桜の木の下で 第一枚 「孤独と出会い」
桜の木の下で
プロローグ
……ねぇ、今あなたが聞いているかはわからないけど、私はどうしても言いたいことがある。
あのときはずっと、一人ぼっちだった。
ずっと……孤独だった。
でも、そんな私を救ってくれて、助けてくれて、ありがとう……
できればこれからもずっと二人で笑っていたかったよ……あなたにお返ししたいこともたくさんあったし。
でももうできないからいうね……あともう一度だけ、あなたに会えるのなら……私ね。あの場所で………そう。
「桜の木の下で」
第一話 「孤独と出会い」
なんで私は、こんなに孤独なのだろう……
ただ私は、誰かと一緒に喜びを分かち合ったり、悲しみを乗り越えたいだけなのに……
友達。そんなものは私にはいない。
家族……でも、ほとんど家にいなし…
……誰か…
私のそばに……
四月十七日(水)
チュンチュンチュン……
「……ん……」
朝。小鳥の鳴き声とカーテン越しに挿し込む光で私は目覚めた。……別に、目覚めなくて良かったのに……
あ、紹介が遅れました。私は佐藤咲羅。中学ニ年生の十三歳。
「はー……学校…行きたくないな……」
なんて毎朝思っている。でも、そんなことできるはずもなく……
「なん…て……」
私はベッドから降り、リビングへと向かった。
リビングにいると、まぁ、案の定誰もいなかった。机の上には朝ごはんがおいてある。
(今日もお母さんお仕事か…)
そう思い私は身支度をし、学校へ向かった。
学校………
私は校門の前に立ち、あらゆる覚悟を持って校舎の中に入り、下駄箱に向かう。すると……
「うわ〜今日もあいつきたのかよー」
「来てもおんなじなのにねww」
「ほんとう来なければいいのにね!笑」
「………」
私だって……来ないで済むのなら行きたくなんかない……
と、クスクス笑う三人組を無視するように靴箱を開けた。
「っ……!?」
そこには、たくさんのゴミが詰められていた。上靴のなかには画鋲が入っていた。まぁ……いつものこと。
「うっわーかわいそー!誰かこんなことやったのかなぁ〜w」
「ちょっと〜てか汚っ!w」
「もーいいよ、行こ〜」
「だねーってかさ、今日数学の授業あったじゃん、」
「マジかよーあいつ(先生)嫌いなんだよね〜ウザいし〜」
「それな〜マジでさ〜……」
三人組が教室に戻ると、私はゴミを捨てて、教室に戻った。
……そのとき、なんだか後ろから視線を感じたのだけど、気にしないでいた。
「………」
教室……
「…………」
移動教室から戻ると、机がめちゃくちゃだった。机には大きく「死ね」とか「ブス」とか「バカ」とかマーカーでデカデカと落書きされており、周りに散らばってる教科書やノートは破かれていた。
私は無言で机を雑巾で拭いた。後ろの方でクスクス笑う声が聞こえた……
「うう……」
5時間目が終わり、廊下を歩いているときだった。
「ねぇ、佐藤〜」
「え……」
後ろから急に声をかけられ、誰かと思って後ろを向いたら、そこにはいじめの三人組がいた……
「ちょっとこれ体育館倉庫に持っててくれない?」
「え……これ私の仕事じゃ…」
「なんか文句あんの?はよいけよ」
「う……うん…」
体育館倉庫…
(えっと、ここでいいのかな…)
と、荷物をおいて倉庫を出ようとすると………
「あれ〜偶然じゃん!」
「っ……!?」
後ろには、ニヤニヤしている主犯格と通せんとばかりしている取り巻き二人がいた。
「お、追ってたの……?!」
「まぁまぁそんなふうに言わないでよ〜」
絶対追ってきていることは一瞬で分かった。だけど、体育館には人もくる気配もしない。
主犯格の子はいやらしい笑みを浮かべて言った。
「ねぇ、ずーっと思ってたんだけどさぁ〜〜〜
あんたのその、なんか首にかかってる紐みたいなのなに?家の鍵?」
もちろん家の鍵ではない。
「これは……」
そう言いかけたとき……
ビッ!!
「ああっ……ちょ…!!」
取り巻きの一人が、首元にかかっている紐をちぎるようにとった。
「何?これ?なんか桜の……ネックレス?」
「ネックレス」というよりは「ペンダント」というほうがあってるけど……
「なんなのこれ?あ、なんか2つに割れたよこれ??何……」
「写真?え……家族?」
「どういう仕組みで……え、てかさー、子も子なら親も親だよねーww」
「ちょっと…!返してよ!!」
「えーーいいよ?返してあげる〜あ、ごめん手が滑っちゃったー☆」
と、主犯格は床にペンダントを落とした。すると次の瞬間………
ベギッ!!バリバリっ!!
「あ……」
主犯格がそのペンダントを足で踏んづけて壊した。うっかりとかじゃない、わざとだ。
「あああ!!」
私はその粉々になったペンダントを拾おうとした。すると……
「うっさい!!」
ドンッ!!!
「キャァっ……」
主犯格に思いっきり後ろ(倉庫の方)に突き飛ばされた。
「ざまぁみろ!」
「ばーかww」
「もう学校くんな!」
ガチャン!!
カチャッカチャッ
「え……?」
冷たくドアを閉められ、鍵がかけられたような音がした。
「開けてよ!!ねぇ…!!」
ドアをドンドン叩いた。でも、一向に返事はなかった………
「だれ……か…たす……けて……」
(なんで…?私がこんな目に合わなきゃいけないの?!何もしてないのに……)
「もう……」
「……………」
「……んん…?あれ…いつの間にか寝ちゃってた……」
跳び箱とネットの間で眠っていた体を起こした。もう多分閉じ込められてから一時間はたっている。もう放課後だ。
ドアノブを回すと、鍵は開いていた。
「……あっ!!そういえばペンダント…!」
あのとき主犯格達に壊されたペンダント……どこにあるんだろう……
倉庫を出て探した。もとの場所にはなく、色々探し回った。そしてやっと……
「っ……!?」
体育裏の水たまりに浸かってあった。
「………」
このペンダントは、小さいころお父さんに貰った透明の桜のペンダントだ。上下に開く仕組みになっていて、なかには家族3人の小さい写真がはられてあるのだ。普段はセーラー服の襟の部分に桜の部分だけ隠れるようにしている。
これは、私のお守りで宝物。もういないお父さんが作ってくれたのだから………
「もう……やだ…」
水たまりに浮かんである写真をグチャっ!!と掴んで走った。
どれくらい走ったのだろう。学校を出て、走って、走って、走って…………もうそろそろ限界……!となり、一回止まったとき……
ヒュー!!ヒュー!
いきなり、強い風が流れていて、写真がふわっと飛ばされた。
「ま……待ってー!」
そして再び走り出した。走って…走って…いくら走っても、写真は掴めない。するとしばらくして……
「え……!?桜の花びら…?」
風とともに、どこから来たのかわからない桜の花びらが舞っていた。こんな時期に珍し…って思う余裕なんかなくて、どんどん写真を追いかけた。
すると、写真の先に大きな鳥居が見えた。その先に下り石段もみえた。写真は鳥居をくぐって石段を降りた。
私も石段を掛けて追いかけた。すると、少しだけ風が弱まった。その瞬間、写真はふわっと止まった。
「いっけぇぇぇ!」
私はその瞬間を逃さず、背伸びをして写真を掴んだ。
「やっ……たー!」
ツルッ
「え……」
そういった瞬間、無理して背伸びしたため足を石段から踏み外した。で、その瞬間を私は宙に浮いた。そしてどんどん下に落ちていき……
バサバサバサバサッ!!
落ちた先、真下にたまたまあった桜の木に突撃し、それからがよく覚えていなかった。
「あ……ゔ…?」
気づくと私は、芝生の上に倒れていた。最初は何が起きているかわからなかったが、とりあえずさっきまでの記憶を思い出した。桜の木に突撃して中に入った覚えまではあるけど、それからがよく思い出せない。
「痛た……」
なんとか起き上がった。私は思いっきり石段から落ちたけど、桜が満開に咲いて少しふわっとしていたこと、落ちた石段の段が下の方だったこと、地面が芝生だったことなどで、多少の怪我はあっても大きな怪我はなかった。
でも、土とかでいろいろ汚れてるしサイドポニーテールの髪型は崩れてボロボロ……
一旦落ち着いて、周りを見渡した。遠くに目をやると、小さなお宮があって、その前らへんにほとんど散っている桜並木があった。どうやら、ここは神社みたい。あぁ、だから石段だったのか……
(にしても、ここの桜は凄いなぁ……もう4月も終わり頃なのに、こんなに綺麗に……)
この桜は、向こうの桜並木とは離れた、石段の横の隅っこのほうに咲いている桜だ。たった一本だけ。こんなところで……
(でも……綺麗……)
「…………」
いいなぁ、この桜は……隅っこに一本だけでも、自分をしっかり持って、凛々しく咲いて……
(……でも、私だって……この桜の木みたいに…孤独に囚われたくないよ……だけど……)
私はいつだってどこだって孤独だった。
だれも、私とは……
桜の木を見上げると、太陽の光が花びらに透けてこちらに挿し込んできた。まぶしい……
頬に涙がツーっと流れる。
(もう……やだ…私……もう…)
「誰か……」
「……あの……」
突然後ろから声が聞こえた。
「え……?」