Episode 27
勝負は一瞬だった。
といっても当事者である俺達には、その一瞬は永遠にも覚えた。
結局の所、ぐだぐだ頭を働かせた所で俺に出来る事はメアリーが加わった所で変わらない。
強化された身体で、近づいて制圧する。
それしかできないのだから、それをするしかない。
足に力を入れ。……地面が耐え切れず、亀裂が入り。
正面にレンの姿を見据え。……炎と氷の剣を構えた姿を確認し。
そのまま爆発するように、地面を蹴った。
今まで通りならば、俺の攻撃は障壁などによって防がれる。
しかしながら今回は違う。
メアリーがいるからだ。
特に指示することも、視線を向ける事もしない。
だがこれまで共に経験してきた戦闘から、そして今まで出してきた指示から。
俺が飛び出した瞬間、メアリーがいる方向から何やら光の線が伸びてきて。
それがレンの持つ両の剣に当たり、それらが霧散した。
彼女が使えるといった魔術である、極光魔術。
今では生活魔術と言われ、戦闘を行う魔術師でも冒険者でも俺達トレジャーハンターでも使わないようなそれを、彼女は戦闘用に……それも広範囲を制圧できるものとして使う。
俺は魔術には詳しくない。
それこそ、一般的に知られている程度や、少しだけ【攻略】に必要なものについて知っている程度だ。
だがだからこそ。それを知っているからこそ、彼女の使っている極光魔術がおかしいことは分かっている。
それの支援を受けながら、俺は進む。
レンに拳が届く距離。いつもなら多重に展開された障壁によって防がれるであろう俺の拳は、今回は何にも防がれる感触はない。
俺の身体の動きよりも先に、光によって多重に展開された障壁は割られ。
気が付いているのか必死に距離を取ろうとするが、俺の強化された身体能力には流石に分が悪いのか、すぐに追いつかれてしまった彼は諦めたように笑い。
しかしながら、その身体から濃い魔力を垂れ流した。
それを見て、頭に過ったのは心ノ臓。
それが爆発した時に垂れ流していた濃い魔力と似たものを感じた。
……面倒だが……。
俺は敢えて、何も防衛行動をとらずに更に一歩踏み込んだ。
何故か。答えは当然だろう。
俺は今1人で戦っているのではない。
(守り切ってみせるって言ったんだッ!これくらいやってみせろッ!!)
((言われずともッ!!))
俺の周囲に、障壁が新たに展開された。
レンが展開したものではない。メアリーが俺の身体を守るために展開したものだ。
俺からすれば元は鎧。身を守るためのもの。
だからこそ、今この場でその鎧に命を任せる。
俺の拳と、レンの身体が魔力によって光に視界が包まれたのが同時。
その後、拳が当たったのかは分からない。
感触がまるでなかったからだ。
しかしながら、心ノ臓が爆発した時は違い衝撃が俺に襲ってくることはなかった。
足はしっかりと地面に立っていて。
身体の感覚も、全身に走る痛みによってそこにあるというのを感じられた。
光によって一時的に灼かれた目が慣れてきたのか、周囲の景色が再度見えるようになったかと思えば。
俺の目の前の地面には、頬に殴られた痕のあるレンが倒れており。
俺の身体は、拳を振り終わった状態で固まっていた。
同時に、俺の身体は前へと倒れていく。
力が入らない。
死ぬわけではないとわかってはいるものの、少しだけ不安に思ってしまう。
そんな時だ。
「あ、主人様!?」
メアリーが慌てたように近づいてきたのが音と声で分かった。
そんなメアリーに対して、何か言おうと思ったものの。
つい声に出てしまったのが、
「お前、服を着や、がれ……」
「はぁ!?」
そんな言葉だった。




