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Episode 26


実体のない剣を、避ける事なく。

自身の拳によって吹き飛ばしていく。


俺の今の身体は、徐々に崩れていく砂の城のようなものだが……それでも。

無茶な強化の重ね掛けによって、その一つ一つの動作にはかなりの力が見え隠れしていた。

拳を振るえば、その拳に追従するように暴風が。

足を踏み込むだけで、地面は割れ……その蹴りは普通の障壁すらも容易く砕く。


そんな俺の攻撃を、目の前のレンという男は苦しい顔をしながらも、見事と言わざる手腕で捌いていく。


「はァ……ッ!」


要所要所に多重に障壁を張り、俺の攻撃の勢いを削ぎ。

足を踏み鳴らすことで、地面を簡単なゴーレムのような物に変え衝撃を殺し。

俺が痛みで動きが一瞬止まった瞬間に、手に持った炎と氷の剣で攻撃してこようとする。


戦闘を専門にしているわけではないものの……それでも見事と言わざるを得ないほどに戦闘慣れしている動きだった。

魔術師がどういう事を普段しているのかは分からない。

皆の発言から想像するに、研究をしているような職業ではあるのだろうと思ってはいるものの……戦闘を普段からしているとは思えない。


それに今の職業は、トレジャーハンター。

言ってしまえば、この職はそこまで戦闘をするような職ではない。

それこそ、守護者と戦うのならば話は別だが、基本的にはそれ以外戦闘の機会を潰すことを前提に動くのが俺達だ。


だからこそ。

彼の動きは、俺の目にはかなり異様に映った。


「はぁッ……!はぁッ……!!クソ、随分と余裕、そうじゃ、ないか!」

「そっちはここまで戦えるとは思えなかった。」


片方は息切れをしながら。

もう片方は自らの身体が壊れていく様を悟られぬように、平静を装って言葉を交わす。

俺の動きに着いていくのがやっとなレンが悪態をついてくるものの、俺も俺で限界が近いのだ。


息をするだけで、どこかが破裂するような痛みに襲われ。

指を動かすだけで、腕ごと持ってかれそうな感覚に襲われ。

考えるだけで、頭が捩じれてしまいそうになるほどの幻覚に襲われる。

無茶な強化の代償が、様々な形で俺の身体へと襲い掛かってきていた。


しかしながら、それを無視して俺は前へと一歩足を踏み出した。

それにびくりと震えるものの、新たに炎と氷の剣を生み出したレンには賞賛の拍手を送りたい。

俺がレンの立場だったらすぐに降参しているだろうから。


「ふんッ!」


雑に、技量もクソもなくレンに近づき、拳を振り上げ、彼へと下ろす。

馬鹿をやった子供を親が叱るように。

後できちんと話を聞かせるために、今だけは言う事をきかせるように。


しかし、その拳は届かない。

障壁によって俺の攻撃は寸での所で止められレンの目の前で動きが止まってしまう。

それを好機とみて、両手の剣を切り上げ、切り下げてくるものの。

それすら見てから反応出来てしまう。


力量など関係なく、単純に俺の身体能力が強化されたからこそ。

……これが実力者の視てる風景って奴か。

戦闘の巧い者、単純に強い者、そして技術に秀でた者。

それらが視ている世界というのは、常人である俺達とは違う世界だと常々言われている。


それはそうだろう。

今俺がやったような行動を常日頃……俺のような代償も無しに行っている連中だ。

視ている世界どころか、生きている世界が違う。そう素直に感じてしまう。


「クソッ!クソッ!クソォッ!!」


防御を捨ててまでこちらに剣を届かせようと我武者羅に腕を振るう姿を、どこか冷めたように、しかしながらどう手加減して制圧するかを考える。

剣が振られても、見てから良ければいいだけ。

魔術で大量の炎の玉を作られても、目で追って避けていけばいいだけ。

しかしながら捕まえようとしても障壁で邪魔をされる。


俺の拳や蹴りだけではどうしたって届かない。

いつの間にか手に持っていた短剣は、俺の握力に耐え切れずに破損している。

手が足りない。

素直にそう思った。


((手が足りない、か。主人様は私の事を忘れているようだな))


そんな時だった。

いつもよりも綺麗に頭の中に少女の声が響く。


確かに忘れていた。だってここまで何もしていなかったから。

確かに忘れていた。だって戦える状態だと思っていなかったから。

確かに忘れていた。だってもう既に鎧じゃないのだから。


(……手を貸してくれるのか。その姿を見るまで信じてなかった俺に)

((手を貸すも何も、私と主人様は主従関係。命令一つで馳せ参じよう。……さぁ、主人様。ご命令を))


俺が過去に言った事を、無理に自分風に言い直し。

俺にそう言ってくるのはこの場には1人しかいなかった。


メアリー(・・・)!」

「応、主人様ッ!」


メアリー=クライネ。

俺の鎧であり、人であり、そして今まで信用すらしていなかった人物。

そんな彼女が今、戦闘に再び参加した。


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