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Episode 3


■カナタ=リステッド


ソレは、鎧に索敵をしてもらいながら少しずつ目星をつけた方向へと進んでいた時に聞こえてきた。

悲鳴、それも後半が小さく消えていくようなそんなもの。

モンスターに出会いあげたものではないだろうというのは容易に想像できる。

それくらいだったら淡々と処理するのがトレジャーハンターだからだ。

いくら基本的に盗掘を行っているとしても、最低限の戦闘が出来るのがダンジョンに潜る最低条件。


そんな同業者が悲鳴を……それこそ広範囲に聞こえるようなモノをあげるとなると話は別だ。

何かしらのイレギュラーが発生したと考えた方がいいだろう。


「……守護者か?いや、違うか」

『主様よ、どうする?声の聞こえ方的に恐らくは入り口の方から聞こえてきたようだが……』


鎧は、このまま放っておくのかどうかを聞いているのだろう。

俺が対処できるレベルのイレギュラーならまだいいが、手に負えないレベルのモノだったら……それこそ宝を持ち帰ろうとした時に鉢合わせ戦闘になる可能性が高い。

……正直、確かめたいっちゃ確かめたいが……時間が無いのも事実か。


「予定通り、このまま宝物庫を目指す。索敵を続けろ」

『……了解。どの道あの声の主は助からんだろうしな』


渋々と索敵を再開する鎧に周囲の警戒をある程度任せながら、もし出会った時の事を思考する。

相手がどんなものかはわからないものの、出会う可能性がある分想定しておくのは大切な事だ。

想定しているのとしていないのとでは、行動に移せるまでにかなりの時間差が存在する。


ただ……このダンジョン内に出てくるモンスターにそんな悲鳴をあげるようなモノは、冒険者が攻略した時から居ないはずなのだ。

ゴブリンやコボルト、ゾンビなどある程度主要なモンスターばかりが生息していたとされる【忘れ去られた遺跡】。

その中でも危険度が高いと設定されていたのはダンジョンの主であるゴブリンキングくらいだったはずだ。


しかし、そのゴブリンキングにしても冒険者が探索時に討伐しており、今現在はこのダンジョン内には存在しないはずのモンスター。

……外から迷い込んだか?だがこの辺はある程度整備されてて野生のモンスターなんかはほぼ生息していないはずだろ……?

溜息を一つ吐き、頭を横に振る。

こうなったら考えても煮詰まっていくだけで意味がない。

考えるだけ無駄だろう。

最低限すぐに戦えるよう戦闘準備だけをしておきつつ、徐々に暗くなっていく周囲に気付き魔術を使って光の玉を作り出した。


『ほう、主様は魔術も使えたのか』

「ある程度使えた方が良いって事で師匠がな。本当にある程度レベルだが」


自分の近くだけ灯りを確保できればいいため、そこまで明度を上げないでおく。

……権能で【夜目】系統が使えればよかったんだがな。


【夜目】、【暗視】と言ったように暗所を視るための権能というのは存在している。

しかしそういった目を使うタイプの権能は適正者が限られており、誰でも修行すれば習得できる【生体索敵】などよりも使える者は少ない。

使えれば今の俺のように、暗闇の中の目印になるような灯りを点けず隠密行動が出来たりもするのだが。


『……主人様、前方方向から何者かが接近中だ。恐らく同業者だろう』

「あぁ、こっちの索敵でも捉えた。いつでも障壁張れるようにしておけ。あとはこっからは思考会話にするぞ」

『了解』


左右にドアはなく、石畳の一本道となっている現在の場所。

背後からではなくある程度対処のしやすい前方からだったのが救いだろう。

同業者の場合、背後から叩かれる方が面倒な事になることが多いからだ。

腰の短剣を握り、いつでも使えるように準備をして息を潜める。


『接敵まで3……2……1……』

「助けてくれぇ!」

「『……は?』」


鎧のタイミングに合わせ、向かってきた者に短剣が当たるよう……尚且つ相手からの攻撃を避けられるように体を動かした俺は寸での所で短剣を止める。

止めるのが間に合わなかったら、そのまま両者の勢いによって深く首に短剣が入っていたところだった。


同業者……のような恰好をしたその者は目に涙を貯めながらも、短剣が自分の首に当たっていない事を確かめると改めて俺に向き直って肩を掴んできた。


「すまねぇ!助けてくれ!アレはやばい!やべぇんだよ!!」

「おい、おい……離せ。それと武装を外した後に事情を話せよ。全く要領を得ない」


とりあえず武装を床に出させ、こちらに攻撃してくるにしても体術と魔術、権能のみにさせる。

ほぼ敵意を感じないが、ここまでやるのは一重に自分の安全のためだ。

もしこの行動が演技だった場合、どこかのタイミングで俺に攻撃をしてくる可能性がある。

その時に武装があるかないかではこちらの取れる手段も、あちらが取れる手段も大きく変わってくるのだ。


(メア、周囲警戒。もしかしたら気配消してるこいつの仲間とかがいるかもしれない)

『了解した。障壁もいつでも張れるようにしておくから、主人様は対話に集中してくれても構わない』

(了解了解)


声に出さず頭の中だけで鎧に指示を出した後、目の前の同業者に話を聞くことにする。

鎧はあぁ言ったが、一応短剣はそのまま手に持った状態を維持する事にした。


「……で?何から助けてほしいんだよ」

「あっあぁ……。さっきここの奥を探索してたんだがな……その、モンスターが居やがって」

「あ?モンスター?んなもん自分で処理しろ。それが出来ねぇくらいの新人には見えねぇぞ」

「ちげぇよ、普通の奴らだったら俺も自分で対処する。そいつ……いや、そいつらは人間を取り込んでやがったんだ。あんなの俺の手にゃ負えねぇよ」


人間を取り込むモンスター。

代表的なもので言えば、スライムなんかがそれにあたるだろう。

彼らは人を自らのゼラチン状の身体の中へと取り込み、消化することで栄養をとったりしているモンスターだ。

他にも種類的には多くの種類がいるが……だが、それらは基本的にはこのダンジョンには存在していなかった種でありつつ、尚且つそんなモンスターが存在していたら冒険者達が率先して狩っていたことだろう。


「見た目は?そのモンスターの見た目」

「人型だ。全体的に影っぽい見た目で、どこかしら欠損してる以外はほぼ人にしか見えない。同業者かと思って襲おうと短剣取り出した瞬間にこっちに向かってきやがったんだよ」


ある程度冷静になってきたのか、しっかりと受け答えが出来るようになってきた男はこちらの短剣をちらちらと見ながらも答えてくれる。

人型で、影のような見た目。それに所々が欠損しているモンスターなど聞いたことが無い。

鎧にも訪ねてみるが、同じように知らないとの事だった。


「……人型ってのは色々不味いかもな。さっきの悲鳴もそいつらが原因か……?とりあえずこのままだと危険でしかねぇな」

「あぁ……俺としては一回冒険者に討伐依頼を出した方が良いとは思うんだが……お前はどう思う?」

「俺もそれには賛成だが……それにしても、依頼してから冒険者がここに着くまで時間がかかるだろうな……」


そう言うと、目の前の男は懐の中から一つの結晶で出来た笛のような物を取り出しそれを吹き始めた。

音は出ない。しかしながら頭の中には甲高い笛の音が流れ始めた。


「お前、それ……」


トレジャーハンターが持つ、緊急性の高い事柄が起きた時用に近くにいる者らへと知らせるためのアイテムである【蟲の知らせ】という物だ。

強制力はないが、それでもダンジョン内でコレが使われる事態になった場合……最悪死に至るような事柄が起きているため、殆どの場合そのダンジョン内に居るトレジャーハンターは集まってきて解決へと動くようになる。


但しコレを使う場合、後で使った者はギルドにて各種書類、面談などを行う必要がある。

そうでもしない限り、トレジャーハンターたちがコレを悪用、多用する可能性があるからだ。

事実、過去に【蟲の知らせ】を悪用したトレジャーハンターはギルドにて盗ってきた物をすべて差し押さえられている。


「【蟲の知らせ】……まぁ妥当か。音色的に『入口付近に集合』って感じか?」

「あぁ、どうせなら皆集まりやすい所と……それに入口なら逃げやすいだろうって考えだ。不味かったか?」

「いや、問題ない。じゃあ向かおう」


男を先頭に、それに後ろからついていく形で入口へと向かう。


『なぁ、主人様?』

(なんだよ)

『何故、あの男の言う事を信じた?嘘を言っている可能性もあるだろう?』

(俺も初めはそう考えたがな。アイツの使った『蟲の知らせ』っていう道具はそれなりの理由が無けりゃ普段使わないもんだし……それに)

『それに?』

(それに、少しばかり気になるしな。アイツの言ってた人を取り込んだっていうモンスターの事が)


事実、気になるのだ。

鎧も知らず、俺の記憶の中にも該当するモンスターは居ない。しかしながら存在しているソレ。

新種であるならばなぜ冒険者が探索、攻略した時に周知されていないのか等、気になる点が何個が頭に浮かぶのだ。


(まぁ、理由は本当にそれくらいだ。それに今独断専行したところで……そのモンスターが居た場合、対処できずに呑まれる可能性が高いだろうしな。無暗に命を懸けるくらいなら、団結して事に当たった方が生き残れる)

『それは普段の仕事でも同じではないのか……?』

(馬鹿野郎。トレジャーハントはスポーツみたいなもんだ。命は懸けるが団結するわけねぇだろ。周りは皆ライバルの個人戦だ)


全く分かってねぇな、と心の中で吐き捨てると『そういうモノか……』と鎧は考え始めてしまった。


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