文学少女と黄昏時
ガタン、ゴトン
昼と夜の境、つまり、黄昏時に、いつも決まって同じ駅の同じ電車の同じ車両に、同じ時間帯から同じ席に座る少女がいた。
その少女は、いつもと同じように本を取り出し、綺麗な姿勢でそれを読み始める。
彼女の表情はとても豊かで、コロコロと笑ったかと思いきや眉間に皺を寄せたり、口元を押さえて涙ぐむ時さえある。他の乗客は、元々人数が少ないからか、彼女のことを見向きもしなかった。
ただ一人、彼を覗いて
彼は、彼女と同じ駅の同じ電車の同じ車両に、彼女と同じ時間帯から彼女の向かい席に座っていた。
彼は、彼女と違って、電車に乗っている間殆ど表情を変えない。ただ、本の世界へ没頭する彼女を、ニコニコと見つめているだけだった。
二人は、終点につくと、何も言わず電車を降りる。乗車するときも、乗っている間も、何も言葉を交わさない。まるで見えない糸で繋がっているかのように、二人は全く同じ動作をする。
黄昏時に現れ、逢魔が時に去ってゆく。二人はそれをずっと繰り返し、乗客も端から見れば奇怪な彼らを少しも気にしなかった。
そんなある日、ふと、彼女が目線を本から彼に移す。彼女の手には読み終わったであろう本が表紙を向けており、彼女の目には涙が光っていた。
彼もまた、ニコニコと笑いかけながら、彼女を見つめる。
最初に口を開いたのは、彼だった。
_読み終わった?
_うん。とても素敵で、悲しいお話だった。
_まるで僕達みたいに?
_ふふ、だから貴方はこれを進めたのね。
乗客は彼らを気に止めない。彼女が持っている本の題名は『ロミオとジュリエット』だと言うのに。
乗客は分からない。悲劇を迎えるロミオとジュリエットの物語を、自分達の人生と似ていると溢した彼らの悲しみに。
乗客は気付かない。二人の存在に。
ガタン、ゴトン
今日も、明日も、明後日も
彼らに、結末は、ない