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Episode 6


宝物庫までの道のりは、はっきり言って順調だった。


静かすぎるほどに、ダンジョン内に狩り残されたモンスターは居らず戦闘が起こることがない。

罠も基本的に【魔力感知】に引っかかるものばかりで、権能さえ切らさないように集中していれば問題なく対処出来た。

迷宮のようになっている道に関しても、鎧が覚えた地図の通りに進んで行けば迷う事なく進むことが出来た。

そう、順調なのだ。

順調すぎて逆に不安になる程度には。


「チッ」


普通のトレジャーハンターならば、この状況はむしろ喜ぶべきなのだろう。

しかし、俺は違う。

……異常事態とはいえ、ここまで温い攻略は初めてだ。

こんなものは俺の求めているモノではない。


襲ってくるかもしれないと覚悟していた件のモンスターも見かけたが、どれもがこちらが見えていないかのように素通りしていく。

どこが危険なのか、どこが討伐対象になるべきなのか。そんな疑問すら湧いて出てくる始末。


自然と俺の足は速くなる。

こんなダンジョンの宝物庫に期待できるはずもない。

いくら宝があろうとも、死と隣り合わせになるような難度ではない限り達成感も何もない。


『主人様、そろそろ宝物庫があるかもしれない区域に入る。ここからは地図の記載がないから案内は出来ん』

「……おう、分かった。なら索敵の精度をその分上げとけ。魔力だけじゃなく動体も引っかかるように発動させとくんだ」

『了解した』


鎧は契約(パス)によって俺と主従関係にあるからか、こちらの指示には嫌味も何も言わずに従う。

モンスターであるため、あくまで参考程度に意見を聞いてはいるが……地図案内をしてもらったからか、ある程度までは信用しても良いかもしれないと思い始めているのもまた事実だった。

最後の一線、命を預けるまではいかないものの……使える道具程度には考えてはいる。


「ふぅ……ダメだな」


一度深呼吸をして気持ちを入れ替える。

どうにも緊張感が保てない。罠などの解除に関しては、何度も何度も繰り返してきた為に身体に染み付いているため問題はないのだが……このままだと何か重要な場面でミスをしてしまいそうだ。

難度が低い……俗に初心者向けと言われるダンジョンの悪い所はここだ。

いつも潜っているダンジョンとは違い、罠の感覚も戦闘の有無も、張り詰めているように感じる空気もここにはない。


だからこそ、気が抜けてしまう。

どこか慢心してしまい、自分が意識していない部分でミスをしてしまう。

それが俺には怖い。

怖いからこそ、一度気を入れなおす。


……あんま変わらねぇが、ここから先は違うダンジョンだと考えた方がいいかもしれないな。

外見的にはここまでのダンジョンと変わらない。


だが自分の気持ち的に、どんなに簡単で……どんなに期待外れなダンジョンであろうとも今まで自分の挑んできたダンジョンの中でも最高難度の、それこそ死が隣り合わせにあるダンジョンに居ると考えて行動をする事にする。


「何もなし……方向的にはこっちか」

『主人様よ、一ついいか?』

「なんだ、手短にしろ」

『いや、なに。そう大したことではないんだが……主人様の歩きに迷いが無いからな。何かしらの権能か何かを使って宝物庫の位置でも分かっているのではないか、と思ってな』

「そんな事か……」


一息。


「分かってるかどうかって聞かれれば、分かってる。だがしっかりと何処にあるかって聞かれると……分からん」

『……と、いうと?』

「なんというかだな……長年の勘っていうのがあるだろ?それだ。この形のダンジョンならこっちの方にある……みたいのが何となく分かるんだよ」

『権能や魔術ではなく?』

「そんなもん使ってねぇよ。何となく分かるだけだ。俺以外にも師匠や腕の立つトレジャーハンターなら誰でも同じように分かるもんだ」


ある程度宝物庫に近づくと、その大まかな位置が分かる。

何時からか分かるようになっていたソレは、聞いてみれば師匠……ギルドマスターや知り合いのトレジャーハンターなんかも大体できる技能とも言えない程度のものだ。


魔術師なんかの研究職の奴らによれば、恐らくは空気の流れなんかを読み取って何処かしら宝物庫の存在を感知しているのではないか?とも言われているが、大体俺達現場の人間は全員が全員『勘』と答える。


それはそうだろう。

空気の流れなんぞ基本的に意識しないと分からない程度にしかダンジョン内は流れていないし、このもやっとした感覚は勘以外の何物でもないのだろう。


毎回毎回その勘が示した方向に進んでも、そこに宝物庫が存在していなかった事も少なくはない。

だからこそ、勘。百発百中であれば特殊な技能や……それこそ新たな権能と言ってもいいのかもしれないが、これに関しては違うだろう。


『では主人様の勘ではこちらに宝物庫がある、と』

「恐らくな」


歩きながら、警戒しつつもそう答える。

他の職業……冒険者や魔術師なんかにも長年やっていると特殊な感覚が芽生える事があると聞く。


冒険者の場合、索敵を使わずともモンスターが居る位置が大まかに分かったりだとか。

魔術師の場合、魔力が濃く魔術の研究に適した場所が大まかに分かったりだとか。

どちらにせよ、長年の勘からくるものばかりだろうと俺は思う。


「まぁ、どうせここからはどうしても運が絡んでくるんだ。勘で行先を決めても問題ねぇよ」

『それもそうだな』


そんな事を言いつつ、奥へと進んで行く。

少しずつ少しずつ……周囲の些細な変化を見逃さないように。


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