Episode 24
対応が間に合わなかった。
いや、対応を間違えたというべきだろう。
俺は焦るあまり、レンに対する対応を間違えたのだ。
その結果、何かを心ノ臓へと投げられ……それが今、破裂しようとしている。
「障壁!全力で張れッ!」
『言われずともッ!!』
何が起こるか分からないために、俺はメアに障壁を。
俺自身は焦ったように退避しているカリヤ達の方へと身体を動かした。
当然だ。目に見えるほどの濃い魔力を溢れ出している心ノ臓が破裂しそうになっているのだ。
破裂した時に何が起こるか分からない。破裂を食い止めるよりも、この場から逃げ出した方が自身の身のためだった。
しかしそれは叶わない。
この場には俺やカリヤ達冒険者の他にもう1人、レンが居る。
魔術の扱いに長けているらしいレンは、この状況でも冷静だった。
否、この状況を生み出した本人だからこそ、冷静だった。
「逃がすかァッ!!」
彼の叫ぶような声と共に、俺の足が何かに掴まれた。
がくん、と身体のバランスを崩しかけつつ足を見て見れば。
そこには太い太い、緑色の光を纏った何かの植物の蔦が絡みついていた。
……深緑魔術の拘束か!?
恐らくは普段から使えるように種か何かを持っていたのだろう。
それかこのダンジョンに自生している特有の植物か。
それを急成長させ、俺の足が動かないように拘束させた。
しかしながら、その拘束も俺に多重付与された権能を前にしてはほぼほぼ意味がないものだった。
一瞬でその拘束から逃れた俺は逃げようとして、それに気が付き笑ってしまう。
走ろうと前に出していた足をその場に下ろす。
「クソ……逃げられねぇ」
一瞬。しかし、一瞬。
……時間を稼がれた、か。道連れにするために……咄嗟に出来る判断じゃねぇな。
心ノ臓はそんな短い時間で限界を迎えたのか、濃い魔力と共に、内側から紫色の光を溢れさせながら膨張していく。
大きく、大きく。
それが倍以上の大きさになった瞬間、心ノ臓は破裂した。
光によって視界が埋め尽くされ、濃い魔力によって五感が狂わされ。
俺の身体がどこにいったのかも分からなくなってしまう。
何かが割れたような音が聞こえ、それと共に強烈な衝撃が身体全体に走った。
暫く……いや、正確には時間がどれくらい経ったのかも分からない。
戻った視界を元に周囲を見渡してみれば、俺はまだボス部屋にいるようで。
身体に走った衝撃はボス部屋の壁にぶつかったためのものだった。
怪我に関しては【身体強化】を発動させていたためか、もう身体を動かしても問題ない程度にまでは落ち着いていた。
鎧の方をみても、傷はついていてもどこかを破損した様子はなく少しだけ安心した。
……いや、何安心してるんだ俺は……。
「そうだ、レンは……!?」
まだ少しだけ痛む身体をおして、周囲を見渡してみれば。
目を惹かれてしまう光景がそこにはあった。
心ノ臓があった地点。
破裂したからか、それとも元々実体がなかったのか。
跡形もなく……それこそ、破片のようなものすらなく消え去っている心ノ臓。
それが在った場所に、何かが立っていた。
それには、長い金の髪が生えていた。
それには、碧眼とでもいうべき綺麗な目がついていた。
それには、俺という芸術品に興味がない人間でも『美しい』と思ってしまうほどの美があった。
それは……人間の少女だった。
それの近くにはどこか呆然としたように立っているレンがいて。
それは、こちらに目を向けると……にっこりと笑顔を浮かべた。
瞬間、何故か悪寒が走った。
あれを相手にしてはいけない、そう本能が語り掛けてきているような気がした。
身体は動く、それが分かっているからこそ……俺はそれから目を離し外に出ようとした。そう、出ようとしたのだ。
「……なんだよ、それ……」
しかしながら、俺の目には映ってしまった。
正確には、俺の付けている片眼鏡には映ってしまったのだ。
突然現れた、人間の少女の鑑定結果が。
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【メアリー=クライネ】
種■:■■■
■態■■
■■力:■バ■
魔力■■■■
保有■能:■
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思わず、手で鎧を触ってしまう。
そこには鎧は在った。
しかしながら、語り掛けてくることはなかった。
気が付けば、俺の首に刺さっていた触手のような何かは何処かに消えていて。
目を閉じてみれば、俺とメアを繋いでいた【契約】は鎧からは感じられなかった。
「どういうことなんだよッ!メアッ!!」
叫ぶ。
どうやら俺は思ったよりも、今の状態が受け入れられないようで。
【メアリー=クライネ】と表示された少女に向かって叫んでしまう。
そして、そんな俺に対し。
困惑したような顔をしながら、その少女は口を開く。
「いや、どうしたんだ主人様よ。というかコレは一体……えぇ?!なぁ!主人様!私!人間に戻ってる!!」
勝手に混乱しつつ、こちらに駆けてきた少女に困惑してしまう。
……どういう、ことだ……?




