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Epilogue


目を覚ますと、そこはどこかの建物の中だった。

どうやら寝台のような場所に寝かされており、鎧なども外されて動きやすい下着に着替えさせられている。


部屋はそこまで広くはなく、俺の寝ている寝台とその近くにある椅子と机程度しかない。

薬のような匂いがすることから、何処かの治療院なのではないかと予想し、息を吐いた。


「生き残ったか……」


身体を起こそうとして、全身に走った痛みに呻きながら寝台へと倒れ込んだ。

……俺は何日寝ていた?


ここに運ばれる、そして身体の治療まで。

それらを考えるに1〜2日ではないだろう。


「む?おぉ、皆!主人様が起きているぞ!」

「何?やぁっと起きたか!」


そんなことを考えながら天井を眺めていると。

部屋の外から聞き覚えのある声が2つほど聞こえてきた。

程なくして、部屋の扉が勢い良く開かれる。


「主人様!」

「にーちゃん!」

「……お前ら。察するにここは治療院だろう。そんな大声を出すんじゃない」


扉から現れたのは予想通り。

メアリーとティクルのおっさんだった。

メアリーはあの後にきちんと服を着たようで、白いワンピースのようなものを着ていた。


「まぁ、いい。とりあえず聞きたいんだが……俺は何日寝ていた?」

「そうだな……約3日といったところか?確かそうだよな、嬢ちゃん」

「うむ。あの後ここに運ばれてから3日と数刻だ。もう目が覚めないかと思ったぞ」


3日。

告げられた日数に思わず少ないなと思ってしまった。

当然だろう。それだけの無茶を俺はあの戦闘で行ったのだから。

むしろ3日で目覚められて幸運だったと思うべきだ。


「成程な……レンは?」

「アイツは今冒険者、教会、それとうちのギルドの三機関合同での取り調べ中だ。事がことだからってことでギルマスや、国から異端審問官が派遣されてるらしいぞ?」


異端審問官。国の抱える尋問などを専門に行う役人だったか。

そんなものまで動員されているとなると、レンのやっていた事はかなり危うい事だったのだろう。

実際の所、対峙した俺からすればあまりそんな実感は湧かないのだが。


「そうか。……すまん、ティクルのおっさん。少し頼まれてくれるか?ギルマスに俺が起きたと伝えてくれ。自分で行こうにも身体が言う事を聞かなくてな」

「ん?おう、お安い御用だ。行ってくる」


そう言って、ティクルのおっさんには席を外してもらった。

これからする話は少しばかり彼に聞かせるわけにはいかないためだ。

扉が閉まるのを確認すると、メアリーに視線を送った。

彼女は軽く頷くと、そのまま周囲に障壁を展開する。

音が少しでも漏れないようにするための障壁だ。


首謀者であるレンがギルマス達自ら出向いてまで取り調べ、尋問を受けている……となれば、実際に対峙した俺にも何かしらの監視がついていてもおかしくはない。

少しでも聞こえる確率を減らすためにはこういう工夫も必要なのだ。


「で、だ。その身体は?」

「実際の身体ではない……といえば間違いだな。私の身体ではあるが、肉体というべきものではない。魔力で構成されている……所謂魔力体とでも言った方がいい代物だ」

「成程な。あの鎧は?」

「あるぞ、というか。あの戦いの後、私の中に光となって吸い込まれた。強いて言うならこの服がそれだな」


そう言って、メアリーは自分が着ているワンピースを引っ張る。

彼女は先の戦いで突然肉体……メアリーに言わせれば魔力体を手に入れた。

今も俺の目から見ても全くどこが人間と違うのか分からない程度には、普通の人間と変わりない身体を。


「その様子だと記憶までは戻ってないと」

「そうだな……それに言えば、私は未だリビングアーマーのままだ。種族としては『デミ・アーマー』というものらしいがな」

「一応モンスターではあるのか……くそ、厄介だな」


『デミ・アーマー』というモンスターは聞いたことがないものの。

メアリーがモンスターから脱していないというのであれば、俺との契約(パス)は繋がったままだ、ということ。

つまりは、まだ。彼女との関係が切れていないことを意味していた。


「……お前はまだ、人間に戻りたいと思っているか?」

「戻りたいさ。こうやって人間のような身体を手に入れて、更にそう思う。私の在り方はモンスターではなく、人間側(そちら)なのだと」

「……お前はまだ、何故そうなったかを知りたいのか?」

「知りたいさ。私がなんでモンスターとなってしまったのか、それを知れるのならなんだってするし、実際に私はこうやって主人様と契約を結んでいるのだから」


答えを聞き、息を吐く。


「仕方ねぇ。まだ付き合ってやる。馬鹿な事しようとしたら教会に叩きだすからな」

「!正直主人様は私がこうやって身体を手に入れたから放り出すのかと思ってたぞ!」

「最初はそう考えてたんだがなぁ……」


今は少し、悪くないと考えている自分もそこには居た。

どういう心境の変化があったのか、自分では分からない。

良いところを見たわけでもない。ただ単に俺はこいつとダンジョンに潜って、【攻略】して、そして生還した。それだけなのだ。

だが、その中で俺にこう思わせる何かがこいつにはあったということなのだろう。


「さて。じゃあ改めて。……お前の主人となったトレジャーハンターのカナタ=リステッドだ。お前が人間に戻るまでの少しの間、手を貸してやろう」

「あぁ、主人様よ。……私は、新しく従魔となったリビング、いや『デミ・アーマー』のメア……メアリー=クライネだ。護る事しかできない身であるものの、少しの間厄介になる」


そういって、俺達はお互いの手を握る。

これからやることは多い。


間違いなくレン関連の取り調べに呼ばれるだろうし、それ以外にもダンジョンで得た宝を依頼者へと還元しなければならない。

ギルマスによる調査内容を吟味し、何か進展があるのならそれを調べねばならないし、それに俺の生き甲斐であるダンジョン【攻略】もしないといけない。


カナタ=リステッドは言うだろう。

『思えば、自分の人生の中での一番の失敗はあの鎧に触れた事だった』と。

しかし、こうも言うだろう。

『だが、それは自分の人生の中での一番の成功でもあった』のだと。


ありがとうございました。

これで終わりです。文字数は少ないですが、やりたいことはやったので。

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