2.5(1)
side -勇者-
-王都近辺-
「はぁ、はぁ…やっと追っ手と引き離せたかな」
「はぁ、はぁ…兄さん、これからどうする予定?」
兄妹だろうか、顔つきが似ているがほんの少しつり目で癖っ毛な髪。傷だらけの衣服から、鍛え上げられた肉体が見えている青年。
青年を兄さんと呼ぶのは、少したれ目で泣きぼくろがひとつある、肩より少し長めに髪を伸ばした温厚そうな少女だ。
二人とも綺麗な金髪をしていたのだろうが、汗や土埃などでくすんで見える。
「あいつらの事だ、既に王都領地内の町には、手配書とかが出回ってるんじゃ無いかな?やけに手際が良かったしなー…」
「長年被害を出していたドラゴンの魔王を、兄さんは討伐したっていうのに…たたえられるどころか、重罪人として国が殺そうとするなんて…」
「…まぁ何となくだけど、王の考えがわかった気がするよ」
「え…?」
「多分、邪魔なのかな?強すぎる力ってのは外敵が居る分には問題ない。だけどその外敵が居なくなったら…。その力が、もし自分たちの国に向いたりでもしたら…って事かな?ついでに、僕たちがスラム出身だから気に食わないって事かもね?」(向こうでは、勇者や英雄は最後に裏切られて処刑されちゃう、なんてのは本でよく読んだしね)
「そんな事で…兄さんや私はいつも国の為に戦ってきたのにっ…!」
「いやまぁ予想だけどね?ちょっと落ち着こう?」
何だかどす黒いオーラが見えた気がする。
僕の妹は怒らせると怖いからなー…
「さ、今更戻ったってどうにもならないだろ?僕たちの知名度がない様な所にでも行って、これまでとは違ってのんびり暮らそうぜ?」
「…取り敢えず、候補は有るんですか?兄さん」
スゥ…と息を吸い
「魔族領だッ」
ややドヤ顔気味の兄
「人間の敵対種族とか、未踏の地とかでは無いので、私は兄さんについて行きますが…魔族領まで何千km有ると思っているんです?」
妹の目のハイライトが消えかけている…
妹との仲は良い…筈だ
「確か僕たちが住んでた王都からだと2,800km位だったかな?」
「昔からそうですが、やはり兄さんはお気楽ですね。手配中の私たちが到着するのはいったいどれほどだと思ってます?」
あの温厚な妹に毒を吐かれた…
「い、いや待て。何も考え無しに言ってる訳じゃ無いよ?これを見てくれ」
収納魔法の中に手を入れゴソゴソと何かを探し、一つのクリスタルみたいな物を取り出した。
「何ですかソレ?」
「錬成師のジョンさん居ただろ?ジョンさんに転移結晶譲って貰ってたんだ」
「あぁ、あの研究員の方ですね」
「そうそう。いつか観光でもしたいなって話をしてたら、わざわざ一つ取り寄せてくれてたんだ」
良し、妹の目からハイライトが戻り始めている
「まぁ、魔族領にそのままって訳じゃ無いけどね。ちょっと離れた果ての森って所に転移するらしいね。でも僕たちなら走ればすぐでしょ?」
「流石兄さんです!分かりました、ソレで行きましょう!」
良かった、いつもの妹に戻った
「じゃ、行こうか」
そう言って、僕は転移結晶を握りつぶした
-果ての森-
「……」
「……着いたな」
特に何事も無く森に到着したようだ。森と言いつつ、目の前には2人分位が通れる幅の道が整備されている。
「森の浅い所までは道が出来てるらしいから、この道にそって走れば街が見えるはず」
「早く行きましょう兄さん。シャワー浴びたいです…」
「確かになぁ…僕もシャワー浴びて少し寝たいよ」
2人で街に向かって走り始めた時、森の奥からバキバキゴキバキと轟音が聞こえて来る。
「…」
「…また面倒事ですか?兄さん」
「兄さんを面倒事ホイホイみたいに呼ぶんじゃない」
「いつも言ってますけど、ホイホイって何ですか?」
「そんな事はどうでもいい、今日はもう街に行ってしまおう」
「…そうですね」
「巻き込まれない内にダッシュだダッシュ!」
いつもは率先して面倒事に首を突っ込んでいる兄だが、今日は疲れているようで、スルーする事にした様だ。