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4話 君が愛したこの世界を僕は生きていく

少し長い石段を登り切る。

季節は春。

桜が咲き開き、園内は春色に彩られている。


「こちらです」

「ありがとう」


沙織さおりちゃんに案内されて、僕は目的の場所までやってきた。


「すみません、お忙しい中…」

「僕が来たかっただけだからいいんだよ」


確かに医師にとっては貴重な休みの日だが今はそんなことはどうでもいい。

恐縮する沙織ちゃんだったが、そもそもこっちから案内をお願いしたのだ。何も謝ることはないのだけども。

あの手紙を読んだ後、すぐにでも訪れたくなったのだから。


「朱里ちゃん、久しぶり。貫志かんじです」


僕は今、都内にある霊園にやってきていた。

石段を登り、手前から2番目にある右の細い道に入ってすぐに立っている墓標。

朱里ちゃんが眠る場所だ。

しゃがんでお線香をあげて、手を合わせた。

ありがとう、朱里ちゃん。

僕は、自分のやるべきことが見えたよ。



「あ、あの貫志さん」


墓標の前から立ち上がると、沙織ちゃんが遠慮がちに聞いてきた。


「どうして急にお墓参りに? 手紙に何が書いてあったんですか?」


朱里ちゃんの手紙の最後にお家の連絡先が書いてあった。

そこから沙織ちゃんに話をつけて今日、お墓参りに行くことにしたのだ。


「急に連絡して悪かったね」

「いえ、それは構いませんが…」

「手紙を読んで思ったんだ。これからも人の命を救う仕事を続けていきたいって。良い世界にしたいってね」


それが、朱里ちゃんの愛した世界へと繋がっていくのだから。


「じゃあ、貫志さんはこれから多くの人を救って、世界を変えていきたいのですか?」

「いや、多分そんなことはできないよ」

「え? じゃあ…」


僕ができることなんてたかが知れている。

数年前までウイルスが蔓延していた世界が、今じゃすっかり元通り。

世界なんて、そう簡単に変えられるわけがないのだ。


「だけど……守ることくらいはできるかもしれない」

「守ること…ですか」

「そうだね」


世界は理不尽なことが多いのかもしれない。

それでも、かつての朱里ちゃんのように、僕の姿を見て1人でも多く希望を持って生きてもいいんだと思ってくれる人が増えてくれるなら、僕は本望だ。

ちっぽけかもしれないけど、それが僕にとっての守りたい世界だから。


朱里ちゃんが亡くなってから、僕はずっと考えていた。

この世界は命をかけてまで守る価値があるのだろうかと。

僕たちが住んでる世界は、自分勝手な人間が平然と生き残るいびつな世界だ。

そう考えると、守る価値があるとはっきりとは言い難いのかもしれない。

でも、1つだけ言えることは。


君が愛したこの世界を僕は生きていく。

ただ、それだけだ。

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