幼馴染みの彼女には、秘密がある――らしい。


 それが何なのかは未だに分からないが、見ていて飽きない。いつも何かを画策しては勝手に落ち込んでいる。


 まさに今日もあったのだ。


 彼女は、知らない。

 彼が見ていた事を。


 王立魔法学園の中庭で、彼女の婚約者である第二王子エラトス・アルカディアとトゥレイス家の令嬢であるメリッサ嬢に向かって、啖呵を切ったのだ。


 嫌味ったらしく傲慢に悪意に満ちた顔と言葉で。青ざめるメリッサ嬢をエラトス殿下が支える。それを見て、彼女はくるりと彼らに背中を向け、その場から立ち去る。充分離れて、彼らが見えない位置まで来ると、彼女は顔をしかめた。


『はぁぁっ。緊張した~!! 私、ちゃんとやれてたよね!? まずはこれでいいはず!! あぁ~。今日も、やりきった!! よしっ! 今日はもう帰ろうっと……』


 周りに人がいないのを確認せずに呟く。


 彼女のその言葉と態度は裏腹で。肩を落として、歩き去っていく。


 気合いを入れたかったのだろうか。残念なことにそれは全く効果がなさそうだった。


 彼女は学園に入ってから、いつもあんな調子だ。エラトス殿下とメリッサ嬢を見つけると、その身に悪意を纏って絡む。


 一体、何が目的なのか?


 彼にはそれがまったく分からず、ただ成り行きを見ていた。『氷の仮面』をその端正な顔に張り付けたまま。



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