桜の木の下で 第三枚 「友達」
次の日、四月十八日(水)
「……うーん…」
時は昼休み。みんな友達とお弁当を食べている中、私は自分の席で考えごとをしていた。昨日……
『その……私……いっつも昼休み…屋上にいるから…良かったら……きて…』
と、昨日初めて会った博名さんにそう言われた。だから今行こうか迷っているのだ。
(うーん……行きたい…けど……う〜ん…
まぁ、とりあえずお弁当を……)
と、自分のかばんを漁った。
「あ……あれ?お弁当が……ない?え…朝はちゃんと入れたはずなのに…?」
その時、すぐに嫌な予感がして、後ろのゴミ箱の方をみた。
「……!!」
そこには、朝お母さんが作ってくれていたお弁当が捨てられてあった。グチャグチャになって……
(せっかく……お母さんが作ってくれたのに…な…)
お弁当は諦めて、私は屋上へと向かうことにした。
(えっと……ここだよね?あれ……っていうか、屋上って生徒は立入禁止で鍵がかかってたような……)
そんなことを思いながら、屋上の扉を開けて、中に入った。
「うわぁ……始めてきたけど、凄い景色だなぁ……小学校のときも屋上なら来たことあったけど、こんなに綺麗じゃなかったもんな…」
(っていうか……博名さんはどこに……あ!」
景色を見ていたら、遠くの方で博名さんを見つけた。博名さんは屋上のど真ん中でグーグー寝ていた。こんな人いたんたな……
(よ、よ〜くこんなとこで寝れるな……それもこんな気持ち良さそうに……しかも寝顔も可愛くて美人レベルっていう……起こしちゃだめだよね…)
すると……
「んん……」
「えっ!!」
寝顔をガン見していたら、突然目が開いて、ムクッと起き上がった。私はビックリして変な声を出してしまった。
「ん〜……あれ…あんた……?」
博名さんは寝ぼけた顔で私の顔をじ〜っと見て、
「あー……昨日の…」
「あ!うん!昨日の佐藤です!!」
私何言ってんだろ。
慌ててそう言ってしまった。
「いや〜…屋上でお昼ご飯食べてたら、いつの間にか寝ちゃってたよ」
と、博名さんはすぐ横にあったかじりかけのおにぎりを食べ始めた。
「………」
「……持ってきてないの…?お弁当…」
「あっ!いや……あの…」
「す……捨てられちゃって…」
私がちょっといいにくそうにいうと、博名さんはすぐ察してくれたみたいだった。
「……いる?このおにぎり…」
「えっ?!でも食べる分……」
博名さんのお弁当は少しだけ大きいおにぎり2つしかないみたいだったし、お腹空いちゃうんじゃ…
「あー……いいよ。そんなお腹空いてないし(めっちゃ空いてるけど)」
「あ…ありがとう……」
と、貰ったおにぎりをパクパク食べていると、ふと気になったことがあって。
「そういえばさ、博名さんって、なんで立入禁止の屋上に普通に入れるの?」
「あ〜…鍵盗んできた。」
「ええっ?!」
「なんかの用事でここの鍵借りたとき、返し忘れて、それで次の日の昼休みにワンチャンここ入れるかもって思って、そしたら案外簡単に入れたんだよね〜〜誰も入ってこないし、鍵盗んだのさえ誰も気づかないし……」
「ええ……」
やる事がすごいやる事が。
「いつごろからそうしてるの?」
「えーっと、一年生のころくらいかな。私、そんとき不登校気味だったし、クラスには不良とかギャルばっかりだし、友達一人もいないから…教室にあんまりいたくなかったし……」
「……うん、わかるよ、その気持ち…」
しばらく沈黙が続いて、なんだか急に居づらくなってので、
「いやー、でも、博名さんって意外とワルだったりするんだね〜w」
「……まぁ…確かに自分でも時々思ったりするかな〜w」
「……あのさ、私も今度から、ここに来ても…いいかな?」
「えっ……」
「あー……やっぱりいじめられる人とは嫌かな?」
「いや……そういうんじゃなくて、いや、普通にさ……誰かと話したり、誰かと一緒に過ごせたこととか、あんまりなかったから、ちょっとびっくりして。でも、佐藤さんとだったら、私……」
「……?」
「ううん!なんでもない……いいよ。ここに来ても。むしろ来てほしいし。」
「……!!うん!」
私も、全然誰かと話したりすることがなかったから、凄く、嬉しい。
キーンコーンカーンコーン……
「あ!!やばい!もう5時間目始まっちゃう!行こう!博名さん!」
「うん……」
そして、屋上を出ようとしたとき……
「あ……あのさっ!」
博名さんに呼び止められた。
「どうしたの?」
「あ、えっと……その、「博名さん」じゃなくて……呼び捨てでいいよ……下の名前で……」
「……!!うん…!」
それからというもの、毎日博名さ……じゃなくて、怜香と一緒に屋上でお弁当を食べた。一緒に帰ったりもした。私にとって、こんな楽しいことだった。こんな日がくるなんて……教室にいる時間は相変わらずいじめられて辛かったけど、前よりずっと学校に行くのが楽しみになっていった…
それから一週間後、四月二十三日(火)
教室……
(あれ……先生くるの遅いなぁ……どうしたんだろう…?)
ガララッ!!
「えー、朝のHRを始める前に、みんなに重要な話がある。今日からこのクラスに、新しい仲間が増えるぞー」
「えっ!転校生!?」
「どんな子かな〜」
周りがザワつき始める。
「えー、じゃあ入ってきてくれ〜」
ガラガラガラガラ
テクテクテク……
「今日からこのクラスに新しく入る、霧森理音さんだ。」
え……?
「理音……?!」