憧れの尿瓶
尿瓶。尿瓶。憧れの尿瓶。
枕元にペットボトルに注いだ尿を並べた。只の黄色い液体がプラスチックの容器に入っている。寝惚けた朝や酔っ払った日など間違って飲んでしまって、慌てて水道に駆け込み流しに顔を埋めるかもしれない。もしかしたら、ゴックンと飲み干して、違和感を感じながら遠い記憶を辿りながら、果たして何のジュースだっけって、まだ覚醒しきらない頭の中で考えるかもしれない。
隣の部屋は、物置と化した。十畳以上はある畳の押し入れ付きの2面の窓に面した部屋は、すっかり散らかり、冬様タイヤといつか書いた小説の原稿用紙と、何も書かれていないノートと読み終わった小説や雑誌等が置かれていて、其処に尿瓶を飾ることに魅力を感じなくもない。様々な容器に注がれた尿は、似通った色をしながら、その容器ごとに輝くのだ。日の辺り具合、経過した時間により。それが余りに透明であった時など、繁々と眺め回して、何故なのだろうと考えるんだ。何があったのさ?って聞いてみたりするんだ。
尿瓶。
ちょっと用を足しに出た私は、自室のトイレに繋がる扉を開ける。
黄色い液体が便器を伝わり、底に貯まるのを見届けて、足でペダルを踏む。モーターが唸りを揚げて駆動して黄色い滝が便器から伸びた管を登っていく。狭いトイレの中でシュコシュコとエアーの音がモッターの唸りと響きあい、管を通る液体の音があちこちから聞こえてきた。今、本体と合流したのだ。循環が始まる。しっかりと濾過された沈殿物は、バターと為って小鳥を誘う。透明な水は、窓辺に置いた植物を濡らす。
でも、やっぱり尿瓶に憧れる。それは、透明ではない。透明だったら、心配する。濾過を止めたトイレの便器から逆流となって貯めた液体がボコボコと溢れだしてきて、黄色い液体が足元を濡らし出し、やがて下半身を多い、暖かい弾力のある液体が徐々に徐々に狭いトイレを満たしていく。その温もりに身を浸して黄色い液体の上から覗く白い陶器と銀色のステンレスがゆらゆらと遠い現実と為って往くのを見届けながら、手が独りでに伸びた先で触れる蛇口の感触は、何時ものままだった。弛緩した身体は、胸までせりあがる黄色い海に揺らぎながら蛇口を捻る。タンクに貯まった尿は、透明な水と混ざりあい、その濃度と薄め、温度が和らいでより深く潜ったような心地にさせてくれた。もう、首もとまで貯まった液体は、充分すぎるくらいに私を満足させてくれていたのだけど、偉く息苦しく感じた。天井が狭いのだ。視界がせりあがり、水面が迫ってきて、白い壁がじりじりと狭まって行くことに何処か恐怖心を感じながら、纏わり付く体温がぬるくなっていく様が心地好く一思いに放尿して、少し加速した水かさの勢いと共に身体中が黄色い海に浸り、地上が消えるのを見届けて、私は、そっと手を伸ばして鍵を掛けた。