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End of Shadow


■名無しの盗掘者達


「……あの鎧着た奴、なんだったんだろうな」

「知らねぇ、まぁいいだろ。あんなんじゃどうせ途中で動けなくなって終わるさ」


ある程度入り口に近い位置、二人組の彼らは周囲に罠が無いかを権能によって簡単に調べながらも慎重に先へと進んでいた。

向かう方向は、カナタも目星をつけていた方向。


多かれ少なかれ、トレジャーハンターとしての経験を積んだ者ならばある程度の宝物庫の位置は予測することが出来る。

経験則から、或いは他の要因から。


「まった、止まれ。なんか引っかかった……動いてんな」

「……モンスターか?」

「分からねぇ。待ってろ、【生体索敵】も同時にかける」


彼らが使っていた権能は、二つ。

【動体索敵】と【魔力感知】と呼ばれるものだ。

【動体索敵】はその名の通り、周囲の動いているものを索敵してくれる権能。これによって、ある程度……それこそこちらに向かって飛んできている罠なんかを事前に察知して回避できる。


【魔力感知】も分かりやすい。周囲の魔力を持つものを感知してくれる権能だ。ダンジョン内の罠というのは、その多くが魔力によって動いている事が多い。それによって罠を感知して解除するという行動が出来るのだ。


ただ、それだけでは魔力を持たない筋力だけで襲いかかってくるタイプのモンスターや、それこそ原始的な罠なんかは察知感知できないために、そこらへんはまた別の技術が必要になってくるのだが。


「よし、発動。……なんだこりゃ?」

「どうした?」

「【生体索敵】に引っかかったから生物なんだろうけどな……形が少しってか大分歪でなぁ……これ本当に生きてんのか……?」


世の中には、アンデッド系のモンスターとしてゾンビと呼ばれる動く死体がいる。

彼らが『生まれる』には、人間の死体やなどが必要になってくるために所々部位が欠損している事は少なくない。

しかし、元々が死んでいるため【生体索敵】の対象にはならないのだ。魔力を含んでいるため【魔力感知】には引っかかるのだが。


だからこそ、索敵を行っている彼は疑問に感じた。

索敵で引っかかっている対象は明らかに人型、それも動いているため何かしらのモンスターなのは間違いがないだろう。

しかし、どうにも様子がおかしい。

部位の欠損をしているのにも関わらず、血のような液体が滴っている事もなく……それでいて、モノによっては頭部すらないのに動いている者もいるのだ。


「ゾンビじゃねぇのか?それなら納得いくだろ。ほら、冒険者の誰かが死んでーってなら説明がつく」

「いや、【魔力感知】に引っかかってねぇってことはゾンビじゃない。……確かめるか」


片方が剣を抜き、もう片方は腰にぶら下げていったナイフを取り出した。

戦闘になった場合でもこれならばすぐに対応出来るように……判断としては間違っていない。

普段であれば。


「なっ……戦闘態勢!来るぞ!!」

「はぁ!?」


彼らが戦闘準備を整えたその瞬間、人型の何かは彼らに向かって猛烈な勢いで走り始めた。

明らかにその速さは人間のそれではなく、どちらかといえば獣のそれだった。


数瞬後、それは彼らの前へと姿を現した。

まだ入り口から近かったために、外からの光も入ってきており……その姿もはっきりと見ることが出来た。


ソレは、どこか影の様でしかし実体を持っていた。


薄く黒く透けているのに、人間のような筋肉がついているように視え……されど肝心の頭部など部位欠損を起こしているソレは、人間とモンスターのどちらにも見えなかった。

されど異形。

倒すべきナニカであることだけは、トレジャーハンター達もわかってしまった。


剣を持ったトレジャーハンターが剣を横に大きく振るい、近づいてきたソレと距離を取ろうとするがそれは叶わない。

ソレは剣が当たり、自らの身が切られるのも構わずそのまま強引に距離を詰め……剣を持つ彼の右腕を掴み……そのまま包みこんだ(・・・・・)


「なっ!?こっこの!離しやがれ!」


無事な方の左手で包みこまれた右腕を掴もうとした……が、そのまま通りぬけてしまった。

その事に対して一瞬呆けた顔を短剣を持つ方へと見せた後……影へと呑み込まれてしまった。

いつの間にか右腕から広がっていた影が彼の全身を包み込むように覆い、そしてそのまま同化してしまったのだ。


「う、うわぁあああああああ!!!」


その瞬間、叫びながらもソレから逃げるように残った盗掘者は走り出した。

人間を取り込むモンスターは確かに存在する。しかし、それらを主に相手に出来るのは冒険者のみ。モンスターを狩ることを生業としている者らのみなのだ。

何しろ、そういったモンスターは危険が多いし不確定要素も大きい。


食うのではなく、取り込む。

この違いは小さいようでかなり大きいものだ。

取り込むというのは、その取り込んだ者の力をある程度吸収するという事。

栄養としてではなく、分かりやすく自らの力へと変換するための作業として行うのだ。

人間を取り込むということは、即ちある程度の知性を有するようになるという事。

権能を使えるかはさておき、モンスターが知性を得るというのはかなり面倒な事になるのだ。


それこそ、人間対人間で碌でもない発明がされるように。

モンスターはモンスターで、人間に近い知性を使い自らの能力を行使するようになる。

しかも、取り込む量が増えれば増えるほどに……さらに厄介になっていくのだ。

そのため、そういった系統のモンスターは発見され次第殲滅されるのが常となっているはずなのだ。


「くっ……くそぉ……!」


途中までは権能も使い、全力で逃げていた盗掘者だったが……行き止まりへと辿り着いてしまう。

背後には、いつの間にか口のようなものを新たに生やしている影のような人型のモンスターが迫っていた。

その口は、三日月のようだった。

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