Episode 22
進む。
影の中を一筋の光で切り開くように進んでいく。
俺を戦闘に、左右をカリヤとファミルが固める形でダンジョン内を駆けていく。
「時間との勝負ってわかっちゃいたがこれはキツイな!」
「文句言うくらい余裕があるならもっと魔力回しやがれ!メア!もっと乱発できねぇのか!?」
『無茶を言うな主人様!これでも限界ギリギリなのだ!!』
得意ではない直剣を振るい、近づいてきていた影を切り捨てる。
権能を使うことによって直剣自体を強化してやれば影に触れる事が出来ると教わった以上、俺が攻撃しないで駆け抜けるだけ、という選択はしなかった。
出来る限り急ぐものの、出来る限り影を倒しておいた方が生き残った後に楽になると分かっているからだ。
鎧からは凡そ一瞬毎に光の線が薄く放たれ、それに当たった影達は消滅とまではいかないものの。
こちらへ近づく足を止め、苦しむような動きでその場から動けなくなっている。
そこを狙い、進行方向にいる影達をカリヤとファミルが持前の剣の腕で処理し、俺が駆ける。
この状況が先程……宝物庫前の通路から出てからずっと続いているのだ。
ぼやくのも仕方ないだろう。
「ポーションの残りは!?」
「あと12!今のペースなら保つが油断は出来ねぇ数だ!どうする?!」
「こっちは5……仕方ねぇ。メア、もう少し頻度下げろ。俺達が危なくなったら撃て」
そして、この状況を継続させるために消耗していくものも存在する。
代表的なものが、一時的に魔力を回復させるポーションだろう。
冒険者や、魔力を扱うトレジャーハンターならば普通何本か持って然るべきものではあるものの、今の俺達の状況ではあまりその数がなかった事が仇となっている。
何せ、普段魔力を使わない面々がここに揃ってしまっているのだ。
カリヤとファミルは前衛……モンスターの眼前で、モンスターの注意を惹き後衛達の攻撃の準備が整うのをじっと耐えて待つ役割だ。
その役割に、魔力を普段使う必要はなく……使える権能は多いものの、魔術を使うという選択肢はほぼほぼ存在していなかったため、パーティ用の予備を数本持っていた程度。
俺だって、普段使うのは光の玉を作り出し周囲を照らす極光魔術や、身体の回復を促す深緑魔術程度で戦闘などで使うような魔術の選択肢は無いに等しいため……あまり持ってきていない。
そもそもポーション類でバックパックの容量がとられるのが嫌だったというのもある。
『いいのか?それでは負担が……』
「うるせぇ、こちとら全員魔力に頼らねぇ戦い方はお前より知ってんだ」
「ハハッ!確かにな!任せろ、ボス部屋までは持ちこたえてみせようじゃあないか!」
「ファミル……だが、そうだな。俺も剣士の端くれだ。いつまでも魔術に頼るだけじゃなく、自らの剣で道を切り開いてみせよう」
俺達3人の答えを聞いた鎧は少し沈黙し、小さく『了解した』と呟くように言った後、俺の指示通りに動き始めた。
最低限、俺達が対応できない位置にいる影だけを狙い撃つように光を放つ。
鎧の本当の仕事はここではなく、ボス部屋に辿り着いた後。
今あの心ノ臓がどうなっているかは分からないものの……それでも、この鎧が放つ魔術は有効打となりえるだろう。
少なくとも、俺らの使う物理攻撃よりは。
「出来る限りメアに頼らなければ、この後が楽になるぞッ」
「そりゃ良いこった!もっと気合入れっぞカリヤァ!」
「おっおい!お前はいつもそうやって先行して!」
俺の言葉に気合を入れなおしたのか何なのか。
少しばかり先程よりも速度の上がった剣の振りをみて、少しだけ笑ってしまう。
人間、『楽』に繋がる事には本気を出すものだ。
その過程がどんなに過酷であろうとも……その先に『楽』が待っているのならば、その過酷を飲み込んで先へと進んでいくことが出来る生き物だ。
今、この場面で鎧に魔術を温存させているのは俺達の魔力の残量にも関係はあるものの……それが冒険者の2人には良い方向に転がってくれたようだった。
『……主人様、少し身体の治療に魔力を回すぞ』
(……余計な事はしなくていい。多重付与なら時間さえあれば快復するのは知ってんだろ)
『だからこそだ。今、時間を掛けている暇はない。少しでも身体に負っている傷を減らしておく方がいいだろう?』
俺の頭の中に響くように語り掛けてくる鎧に、少しだけ舌打ちを漏らしてしまう。
鎧がそう言ってくるのは確かに分かるのだ。
宝物庫に辿り着く前……カリヤ達と合流する前までに使っていた【身体強化】の権能を多重付与していた為に、少しばかり身体に傷を負っている。
準備中にさりげなく【身体強化】を使い、傷の治療に努めてはいたものの。
未だ、身体には傷が残っている。
元々、権能を多重に掛けるという技術はそこまで多用するものではないのだ。
【身体強化】のように身体に過剰な負担が掛かるものや、【強化】のようにその権能を掛けたものに過剰な負荷を掛けてしまう。
それを少しでも軽減させるために、俺は深緑魔術を始めとした治療や修繕の魔術を少しばかり知ってはいるものの……それでも、少しでしかないのだ。
(チッ、道理ではあるのがムカつくところだ。だがお前がやる必要はねぇ。俺が俺自身で魔力を使う。そっちに貯蔵してある魔力は使わなくていい)
『……良いのか?』
(良い、というよりそれが最善だろう。お前を着ている俺が動けなくなるのが一番ダメだからな)
頭の中でそう答えつつ、俺は身体の治療用の魔術を発動させる。
それを見たカリヤ達が少しばかり驚いたような目を向けてくるものの……ある程度分かっていたのか、納得したように頷いて周りの影達を俺に近づけないように処理していった。
ボス部屋は、近い。




